松坂大輔が語ったバッティング論「渡米前なら練習でもバックスクリーンに」
◆ユニフォームを脱ぐ決断をくだした平成の怪物
平成の怪物と呼ばれた男がユニフォームを脱ぐ決断を下した。松坂大輔……野球を知らない人でも、その名前は聞いたことがあるはずだ。98年夏の甲子園では決勝戦でノーヒットノーランを達成し、西武ライオンズにドラフト1位で入団。01年には21世紀初となる沢村賞を受賞。その後、メジャーに移籍し……と、輝かしい戦歴を残した。(文中敬称略)
◆松坂大輔はバッティングが大好きだった
SPA!では18年に中日ドラゴンズにテスト入団した際にインタビューを行っている。入団の裏話やリハビリの話など、当時の松坂を取り巻く話を語ってもらったのだが、中でもバッティングについての話では大いに盛り上がった。実は松坂、高校時代は通算14本の本塁打を放っており、06年の阪神とのセ・パ交流戦ではバックスクリーンにプロ入り第1号を放っている。そう、かなりのバッティング好きなのだ。当時の記事からインタビューを抜粋してみよう。
——キャンプではバッティング練習で柵越えもあり「松坂大輔の打撃を見たい!」というファンが、わざわざ足を運んだとも聞きます。DHのないセ・リーグでは、松坂選手のバッティングに期待しているファンも多いと思います。
松坂「ハハハ。もちろん、僕は投げることで一番貢献しなければいけないですけど、打席に立つ以上は、簡単には打ち取られたくないですね。少しでも相手のピッチャーに圧力をかけたいし、簡単に打ち取られるのは悔しいと思うので、なるべく楽をさせないような状況にはしたいですね」
——松坂さんは打撃自体が好きなのでしょうか。
松坂「好きですね。キャンプ中、2、3回くらいかな、屋外で打たせてもらう機会があったのですが、やっぱりしばらくバットを振っていないと、バットって振れなくなるものだなって感じました(苦笑)。
周りからは(打球が)飛んでるね、とか振れてるね、とか言われましたが、自分の感覚だとやっぱり「振ることを身体が忘れていたんだな」と。最近はバッティング練習で『結構、バット振れてきたな』って感じてます(笑)」
「結構、バット振れてきたな」と語った時の顔はまさに“野球小僧”。嬉しそうにバッティングの話をする姿に、聞いている我々取材班も心躍ったことを覚えている。
◆投手同士の対談で打撃論が盛り上がる
入団を前に、松坂は元中日の川上憲伸とも対談を行い、その際もバッティングについて話をしていた。実は川上憲伸もバッティングが大好きな投手として有名。YouTubeでは、在籍当時の落合博満監督からバッティング指導を受けた話を披露して話題になったことも。
そのバッティングセンスは目を見張るものがあり、広いナゴヤドームで逆方向にホームランを叩き込んだこともあるほどである。
——川上憲伸さんとの対談ではバッティング話で盛り上がっていましたね。
松坂「さすがに憲伸さんにはかなわないですよ。憲伸さん、ナゴヤドームのライトにホームランを打ったことあるじゃないですか。あれはホント、ビックリしたのを覚えています」
なんと、松坂は川上が逆方向にホームランを打ったことを知っていたのである。これには取材現場も大いに盛り上がった。
◆渡米前ならバックスクリーンも……
そこで我々は「打者・松坂大輔」としてお願いをすることに……
——ぜひ、松坂さんもバックスクリーンにホームランを。
松坂「いやいや……まだアメリカ行く前だったら(笑)。正直、飛距離には自信があって、バッティング練習でもバックスクリーンに普通に入っていたので。渡米前は甲子園で1本しかホームランを打っていませんが、甲子園の左中間に打てたのはいい思い出ですね」
後日、筆者はナゴヤドームでのデビュー戦を取材することになったのだが、マウンドに上がった際に中日ファンだけでなく、巨人ファンからも万雷の拍手が巻き起こった。そして、向かえた初打席。一球ごとに歓声が上がり、打者・松坂への注目が高かったことを思い知らされた。
引退後にどんな道を歩むのか。松坂大輔の第二の人生からも目が離せない。
文/谷川一球
【谷川一球】
愛知県出身。スポーツからグルメ、医療、ギャンブルまで幅広い分野の記事を執筆する40代半ばのフリーライター。