卒業証書を破ったゆたぼん。動画内で目立った“嫌悪の表情”を解析

―[清水建二の微表情学]―

 こんにちは。微表情研究家の清水建二です。本日は、何かと話題を振りまいている「少年革命家・ゆたぼん」の言動を通じて心理分析をしたいと思います。

◆破いた瞬間の表情に表れた、ゆたぼんの複雑な心理

 初出は三ヶ月前ではありますが、小学校を卒業したゆたぼんが卒業証書を破った動画が今だに話題になっています。

 結論を先に書きます。ゆたぼんは、積極的な行動を起こすことで、自身の信念を確立させようとしている、そんなふうに思います。

  0:00-0:03秒にかけ、ゆたぼんは、「人生は、冒険だぁ!」と発言しながら、小学校の卒業証書を破り、空中に放り投げています。このとき、上唇が引き上げられる動きを見せます。これは嫌悪表情です。

  次に眉とまぶたが引き上げられ、口が開けられる動きを見せます。これは驚き表情です。最後に、口角が引き上げられる動きを見せます。これは幸福表情です。

 これらの感情にある心理は何でしょうか。感情は、刺激に対する反応として表情等に生じます。そこで、感情の機能と照らし合わせながら、表情等が生じる直前にある刺激を見つけることで感情の原因を推測することが出来ます。

 嫌悪は、不快感を抱いているときに生じる感情です。「人生は、冒険だぁ!」という言葉そのもの、あるいは/かつ、小学校の象徴としての卒業証書に対して嫌悪が生じたのだと考えられます。

◆嫌な思い出はあるものの、破いたことへの快感も

 驚きは、予期していないことが起きたときに生じる感情です。卒業証書を破ろうとしたものの、完全に破り切ることが出来なかったことから驚きが生じたのだと考えられます。

 幸福は、目標を達成したときに生じる感情です。破った証書の部分を放り投げる前から口角が軽く引き上げられていることから、単純に破ったことに快感を得たのだと考えられますが、編集が入っているので、カメラが動いていないときに何か楽しいことが起きていた可能性は排除できません。

 ここにゆたぼんの複雑な心理を想像することが出来ます。

 驚き表情の存在から、卒業証書を破り、二分する目的があったことがわかります。破るという行為は、破壊に関連する行為です。通常、破壊行動は、怒りを伴って生じます。しかし、ゆたぼんの表情は嫌悪です。積極的な排除行動に向かう傾向にある怒りとは異なり、嫌悪は、消極的な排除行動に向かう傾向にあります。この場面において、嫌悪と一致する行動は、証書を破ることなく、放り投げる、だと考えられます。怒りがあれば、卒業証書をぐちゃぐちゃにする、ビリビリに破り捨てる、などが考えられます。

 過去動画の中で、ゆたぼんが不登校になった理由が語られているところを見ると、学校に嫌な思い出があったことは確かだと思います。

 ゆたぼん曰く、「宿題をやりたくなかったのに先生に無理やりやらされた」「皆が親や先生の言うことを『はい、はい』聞くロボットのように見え、そうはなりたくなかった」と説明しています。

 しかし、ゆたぼんは、証書をビリビリに破ってしまうほど学校を憎んでるわけではなく、パフォーマンスとして派手に映るので一部分だけ破った、というところが本音だと推測します。

◆ゆたぼんは本当に「人生は冒険」と思っているのか?

 ところで、嫌悪は「人生は、冒険だぁ!」という言葉そのものにも向けられている可能性があります。

 今回の分析のために「少年革命家ゆたぼんチャンネル」を数十本閲覧したところ、全ての回において、この種の言葉(「人生は冒険や」「人生は冒険だ!自由に生きよう!死んだらアカン!」等)が発せられていたことから、この言葉は、ゆたぼんの想いを凝縮した決め台詞だと考えられます。

 しかし、今回の冒頭及び2:50-2:54だけでなく、この台詞を言うとき、ゆたぼんは、毎回嫌悪表情になっています。強いメッセージが込められているならば、決意を示す表情、例えば、眉が中央に引き寄せられ、眉間にしわが寄り、まぶたが引き上げられ、目がカッと開く動きになるのが感情の流れに適合します。

 また、その他メッセージを発するときも、ゆたぼんは、全体的に怒りや決意よりも嫌悪が多いように思えます。

 自身の決め台詞や言葉に伴う具体的な行動・活動計画が決まっていないため、嫌悪表情が多いのではないかと考えられます。ゆえに、積極的に様々な行動を起こし、色々な人々に出会う中で、自身の中に信念が確立されるのを待っているのではないかと思うのです。

 ゆたぼんは、信念や信条が先ではなく、行動が先なのでしょう。信念が成就せず、絶望してしまうより、まずは行動し、自分にとって心地よい考え方を形作っていく方が幸せになれるのかも知れません。

◆そんなゆたぼんに伝えるメッセージ

 一点気になることは、小学校で一定期間にわたり嫌な体験をしたことがここまで学校を拒否するようになったのはなぜか、ということです。

 ゆたぼんの学校に向けられる感情が怒りではなく、嫌悪であることもそうですが、本動画にあるように良い先生との出会いもあり、沖縄の小学校で卒業証書をもらいに行く映像を観る限りでは、沖縄の先生方とも関係は悪くないように思えます。別の動画では、中学校にも行かないと宣言しています。

 動画では元気いっぱいのゆたぼんですが、学校では抑圧され、自分を表現することが出来なくなってしまうのでしょうか。あるいは、中学校に通ってもよいかもと思っているものの、不登校キャラを演じる必要にあるのでしょうか。

 ゆたぼんは時々、自身のチャンネル内で学校に関するニュース記事を読み上げ、変だと思われるルールを批判しています。もちろん、ニュース記事を批判することは悪いことではありません。

 しかし、ゆたぼんは現役の中学生であり、リアルな中学の現場を体験することが出来ます。中学に行き、それが難しければ、同年代の子たちの意見を聞き、当事者意識を感じる問題を取り上げ批判した方が、ゆたぼん独自の強いメッセージを伴った学校の問題を訴えることが出来るのではないかと思います。

 最後に、私からゆたぼん君へのメッセージ。

 君は卒業証書は破ったけど、もらった花束を千切ったりはしなかったんだよね。命を大切にしているわけだ。でも、卒業証書を破ったことで、証書を用意してくれた人の想いを蔑ろにしたと思う。人は物理的に生きているだけでなく、心で生きているんだ。大人だって、きっと、傷つくよ。命だけでなく、人の想いも大切に、君の人生を送ってほしい。

<文/清水建二>

―[清水建二の微表情学]―

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役、防衛省研修講師。特定非営利活動法人日本交渉協会特別顧問。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動、犯罪捜査協力等を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組(「チコちゃんに叱られる」「偉人たちの健康診断」など)で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』イースト・プレス、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版などがある。メールマガジンにて「清水建二のウソと心理の見抜き方」連載中。

2021/7/10 15:53

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