元カレのことをずっと引きずる社長令嬢。家柄も良くない別の男と、妥協して結婚したら…

「愛ではなく、金目当てで結婚するのは女性だけだ」という考えは、もうひと昔前のものなのかもしれない。

男にだって“玉の輿願望”があると、私たちはなぜ気づかなかったのだろう。

これは逆・玉の輿で成り上がりたいと願い、夫婦になった男と女の物語。

あなたの周りにも、逆玉狙いの男がいるのかも…?そこのお嬢さんも、どうぞお気をつけて。

▶前回:“金目当て”で開業医の一人娘を射止めたけど…。結婚後に発覚した、まさかの誤算

片親育ちのワイルド系男子・雄也(32)

『オーガニックの玉ねぎ買ってきて~』

妻の綾から、いつものようにLINEが届く。絵文字やスタンプがない素っ気ないメッセージにも、もうすっかり慣れた。

『は~い、わかった!もうすぐ帰るね』

物わかりのいい夫を演じるように、明るく返信する。…我ながらなかなかいい夫だと思うし、そんな俺はもうすぐ父にもなる。

綾と結婚したのは、3年前。お互い29歳のときだった。

「あ、お弁当作ってきたからごめん~」

同期からのランチの誘いに決まってそう返し、弁当を広げていた綾のことを、密かに「いいな」と思っていた。

父子家庭で育ったため、家庭的な一面のある女に憧れがあった。しかし綾が弁当を作ってくるのには、ある戦略もあったようだ。

「みんなとランチに行くのは、1週間に1回とかかな?たいして仲良くない同期と食べに行くの、面倒だから。毎日お弁当だと思われた方がいいの」

仕事終わり、帰りのエレベーター内ですれ違った綾に尋ねると、そんな答えが返ってきたのだ。以来、小悪魔的な彼女を意識するようになってしまった。

だから“会社では見せないプライベートな彼女”を偶然見てしまったときは、結構ショックを受けたのだ。

雄也が見てしまった、綾の“ある一面”とは…?

「さて、帰るか…」

残業を終え21時過ぎにオフィスを出た、ある夜。ロビーを通り過ぎようとしたとき、そこに揉めている男女がいた。

「別れよう綾。俺たち、もう難しいと思う」

「絶対無理!やだよ、悲しい…。なんで?」

その女が綾だったことにもビックリしたが、相手の男が社内でも有名な先輩だったから驚いた。

とにかく仕事ができて隙を一切作らない、周囲からの信頼も厚い男。そのうえ整った顔立ちは、男でも惚れ惚れするほどだった。

― まさか2人が付き合ってたなんて。

自分の知らない綾を知っている。そんな先輩への嫉妬の感情にも見て見ぬフリをして、その場をすぐに立ち去った。すると直後、綾から電話がかかってきたのだ。

『変なとこ見られちゃったね…。ごめん』

どうやら別れ話をしている場面を見られたことに、彼女は気づいていたらしい。

『大丈夫?…ねえ。いろいろあると思うけど、俺にしておきなよ』

感情を抑えきれずにそう伝えると、まさかのOKをもらえてしまったのだった。

そんな偶然のおかげで、綾を手に入れることができてから、5年ほど付き合った。

当初は「家庭的な彼女とすぐにでも結婚を」と思っていたが、なかなかプロポーズまで踏み切ることができなかったのだ。…理由は、義実家との問題だった。

綾の実家は大手のインフラ系企業を経営していて、地主でもある。そのうえ彼女は一人娘だったのだ。

「雄也、気にすることないよ!私の人生だから」

そんなふうに明るく言ってくれていたが、ご両親のお許しがすぐに出るはずがなかった。

成功している大人は皆、敏感だ。2人の育った環境が違いすぎることに、気づいていたのだろう。

自分の母親は男を作って出ていってしまい、男手ひとつで育てられた。あまりにも身分違いな綾と別れた方がいいのではないかと考えたことも、たくさんあった。

それでも綾は「大丈夫!幸せだから」と優しく励ましてくれたのだ。そんな彼女の温かさが、大好きだった。

…それに家柄の良い彼女を手放すのも、次第に惜しいと思うようになり始めた。

「仕方ないね、これから綾を頼みますよ」

成城にある豪邸の水盤付きテラスで、義父からやっと結婚を認められたのが、付き合って4年以上経過した頃。

ようやく結婚の許しを得て、彼女を必ず幸せにすると誓った。…だけどその直後から、綾が少しずつ変わっていったのだ。

「だから、これじゃない!国産のお肉しか食べられないって言ったじゃん」

「もっとキッチリした服を着て!お願いだからちゃんとしてよ」

これまでは優しく温かな性格だったのに、まるで厳しい母親かのような口調になった。

それは妊娠中のイライラかとも思っていたが、あるとき突然、その真相を知ることとなったのだ。

妻の性格が、とたんにキツくなったワケとは?

「ただいま!帰ったよ~」

それは、ある夜のこと。ただいまと言っているのに綾の声が聞こえず、リビングへと向かう。

すると窓の外を見ながら、誰かと電話をしている彼女がいた。

「家柄がいい男みたいに変なプライドないし、最高!でも恋しいけどね。山内先輩のこと思い出すと、雄也にイライラするの。だから子どもができて良かった」

本音を漏らす綾は、こちらに気づいていない。何も聞いていなかったフリをして、再び家を出た。

― 綾と別れるなんてありえない。

片親育ちで、肩身が狭かった自分。だけど綾と付き合ってからは、そのことなどすっかり忘れていた。

厳しい母親のような綾を好きかと聞かれると、もう違うのかもしれない。けれど彼女との結婚によって手に入れた“勝ち組の人生”を手放すなんて、考えられないのだ。

それにどんな夫婦だって、いつしか好きという感情など消えてなくなると思う。…だから、これでいいのだ。

綾「適当な結婚相手が決まるまでの、一時的な相手だと思ってた」

元カレである山内先輩は代議士の家系で、付き合い始めた当初から結婚を考えていた。だから、振られるなんて想定外だったのだ。

雄也のことは、ただの同期だと思っていたし、想いを伝えられるまで男として見たことなど一度もなかった。

あの夜。振られてヤケになった私は、すぐに雄也と付き合った。案外いい奴だとは思ったけれど、彼の家柄のことを考えると、結婚はできない。

だからちゃんとした結婚相手が決まるまで、雄也と一緒にいようと思っていたのだ。

価値観や生活のズレもあったが、関係の終わりが見えているから優しく振る舞えたし、つまらない話でさえ笑顔で聞いた。

それが突然、雄也と結婚することを決めたのには理由がある。それは彼と付き合って4年半ほど経った、ある日の出来事だった。

父から、こんなことを言われたのだ。

「後継者のいない会社を売却するか、悩んでいるんだ。…綾の付き合ってる彼が優秀なら、うちの会社に入れていずれ継がせるのはどうだ?」

「え…。それって」

「そうだ、結婚していいぞ。それで子どもでも作ってくれ」

この一言で、私は雄也を選ぶのが「正しいのだ」と自覚した。普通の人に、この感覚はわからないだろう。

けれど偉大な親を持った人ならば、この正しい選択の大切さが理解できると思うのだ。

何百人もの社員の生活が、経営者である私の家族にかかっている。だからパートナーに対して、恋とか愛の感情なんていらない。

確かに雄也は、経営者候補としては優秀だった。

でもちょっとした価値観のズレを感じたとき、彼のことが心底イヤになる。そのたびに、もう遅いけれど山内先輩が恋しくなるのだ。

最近は余計な面影を忘れるためにも、子どもを授かれて良かったとホッとしている。

…無事生まれてきてくれたら、雄也へのイライラも少しは減るだろうか。

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お嬢様にモテなかった勘違いサラリーマンが選んだ、結婚相手は…

2021/7/22 5:04

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