米国バイデン政権の長期戦略GT2040で「主要国」から消えた日本。今後の戦略はあるのか?<日本金融財政研究所所長・菊池英博氏>

◆バイデン政権の長期戦略「GT2040」

 米国の国家情報機関(National Intelligence Council, NIC)は4月26日に「グローバル・トレンドGT2040 」を発表し、バイデン大統領の長期戦略を公開した。2013年のGT2030では「パックス・アメリカーナは消滅する」と述べ、世界に衝撃を与えていた。

 今回のGT2040では、人口動態・環境・経済・テクノロジーの四つの分野を「構造的要因」として取り上げ、この要因の長期的な流れとして2040年の世界のシナリオを次のように分析している。

(1)民主主義の復活 米国を中心とする民主主義国家が覇権的リーダーの存在を強化し、経済が成長し社会が安定する。

(2)漂流する世界 中国と米国を中心とする民主主義国家と勢力争いで世界は分断され安定しない。

(3)競争的共存 米国と中国が経済発展を優先し、強固な貿易関係が継続し、戦略的競争が存在する。大戦争のリスクは低い。

(4)分離したサイロ 世界は米国、中国、欧州連合(EU)、ロシア、複数の地域大国に分断され、核兵器は拡散する。

(5)悲劇と流動化 米国の凋落で中国とEU主導の世界になる。環境変化がもたらす気候変動、資源枯渇、食料危機、貧困が発生し、まとまりのない国家群になる。

◆主要国から消える日本に戦略はあるのか

 日本に対しては、

① 高度に教育された国、技術的に革新的な経済、貿易とサプライチェイーンのネットワークにおける不可欠な地位により、アジア・その他地域における大国であることは不変である。

② 最大の貿易国であり地域の主要なライバルである中国と同盟国である米国の経済に大きく依存し続ける。同時に豪州と印度、台湾などと安全保障と経済との関係が深まる。

③ 人口減少とマクロ経済の課題に直面する。労働力の減少、柔軟性のない移民政策、低い需要と低経済成長、貯蓄率の低下、政府債務の増加、先進国で最も古い問題を抱えている。

④ 2040年にはGDPは印度に抜かれ第4位になる。

⑤ 日本は「世界に影響を及ぼすパワフルな国家」(米国、中国、EU、ロシア、インド)ではなくなり、「主要国」から消える(英国も同じ)。

◆バイデン政権は対中姿勢を明らかに

 この報告書が発表された二日後に、バイデン大統領は上下両院で施政方針演説を行い、民主主義国家としてのリーダーシップ強化のために、外交面では専制主義国家である中国と政治・経済・人権擁護の面で競争し、経済安全保障を強化する方針を発表した。

 内政面では大きい政府への転換を志向し、「2兆ドルの米国雇用計画」「バイ・アメリカン政策」で中国の追い上げを振り切り、産業の米国回帰と米国の技術と製品の優位性を維持強化する方針を打ち出した。

◆「主要国」脱落組の動向は?

 GT2040で「主要国から脱落する」と予想される英国は、すでにEU離脱後の「グローバルブリティン」という新しい構想を立てており、中国の拡張政策に対抗する枠組みとして6月のG7をD10(G7プラス印度・豪州・韓国)に拡大して開催することを昨年12月に決めており、民主主義の元祖としての存在感を示している。

 一方日本は、4月16日の日米共同声明で日米同盟の強化を掲げ、「自由で開かれたインド太平洋を作る」ために日米豪印が連携して中国の不法な海洋権益に対する活動に反対し、「台湾海峡の平和と安定の重要性、両岸問題の平和的解決を促す」と明記されている。

 政府筋に近い河野克俊氏(元統合幕僚長)は、「台湾紛争は新安保法制でいう存立危機事項にあたるので、台湾有事の際には自衛隊が米軍支援に回るだろう」と述べている(「日曜スクープ」BS朝日4月3日)。もしこうなれば、自衛隊は中国軍と交戦することになり、日本は国家滅亡の危機に瀕するであろう。

 戦後の日本が成長できたのは、平和憲法のもとで専守防衛に徹して絶対に戦争しない国として評価されてきたからである。

 日本は、原点に返って、集団的自衛権行使容認を放棄し、絶対平和主義国家としての存在感を高める戦略に戻り、中国を敵視せずにアセアン諸国とも連携して太平洋のシーレンを確保できる外交を展開すべきではないか。

 首相交代、政権交代による閣議決定で可能である。

<文/菊池英博 記事初出/月刊日本2021年7月号より>

きくちひでひろ● エコノミスト。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て1995年文京女子大学教授に。現在は日本金融財政研究所所長

―[月刊日本]―

【月刊日本】

げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

2021/7/11 8:51

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