中卒の経営者が、まさかの年収1億に…。そんな男が惜しみなく金をつぎ込むモノとは
アッパー層が集結する街・東京。
その中でも特に裕福な、純金融資産“1億円”以上の富裕層はどのくらいの割合か、ご存知だろうか?
ある統計によると 「日本の全世帯のうち2.5%程度」というデータがあるらしい。
なかなか出会えない、2.5%の富裕層たち。
レアな生き物である彼ら"かねもち"たちの、ちょっと変わった生態を覗いてみよう。
▶前回:大物芸能人を親に持つ、傍若無人な“ボンボン”たち。歯止めが効かない彼らを黙らせる秘密兵器とは
ベンチャー企業に転職したての若手営業マン・高橋(25)
「うーす、高橋!今日も元気か〜?さっそく始めてくれ!」
新小岩にある1DKのマンション。小さなダイニングテーブルに置いたMacBook Airから、割れんばかりの大きな声が鳴り響く。
Zoomの画面いっぱいに映る、よく日焼けしてハツラツとした顏は、所属する会社のトップ・岩田社長だ。
負けじと明るい声で「おはようございます!!」と挨拶すると、定例になっている今週の営業目標について情報共有を始めた。
大手インテリア会社から今の会社に転職してきて3ヶ月。ただのヒラ営業マンにすぎない俺が、直々に社長と会議できるチャンスをもらえるのは、さすがベンチャー企業といったところだろうか。
いや、一概にそうとも言い切れない。きっと社長がここまで社員と近い距離を保てているのは、ひとえに岩田社長の人柄によるものだ。
彼にZoom上で資料を見せながら、俺はチラッと本棚に目をやる。
背の高い本棚の、一番目立つところに燦然と輝いている一冊の本。それこそが、俺に大きな衝撃を与えた岩田社長の著書…。
『あの日、年収1億を超えると誓った』なのだ。
どぎついタイトルの自伝ビジネス本。その波乱万丈の内容
岩田社長は、かなり特殊な経歴を持つ経営者だ。
学歴は高校中退。元ボクサー。
でも、持ち前のガッツとユーモアでコンサル兼コンテンツ制作会社を起業し、最近ではVRコンテンツ制作を手がけるなど、このコロナ禍でも確実に業績を伸ばしている。
しかも高学歴とは言い難いはずなのに、博識なのだ。
「健全なる精神は、健全なる身体に宿る」という言葉を座右の銘とし鍛え上げられた肉体は、とても47歳には見えない。
今の奥さんは5回目の結婚相手。社員を“家族”と呼んで、成長をリードしてくれる懐の深さ。社員を守るために、どこよりも早くテレワークを導入してくれた。
父親が莫大な借金を作り一度は死を考えたという岩田社長だが、海外放浪中に様々な経験を経て「年収1億」を目標に。
そして、やすやすとその夢を叶えてみせるという、はじけんばかりの人間力に満ち溢れた人なのである。
自伝的な要素をたっぷり盛り込んだビジネス本『あの日、年収1億を超えると誓った』を手に取ったとき、俺の人生はどん底だった。
明治大学のラグビー部を経て、トップリーグで活躍するはずだったのに…。まさかの度重なる怪我で泣く泣く断念し、不本意なサラリーマン生活を送る毎日。
そんなときに岩田社長の生き様を知り、人生は何度でも挽回できることを教えてもらった。
気がつけば、体が勝手に転職活動をしていた。そんな勢い任せの俺を真正面から受け入れてくれる岩田社長に、心の底から惚れ込んでいる。
― 岩田社長に認められたい。岩田社長を超えたい!
俺が毎週この時間に岩田社長との面談を申し込んでいる理由は、そんな一心からだ。
営業目標についてのミーティングが終わると、岩田社長は少しの時間だけ人生相談に乗ってくれる。それが何よりの楽しみだ。
― 今日は、朝の有効な使い方について聞いてみよう!
終わりかけの資料を説明しながら、俺は頭の中で岩田社長への質問リストを整理する。
しかし、最後の資料を説明し終えたそのとき。岩田社長がこう言った。
「なあ、高橋。悪いけど今日、このあと10時からジムの時間なんだ。体を鍛えることの大切さ、お前ならわかるだろ。いつもみたいに時間がとれなくてごめんな!」
「あっ…。そうなんですか!わ、わかりました、大丈夫です!」
期待で膨らんでいた気持ちが、空気が抜けるように萎んでいくのを感じる。
でも仕方がない。「健全な肉体を作ること」を社長が何より大切にしていると、俺は重々承知している。
それに、今の時刻は9時55分。10時からジムなのに、こんなギリギリまで俺とのミーティングに付き合ってくれるなんて、やっぱり岩田社長の懐は深い…。
と、モニター上の時刻を確認しながらそこまで考えて、俺は耳を疑った。
「10時からジム!?今、9時55分ですよ!絶対間に合わないじゃないですか」
― このままでは、社長自慢の筋肉が損なわれてしまう…!
だが、慌てふためく俺を画面越しに見つめながら、岩田社長は全く動じない。それどころか得意満面な笑みを浮かべて、意味ありげに俺に語りかけるのだ。
「おい高橋…。まさかお前、俺がまだ“普通”のジムで消耗してるとでも思ってるのか…?」
遅刻ギリギリなのに余裕を見せる社長。その言葉の意味とは
「え…?すいません、どういう意味ですか!?」
岩田社長の意味するところがわからない俺は、素直に質問する。わからないことは恥ずかしがらずに聞く。これも社長の教えだ。
しかし社長の答えは、なおも意味がわからない。
「高橋、お前も成功したいなら覚えとけ。令和の成功者はもうジムに呼ばれたりしない。ジムの方を呼びつけてやるんだ。よし、見せてやろう!」
そう言ったと同時に、社長側のカメラが大きく揺れた。どうやらZoomのつながっているタブレットを持って移動しているらしい。
カメラは広々としたリビングを抜け、大理石張りの玄関を出ると、マンションのホテルライクな廊下を進んでいく。
そして、すぐ隣の部屋の玄関を開けたかと思うと、20畳はありそうなリビングが映し出された。
そのリビングには、まるで一流のスポーツジムのように、最新フィットネスマシンが所狭しと並んでいたのだ。
「どうだ〜高橋!隣の部屋をジムにしたぞ。このご時世、ステイホームで安全に健康増進しなきゃだろ?」
急にインカメラになった画面に、岩田社長の満面の笑みが映し出される。
そしてその肩越しには、巨大なスミスマシンを調整するマッチョなパーソナルトレーナーの姿。見覚えのあるその大きな体は、ラグビー日本代表として活躍中の熊本選手に違いなかった。
「ちょ、ちょっと!そこにいるの熊本選手ですか!?」
「どうせならパーソナルトレーナーも一流じゃなきゃ。一流スポーツ選手がレッスンしてくれる、パーソナルトレーニングマッチングサービス。次の新規事業はこれでいこうと思ってる!」
「やる」と決めたら、とことん。
それがポリシーの岩田社長は、ステイホームを社長自らが誰よりも実践するために、マンションの隣の部屋を買い上げてプライベートジムにしてしまったのだという。
岩田社長の住まいは、確か芝浦のタワーマンション。気軽に「隣も買った♪」と言えるようなコンパクトなお値段では決してないはずだ。
あまりのスケールのデカさに開いた口が塞がらない。すると社長の背後から近づいてきた熊本選手が、こちらに笑いかけてきた。
「ここまでのスケールじゃなくても、ご自宅にジムを作ってトレーナーを呼ぶおかねもちの方、今すごく増えてますよ!高橋さんもいつかぜひ呼んでくださいね!」
熊本選手を待たずしてアームカールを始める岩田社長は、荒い息遣いで「じゃあな、高橋!また来週話聞かせろよな!」と言うと、手早くZoomを切ってしまった。
ダイナミックでドラスティックな岩田社長ワールドが消え、代わりにモニターに映し出されたのは、取り残された俺の間抜け顔。
人生の師である岩田社長のバイタリティと、憧れの熊本選手の精悍な顔つきと比較すると、それはどう見てもしけた青二才の顔つきだった。
「くっそー、世界が違いすぎる。俺も絶対いつか岩田社長に追いついて、熊本選手にパーソナルトレーニングをしてもらうぞ!」
ふつふつと闘志が湧き上がる。俺は本棚からバイブルを手に取ると、それをケトルベル代わりにしながら、声にならない叫びを上げてスクワットを始めた。
「目指せ!年収1億円…。いや、2億円〜〜〜!!!」
新小岩1DKの俺の部屋には、まだなんのフィットネスマシンもない。
いつかどデカいプライベートジムを手に入れることを夢見ながら、俺はわずか10畳のリビングで、無我夢中に現役時代ばりのスクワットを続けるのだった。
■かねもちのへんな生態:その6■
ジムに「行く」のではなく、ジムの方から「来る」かねもちがいる
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