声優挑戦の市川染五郎、幼いころには父・幸四郎とムーンウォークを練習

 2歳で歌舞伎座初お目見えを果たし、2018年の1月2日に八代目を襲名した市川染五郎さん。現在公開中のアニメーション映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』では初の声優業に挑戦しました。

 そんな染五郎さんに作品のことはもちろん、歌舞伎への思いなどを聞きました。

 ※本インタビューは2020年に行われました。

◆出演を後押しされた監督の手紙

――初めての声優のお仕事でしたが、やってみようと後押ししたものはありますか?

市川染五郎さん(以下、染五郎)「イシグロキョウヘイ監督からのお手紙です。ずっとチェリーの声を探していらしたそうなのですが、三谷幸喜さんが作・演出されて僕も出させていただいた新作歌舞伎を観てくださって。『やっとチェリーを見つけた』と思ってくださったと。すごく嬉しくて、監督の思いに応えたいと思いました」

――本作のストーリーで特に惹かれた部分を教えてください。

染五郎「山寺宏一さんが声をあてられたフジヤマさんの若いころと、チェリーに起きる出来事が交錯するような設定でした。でも物語の序盤ではそうなるとは想像できなかったので、面白い設定だなと惹かれましたね」

◆初声優に叔母・松たか子からのアドバイスは?

――叔母さまの松たか子さんも声のお仕事もしています。何かアドバイスは?

染五郎「まったくないです(笑)。そもそも今回のことが決まったときも伝えてません。アフレコが終わってから話したと思いますが、特に驚くでもなく『へえ~』って感じでした」

――チェリーは17歳なので、年上です。何か気を付けましたか?

染五郎「17歳という年齢は意識しませんでした。もともと実年齢より上に見られますし。でも声だけの演技というのはとても難しかったです。何年か前に『ハムレット』の朗読はしたことはあって、そのときに声だけの演技の難しさは痛感していましたが、やっぱり難しかったです」

◆父・幸四郎と一緒にムーンウォークを練習

――チェリーとスマイルはフジヤマさんの思い出のレコードを探します。染五郎さんの思い出の曲、好きな曲を教えてください。

染五郎「マイケル・ジャクソンのファンなんですけど、最初に聴いたというか、ミュージックビデオで見たのが『Bad』でした。あのときの衝撃は忘れられません」

――染五郎さんの世代でも衝撃を受けるんですね。

染五郎「最初はもっと古い人だと思っていました。でも全然違っていて、むしろ新しさを感じたんです。すごいと思いました。そういえば、父(十代目、松本幸四郎)がラスベガスで歌舞伎をやったとき、ちょっとだけムーンウォークをやったんです。マイケルのお面をつけて。その稽古を家でもしていたので、僕も一緒にやっていました」

――では、染五郎さんもムーンウォークができる?

染五郎「一応。でも外では披露してないですし、恥ずかしいのでするつもりもありません(笑)」

◆歌舞伎の化粧が嫌だったことも

――染五郎さんは普段から歌舞伎、お芝居が大好きだとお話されていますが、まだ10代です。そうした環境が辛いと思ったことはありませんか?

染五郎歌舞伎役者で嫌だと思ったことはないです。歌舞伎の化粧が嫌だと思ったことはありますけど。下地で鬢付(びんつ)け油を付けるのですが、かなりゴシゴシ塗るんです。子どもの頃は人にやってもらっていたので、痛いしベトベトするしで、それが嫌だったのだと思います。でもほかはないですね」

――染五郎さんからは、歌舞伎をクリエイティブで新しいものを生み出していく芸術という意識が強いのかなと感じます。

染五郎「そうですね。もちろん古典もきちんとやらないとダメだと思っていますが、一方で新しいこともどんどんやれるようになりたいと思っています」

◆78歳、祖父・白鸚はいまも一番声が出る

――こういう大人に憧れるといった像はありますか?

染五郎いろんなことに挑戦している人に憧れます。自分もそうなりたいなと思いますし、具体的に挙げるなら父です

――お父様から色々なことを教わっていると思いますが、特に肝に銘じている教えはありますか?

染五郎「あまり父は自分の考え方を具体的に口にはしません。祖父(二代目、松本白鸚)は口にします。祖父はミュージカルなどもよくやっているので、とにかく声がすごくて、発声法がよく分かっています。のどをつぶしているところを見たことがありません。いま78歳ですが、今も誰よりも声が出ていてすごいなと思います。祖父からは、子音でも母音を強調して意識して言うようにすると、のどをつぶさないとか、そうした発声に関することはよく言われますね」

◆日本語の美しさを感じてほしい

――最後に読者にメッセージをお願いします。

染五郎「『サイダーのように言葉が湧き上がる』には俳句がたくさん出てきます。これまで触れる機会がなかったという方にも、俳句って美しいんだな、日本語って美しいんだなと思ってもらえれば。日本語の美しさというのは、歌舞伎にも通じるところですし、そう感じてもらえたら嬉しいです」

(C) 2020 フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

<撮影・文/望月ふみ>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi

2021/7/27 15:44

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