バイきんぐインタビュー#2 小峠「単独ライブは、芸人でありつづけるためにやらなくちゃいけないことの一つ」
小峠英二と西村瑞樹がバイきんぐを結成してから今年で25周年。7月17日と18日の2日間、2年ぶりの単独ライブ「STRAIGHT」が開催された。単独ライブチケットは常に入手困難なほど人気の彼らだが、今回からオンラインで配信され、18日の公演では生でのVR配信も敢行。新たな試みを続けるバイきんぐの2人が、インタビューに答えた。(第2回/全3回)
―今年は、配信を初めて行います。
西村「会場の席数も減っているので、たくさんの人に見てもらえるようにっていうのはいい試みですよね」
―ふつうの配信と、今回は生でVRでの配信も行われました。
西村「VRは……セクシービデオでしか見たことないんで(笑)。それを、お笑いライブに導入するのは面白いなと思っていました」
―VRのセクシービデオはお好きですか?
西村「何回か見たんですけど、あんまりでしたね。なんかせわしないっていうか。詳しい話をすると……。完全にこう、頭に装着する型の機械を持ってるんですよ僕。それで見てたんです。1人でそういう行為をするとき、自分の隣にティッシュを置くんですね。あらかじめセットしておいて、そこで処理するみたいな。でも装着する形だと、最終的にいよいよの瞬間、メチャクチャせわしないんですよ」
―せわしない?
西村「野球のキャッチャーがファウルボールを捕るとき、マスクをパッと投げ捨てるじゃないですか。あんな感じ。機械を投げ捨てて、出すみたいな。外さないとどうなってるか分からないから。あれがちょっと、僕には向いてない」
―外さないとだめですか?
西村「やっぱりいろいろ位置が分からないから。手さぐりする余裕がない。あれは僕に合わなかった」
小峠「先に何枚か取ってやるけどな、ふつう。」
西村「いやいやそこは人それぞれだから……十人十色だろそれは」
―やはり長年やってきたやり方は変えられない?
西村「そうですね。僕には向いてなかった」
―映像自体は臨場感があっていいですか?
西村「まあそうですね。いままで普通に見ていたのが、実際にこう臨場感が……衝撃でしたね最初は」
―すごかったですよね。
西村「それくらいの衝撃を今回の単独ライブでは与えたいですよね」
―演じる側としては、いちばん生のお客さんに見てもらいたい?
小峠「結局そうですよね」
―生のお客さんに見てもらうことで、一番いいことは何ですか?
小峠「単純に僕は音楽が好きでライブハウスとかよく行くんですけど、やっぱりいいですよね。“ライブ”というものは。やっぱり、生でその人を見て、その人の動く口からその人の声が出て。で、それを楽しそうに見てるお客さんの笑い声を耳で聞いて。……やっぱライブというものはいいものじゃないですかね」
―1回限りのその場にいらっしゃるのがいい?
小峠「同じライブなんか、二度とないですから」
―やっぱり1回限りなのがいい?
西村「そうですね。初日と2日目でやっぱり変わりますから。同じじゃないんです」
―一度限りの体験というか……。
小峠「そうなりますね」
■小峠「もう反応オンリーですね。ウケるか、ウケないか」
―それは、ネタ自体の中身を変えるということですか?
西村「初日の反応を見て変えることもあります。ここをこうしたり、みたいな……前に、ネタ一本なくなった時もあったよな? まるまる止めたときも」
小峠「うん。あった」
西村「あんまりよくなくて、ネタごと止めたみたいなことが……」
―そんなこともあるんですか、
小峠「ありましたね」
ーこれは成功だったな、とかうまくいかなかったな、と思う基準はありますか?
小峠「もうお客さんの反応オンリーですね。ウケるか、ウケないか」
―ウケない、というご経験はありましたか?
小峠「作家さんを本格的に入れてやりだしたのが、3、4年くらい前からなんですよ。それまでは、もうほぼ僕1人ですね。ネタが9本あったら、1本くらい作家さんと作るみたいなのもありましたけど。でも、一緒に作るっていっても、結局、最終的に僕が書きますので。もう全部自分で書いてた。1から10まで。
それで、3,4年くらい前に“もうそろそろ作家さんを入れてやってもいいんじゃないか。そこまでやらなくてもいいんじゃないか”って思うようになって。何から何まで1人で全部やらなくていいんじゃないかと思うようになって。
それで、3、4年くらい前から作家さんを入れるようになって、一緒にネタを作るようになった。そこから、よくなりましたね」
ーそうなんですね?
小峠「やっぱり、僕1つの脳みそと、作家さんが2人入った場合3つ脳みそがあるわけですよ。やっぱりそれは違うなと。そこからやっぱり、ライブのクオリティ、1本1本ネタのクオリティも上がりましたし、そんなに変なネタというか、スベるような、よくないネタはあんまりもうないんじゃないですかね。ここ3、4年は」
西村「やってみないと分からないというのがあるわけですよ。ウケるかウケないか。だから、やる前からどうこう、というのは絶対ないですね」
―なるほど。やってみないと分からない。不思議なものですね。よくないときはあるんですね。
―よその芸人さんのライブを観ることは?
小峠「今はあまり見なくなりましたね。昔はよく行ってましたけど」
―印象に残っているよかったライブはありますか?
小峠「東京03さん、あとハリウッドザコシショウさんのライブとかは、やっぱり面白かったです」
―印象に残っている面白かったポイントとかはありますか?
小峠「結局、よく笑ったってことですね」
―西村さんはいかがでしたか?
西村「僕も、スケジュールが合えばザコシショウさんの単独ライブは毎年観に行っていて。パワーが違いますよね。積んでるエンジンの出力が違います。圧倒されるし、メチャクチャ笑わされるし。スゲェな、としか思わないです」
■西村「単独ライブをすると“夏が来たな!”と思いますね」
―単独ライブは毎回DVD化されるということですが、映像というのは、ご自身の意図どおりになっているものなんでしょうか?
小峠「あ、でもDVDにする前に、1回チェックしますね全部。で、“ここはこっち(カメラ)抜いた方がいい”とか“ここは引きで全体を映した方が分かりやすい”とか。それは1回見て指摘してるんで、出てる(商品化してる)ヤツは……。過去のDVDとか見たらたまに、“あ、こういう撮り方したらよかったな”と思うことはあります」
―なるほど。
西村「ただやっぱり、変わっていってるから。昔のを観たら“全然言い方がよくないな”とかはありますけどね」
―言い方のタイミングとか?
西村「まあ言い方とか、声の出し方とか……」
―日々積み重なってるものがある、ということですよね。毎年の単独ライブで成長してくようなイメージです。
西村「それはやっぱりありますね」
―やはり1年の区切りとして、大事なもの?
西村「そうですね。だいたい夏にやってるんですけど、“夏が来たな!”と思います」
―風物詩になってるんですよね。
西村「今は風物詩みたいな感じです」
―基本的に芸人さんは、単独ライブをするものですか?
小峠「どうなんでしょうね? でも、分かれるんじゃないですかね。やってる人とやらない人と」
―ほかの芸人さんのことは分からないかもしれませんが、やる人はなぜ単独ライブをやるんでしょうか?
小峠「うーん……何でやるんだろう。(長考して)そういわれると、なんでやってるんだろうね?」
―お二人は、なぜ単独ライブをやろうと思ったんですか?
小峠「さっき言った、ネタを1年間の間に作るのが1つあって、それと、もう1個。この先ずっと芸人でやっていくうえで何個かやらなくちゃいけないことがあると思ったんですけど、その1つが単独ライブですね」
―そうなんですか?
小峠「ネタを作り続けるっていうんですかね。やらなくちゃいけないことの1つではあるな、とは思ってますね」
―それは単独ライブを始めた頃からあった気持ちですか?
小峠「はい。いちおう『キングオブコント』で優勝して、ネタで世に出た人間なので。やっぱりネタはやっておかなくちゃいけないのかな」
―やり続けなければいけないこと?
小峠「なんか、そうですね」
■小峠「“ネタ筋肉”を鍛えています」
―なんと言えばいいんでしょうか?
小峠「トレーニングっていうのも、もしかしたらあるかもしれないです。『キングオブコント』で優勝したときっていうのは、その年で一番面白いネタを書けたわけじゃないですか。“ネタを書く能力を落としたくない”っていうのは、ありますね。
あの時はネタのことしか考えてなかったから。優勝してからは、いろいろ景色とか変わってきたので、そこまで問い詰めることはなくなりましたけど。やっぱり、それなりのネタを書ける技量というか、それは落としたくないなって。ある程度までは仕方ないですけど、それを落としたくないのはちょっとあります。
だから、ずっとネタをやってなくて。久しぶりにネタをやるってなって、じゃあその人が果たして面白いネタを作れるかってなったときに、僕は正直そんなことはないと思うんです。ずっとやってないと、やっぱり落ちてしまうんじゃないかと思うんですね。そこの能力がどうしても」
―なるほど。
小峠「まあ“お笑い筋肉”とでも言うんですかね。“ネタ筋肉”というか分からないですけど」
―それを、ネタを9本作る時とかに役立ってるというか、続けることで芸人さんとしてやっていける?
小峠「それはあるかもしれないです」
―メチャクチャカッコいいですね。
小峠「昔バーッとネタやってた人が久しぶりにネタやるとき、新ネタだったらいいんですけど、昔のネタをやるってなったとき、面白いよりも懐かしいってなっちゃうじゃないですか。それはそれでいいと思うんですけど、僕は“やっぱり面白いな”でいつづけていたいですね」
―懐かしいよりも、面白い。
小峠「別にそういう人たちを否定することではない。その人たちのやり方があるんでしょうけれど、僕らはずっとネタをやってて、昔のネタをやっても新ネタをやっても“やっぱり面白いな”っていうのが、理想ですね」