『物語なき、この世界。』三浦大輔の新作舞台は「世界の矛盾点にツッコみ、こねくり回したコメディ」

直截なタイトルだ。『物語なき、この世界。』

――今や日本を代表する劇作家、演出家、映画監督としても知られ、人間の深層にメスを入れて解剖する三浦大輔の書き下ろし、3年ぶりとなる新作舞台である。

◆人生にドラマチックな「物語」を求める人々。それを否定し実験する

 売れない俳優役に岡田将生、同じく燻ったミュージシャン役には峯田和伸が。岡田とは映画『何者』(’16年)で一度組み、もはや峯田は三浦作品の“同伴者”と言える。

「2人の共演ありき、で台本を書いていったんです。峯田君とは映画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(’10年)が初めてでしたが、もともと自分をさらけ出す彼の歌が大好きでしたし、ご一緒してからは物づくりの同志です。岡田君もパブリックなイメージはキリッとした好青年ですけど、感性的には僕らの仲間というか、ネガティブな面も隠さない。

 今回は峯田君ともども、これまで纏ったことのない役柄に挑んでもらいました。高校の同級生で、10年ぶりに一日に2度も再会するんです。風俗店で。

 新宿・歌舞伎町を舞台にしたのはゴジラロードを行く人波がどこか、世界の縮図に感じられたから。つまり非日常的な物語を求めてやまない人々と、実は掘っても物語などない猥雑な街並みが共存していて、歪な風景だよなって。人は偶然起きた物事を自分の都合の良いように並べて『物語だ』と言ってるだけなんじゃないか、と」

◆物語の否定ではなく、探求する一種の思考実験

一見、観念的で突飛なテーマではあるが、実体験に裏打ちされていた。

「以前書かせてもらっていたSPA!のコラムでも触れたのですが、僕自身、大して仲良くなかった知人に、一日に何度も出くわしたことがあって。『これは運命の巡り合わせか』なんて思ったんだけど、そんなわけない(笑)。人は往々にして、自分の人生をドラマチックな物語で彩りたがる。それって何なのか、って折々に考えてきたんです。

 翻って映画、小説、演劇と、たいがいの表現も都合のいい出来事を繫げ、受け手の感情を操ろうとする。この作業にも違和感があったんですよ。もっと言うならばここまで長年、舞台創作を続けてくると自分のやってきた方法論を否定することでしかモチベーションが上がらなくなっちゃったんです。

 ですから今回は、従来のように“ある状況下”でのリアルな人間描写にはあまり執着はしていません。言葉の力を駆使し、登場人物にキーワードを述べさせたりもしていて、そこはこれまでとは如実に違うところですね」

◆果たしてどんな“答え”が待っているのか?

 自己否定から高みを目指す。その冒険の果ての先々の活動が少々心配だが。

「いや、本作を経たあとはきっと逆に潔く物語を創れるようになるはず。物語の否定ではなく、『物語についてどれだけ探求できるか』という一種の思考実験ですから。

 無論、この舞台自体がひとつの“物語”だともわかっていて、だから否定に否定を重ね、苦悩し悶絶しながら台本を完成させました。とはいえ、硬派な社会派などではなく、世界の矛盾点にツッコみ、こねくり回したコメディなんです。

 ラストは曖昧に雰囲気で逃げてしまってはダメだなと強く思っていますね。大風呂敷を広げた責任を取ると言いますか、答えらしきものはちゃんと提示します」

 誰もが「自分こそ主人公」という物語を前提に生きている。だが、他人から見れば、単なる街の風景。果たしてどんな“答え”が待っているのか?

◆COCOON PRODUCTION 2021『物語なき、この世界。』

「物語」への執拗な考察をフックに、人間のサガとエゴを炙り出す三浦大輔の新境地。7月11日~8月3日、Bunkamuraシアターコクーンにて上演

【三浦大輔】

’75年、北海道生まれ。’96年より演劇ユニット「ポツドール」を主宰。’06年、『愛の渦』で第50回岸田國士戯曲賞を受賞。’18年の舞台『そして僕は途方に暮れる』を原作に、自ら監督した映画が2022年全国公開予定

取材・文/轟 夕起夫 撮影/杉原洋平

2021/7/11 15:51

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