可愛い見た目に反して猛毒が潜む『プロミシング・ヤング・ウーマン』

《text:宇垣美里》

色とりどりのキャンディーのようにスイートで鮮やかな色彩、ポップで踊れるサウンドやガーリーな衣装がスタイリッシュでかわいい『プロミシング・ヤング・ウーマン』。エメラルド・フェネル監督が「女の子が好きなものを再利用して恐ろしいものを作りたかったの」と言ったこの映画には、可愛い見た目に反して猛毒が潜んでる。デートムービーだと思って観に行ったらとんだ目に逢うだろう。

題名の通り“未来を約束された若い女性”だったはずのキャシーは、ある事件によって医大を中退。昼間はカフェの店員として働きながら、夜な夜なクラブで泥酔したふりをして、女性をお持ち帰りし弄ぼうとした男どもに裁きを下していた。

ある時はスリラー、ある時はラブコメ。ミュージカル調に歌って踊ったかと思えば、愚かな男を真顔で詰めて震え上がらせる。メイクと表情で雰囲気をがらりと変え、恋の喜びも忘れられない怒りも孤独も決心も、全部ひっくるめて見事に表現した主演のキャリー・マリガンの怪演は必見。ジャンルをひょいと飛び越え見る者を翻弄する一方、全編を突き通しているのは“性暴力を笑いごととして消費させてたまるかよ”という太い芯だ。

むっとした顔をすれば「女だろ?にっこり笑え」。

赤い口紅を引けば「女は化粧しすぎだよ 男は化粧が嫌いなのに」。

聞き覚えのありすぎる男性描写の数々に対し、「何やってんの?って聞いてんだよ」とドスの効いた声で問い、タイヤレンチでフロントガラスをぶち破るキャシーの姿に、ぽかんと間抜けな顔で受け止める男どもに、笑ってしまった後涙が出た。ずっとそう言ってやりたかった。

復讐の対象は送り狼たちだけには止まらない。“前途有望な若い男性”を守るために被害者の訴えを握りつぶした人、男の前で泥酔した女にも落ち度はあったと嘯いた人、下世話なゴシップを一緒になって笑った人も立派な共犯者だ。果たしてこの映画を見て自分は関係ない、みたいな顔ができる人がいるのだろうか?性犯罪はいつも被害者の落ち度ばかりが責められる。「隙があったんだよ」とか、本当に言ったことない?

復讐は何も生まない、大切な人は帰ってこない。でも、許せなかった。どうしても、どうしても、どうしても。だって親友だった。彼女のことを愛してた。ボロ切れのように扱って笑ったくせに、あいつらみんな、彼女のことをとっくに忘れてる。人間はやり直せないとは言わない。だから何度も確認した。でも、彼らは後悔すらしていない。私も忘れて一人幸せになんてなれない。自分が正しいとは思わないけど、こんなの許せるわけなくない?

前言撤回、やっぱりこの映画、デートにぴったりだ。もし彼氏がこの女こえー、とか言って笑ったとしたら、そんな奴さっさと捨てたほうがいい。

(text:宇垣美里)

■関連作品:

プロミシング・ヤング・ウーマン 2021年7月16日よりTOHOシネマズ日比谷、シネクイントほか全国にて公開

© 2020 PROMISING WOMAN, LLC All Rights Reserved.

2021/7/16 18:10

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