【連載】沖口優奈×槙田紗子(前編)「アイドルのうちから尊敬できる女性を近くに置いておいてあげたい」
マジカル・パンチラインのリーダー兼プロデューサーを務める沖口優奈が、さまざまなプロデューサーから話を聞きながら自身のプロデューサー力の向上を目指す本企画。第2回目のお相手は、新アイドルプロジェクト『SACO PROJECT!』(以下、サコプロ)のプロデューサーを務める元PASSPO☆/現・振付師の槙田紗子。槙田がアイドル時代から夢見ていた自身プロデュースのアイドルグループを作るため、2021年1月1日から始動した同プロジェクトは、5月30日(日)にオーディションを終了し、11月のデビューに向けて準備段階に突入している。今回、アイドルの先輩となる槙田のプロデューサーとしての歩みや“振付師/元アイドル/アイドルオタクの3つの視点”をキーワードとしたオーディションについて、沖口がじっくり話を聞いた。
編集協力:竹内伸一
振付師さんの頭の中のイメージをしっかり体現できる子たちに育てておきたい(槙田)
沖口:
私は2021年2月からグループのプロデューサーになりました。まだ未熟なプロデューサーなので、いろいろなプロデューサーにお話をうかがいたいなと思っているんです。
槙田:
私も(サコプロが)スタートしたばかりなので、まだまだですよ(笑)。
沖口:
サコプロが、立ち上がったきっかけはどういうものだったんですか?
槙田:
私はアイドルをやっていた時から、プロデュースをするのが夢だったんです。それで“30歳になったら”とずっと思っていたんですけど、振付師を3年くらいやったので、そろそろ次のステップへ行きたいなと思うようになって、“まだ30歳じゃないけど、やっちゃおうかな”という感じで、2021年の頭にスタートしました。何かきっかけがあったというよりは、ずっとやりたかったことを今年始めたという感じですね。
沖口:
プロデューサーをやりたいという夢があったから、PASSPO☆の時から振り付けや演出を考えていたんですか?
槙田:
そうですね。グループにいた時はライブ演出に興味があって。それで演出家ってどうやってなるんだろうって調べたら、振付師から演出家になる人が多くて。振り付けをやっている流れで“じゃあ、ライブ全体の演出も”ってことになるんでしょうね。私はダンスも好きなので、“振付師をやっていればライブの演出もいつかできるかも”って思って、まずは振り付けからやってみようと思ったんです。
沖口:
演出が1番やりかったことだったんですね。
槙田:
演出もプロデュースも両方やりたいと思っていました。自分がアイドルだった時は、プロデュースされる側ですけど、“ライブの演出は任せるよ”っていう雰囲気だったんですよ。だから(自分たちの)ライブ演出だったら今すぐできるなって思って(笑)。それで、いずれはプロデュースもやりたいって思っていました。
沖口:
今回、アイドルグループを立ち上げるにあたって、“振付師/元アイドル/アイドルオタクの3つの視点からプロデュース”というコンセプトが公式サイトに書かれていましたけど、それぞれの視点……例えば、振付師としてはこういうところを重視して選考したというポイントはあったんですか?
槙田:
振付師目線だと、やっぱりパフォーマンスのクオリティですね。私はいろいろなグループの振り付けをやらせてもらっていますけど、振付師ってクリエイターなので、“自分の作品を作りたい”っていう想いがあるんです。でも、すべてが思い通りにできるわけじゃないですよね。自分の思い描いた通りに振り付けできるグループもあれば、まだ実力が追い付いていないグループもあるので。そこの帳尻を合わせるのも振付師の仕事ではあるんですけど。それに依頼された仕事なので、自分のやりたいことが200%できるかっていうとそういうものでもないですし。事務所さんからのオーダーやメンバーの実力に私が合わせないといけない。そういうことを考える必要がなくて、伸び伸びと振り付けができるグループがほしいというのが振付師としての目線になるかな。
沖口:
サビの振りは本当はこうしたいけど、“それは難しいから手を振るだけでお願いします”とかってありますよね(笑)。そういうことがないグループにしたいと。
槙田:
そうなんです! やりたいことができる=基礎力が高いってことなんで、まずはそこですね。さまざまなグループを見ていて、ダンスの基礎をしっかり学べるグループにしたいと思ったんです。振付師としては、やはりクオリティを求めますね。
沖口:
サコプロの振り付けは、すべて紗子さんが担当するんですか?
槙田:
実は、そこにこだわりはないんです。私の好きな振付師さんやダンサーの方にお願いするのも面白いかなと。プロデューサーという立場を使って一緒に仕事したい(笑)。基本的には私がやることになると思いますけど、“この曲はあの人に頼もう”っていうこともあると思います。
沖口:
お願いした振付師さんに伸び伸びとやってもらうためにも、基礎力を高めていかないといけないんですね。
槙田:
そうですね。お願いした振付師さんの頭の中のイメージをしっかり体現できる子たちに育てておきたいですね。
沖口:
それはやっぱり振付師さんならではの考え方ですよね。振付師の要求に応えられるスキルを身につけていくって、振付師さんの気持ちがわからないと、そういう発想にならないと思います。
アイドルを卒業しても成功している人が実在しているんだって思えますよね(沖口)
沖口:
元アイドルという立場からは、どういうところに注目して選考したんですか?
槙田:
自分がアイドルをやっていた時に“私は裏方志向かも”って気づいた瞬間があったんですよ。それに気づいてからは“私だったら次のシングルはこうするな”とか“マネージャーさんはこういうことをしたらいいのに”って考えるようになりました(笑)。私はアイドルを経験して裏方の仕事を始めたので、どちらの気持ちもわかる。アイドルの気持ちもわかるので、自分の経験と重ね合わせてできることがけっこうあるんじゃないかと思っています。なるべく本人たちの気持ちや変化に気づいてあげるプロデューサーになりたいなと思っていて、それは自分がアイドルをやっていたからこそできることかなって思いますね。
沖口:
コアスタッフは全員女性だと聞きましたが、それはアイドルをやっていた経験からそうしようと思ったんですか?
槙田:
そうですね。私自身、男性のマネージャーさんだったことが多かったんです。特にそれで不安だったりしたことはなかったんですけど、1人女性のスタッフがいるだけで、安心感ってやっぱり違うんですよね。同性だから話せることもやっぱりあるし。自分がアイドルだった時はあまり気にしなかったんですけど、振付師になっていろいろなグループを見ていると、スタッフの男性率が高いんですよ。
沖口:
確かに高いですよね。
槙田:
運営スタッフは男性でメイクさんやスタイリストさんは女性っていうのがオーソドックスなパターンだと思うんですけど、女性の運営スタッフって見たことないなと思って。プロデューサーの私も女性だし、スタッフを女性で固めることで、アイドルからしたら、大人になったらこういう風になりたいって指標ができたり、アイドルの先に何がやりたいのかが見えやすいかなと思って。自立している女性が周りにいれば想像しやすいじゃないですか。“アイドルを辞めた後はどうしよう?”って放り出されたようにはなってほしくないので、アイドルのうちから尊敬できる女性を近くに置いておいてあげたいっていう気持ちはあります。
沖口:
アイドルをやっていると、アイドル以外の世界にほとんど触れないですよね。大人の女性の方と関わることはけっこう少ないと思います。
槙田:
そうですよね。私もアイドルをやっていた頃は、大人の方の意見を聞く時はだいたい男性の方の意見を聞く感じでしたし、いろいろな話をしたり相談したりする関係者の方もほとんど男性でした。そうなると、男性の意見しか聞いていないんですよね。最近は、女性もバリバリ働く人がほとんどじゃないですか。アイドルを辞めても、何かしら仕事をするでしょうし、その時にアイドルの経験が活きたらいいなって思います。
沖口:
審査員の方もみなさん女性でしたが、それにも理由があるんですか?
槙田:
今話したことと一緒なんですけど、今回の審査員の方々って、自分の力で歩いている女性なんです。どこかに属したりしていなくて、自分のやりたいことを自分の意思でやっている。そういう方に声をかけさせていただきました。それこそ、オーディションに参加した子たちには、刺激になるだろうなと思って。オーディションを受けた子たちは、まだまだ素人なので、今はわからないと思いますけど、審査員の方々が言ってくれた言葉とかはいつか絶対に役に立つと思うんです。遠藤舞さんや林愛夏はアイドルを卒業して、今は立派に1人で仕事をしている方たちなので、アイドルの先に何があるのか、想像しやすいでしょうし。今はアイドルになることしか考えていないでしょうけど、アイドルを卒業した後もやれることはいっぱいあるんだなっていう希望の光みたいなものが見えたらいいなと。アイドルを卒業することもポジティブに捉えてもらえるように、そういう人選にしました。
沖口:
確かにお2人とも、アイドル時代に磨き上げたもので今はお仕事をしている方ですよね。いわば、アイドルのセカンドキャリアをしっかり体現されている方というイメージなので、アイドルからの卒業を考え始めた時に、“そういえば、あの時こんな話をしてくれたな”って思い出すかもしれないですね。
槙田:
アイドルをやっていると、周りの普通の子たちとのギャップ……大学を卒業して就職した子との違いを感じることがあると思うんです。私はアイドルをやっているけど、周りはどんどん就職している……みたいなことにギャップを感じて、悩むことが絶対にあるはず。でも、そこに劣等感を覚える必要な全然ないし、(遠藤舞や林愛夏は)アイドルを一生懸命やれば、その先も開けていくんだよっていうことを体現している人たちなんで……。
沖口:
そういう人を実際に目にすることによって、アイドルを卒業しても成功している人が実在しているんだって思えますよね。
槙田:
口で説明するのとは説得力が違うと思いますね。
すごく素が見えて面白かったですよ(槙田)
沖口:
“アイドルオタク”としての視点では、どんなところに注目してオーディションをやっていたんですか?
槙田:
私はハロプロとK-POPがすごく好きなんで、ファンの人の気持ちも少しはわかるというか……ファンの人はこうしてほしいんだろうなとか、この子のこういうところがツボなんだろうなとか、ファンの目線でわかるので、そこはプロデュースには役立つかなと思っています。ただ私の好みを伝えるだけになっちゃうかもしれませんけど(笑)。
沖口:
プレイヤー側も、ファンの人側も、運営側もわかっているって、もう完全包囲状態ですね!(笑)
槙田:
ははは(笑)。
沖口:
初めてアイドルをやる人からしたら、とても心強いと思います。今回、オーディションを公開形式でやったのは、何か理由があるんですか?
槙田:
ファンの人の付き方を見たいと思って。人気の高さももちろん大事なんですけど、この子にはどんなファンが付くのかを知りたかったんです。それと、人に見られるということが、女の子が1番可愛くなれることに繋がるので、その垢抜け方を見たかった。どこにも出たことがない子がほとんどだったので、初めて人前に自分を晒して、見ず知らずの人に応援してもらうって、本当はプロにならないと経験できないことですけど、それをオーディション中から経験することによって、自覚や責任感が芽生えるでしょうし、ファンの方の応援のありがたさを知ることで、伸びていく子もいるでしょうし。そこも見たくて公開にしたんです。
沖口:
普通だったら、アイドルを始めて半年後くらいにだんだんわかってくることを、オーディション中にチェックしていたということですね。確かに、人前に出る経験をすることで、この子は向いているなっていうのがわかりますよね。
槙田:
そうなんです。SNSも全員にやらせていたんですけど、ちょっと言葉は違うかもしれませんけど、ファンの方の掴まえ方みたいな……SNSでどれだけファンの方を喜ばせることができるのかって、アイドルの1つの才能じゃないですか。そういう部分も見たかったんですよ。
沖口:
普通のオーディションだったら、歌とダンスといった技術的な面が中心になりますよね。
槙田:
そうなんですよ。普通のオーディションって大人の人がズラリと並んでいて、もう緊張しちゃって実力が出せないんですよね(笑)。私もオーディションを受けていた側なので、それはよくわかります。自分の持ち味を出せる子ももちろんいて、その子は本当に逸材だと思うんですけど、そういう子はなかなかいないので、今回は長期のオーディションにして、実際にアイドルになった時に、その子がどうなるのかが見られるような形にしたんです。配信とかをやると、すごく素が見えて面白かったですよ。
沖口:
素を見せることで、わかることもありますよね。この子は意外とアイドルっぽくないなとか。
槙田:
配信って家で1人でやるじゃないですか。すごく素が出るんですよね。衣装を着てステージに立つとなると、どこかでスイッチが入りますけど、お家で私服で、スマホに向かってただ話をするって、なかなか難しい。そこでスイッチを入れられる子ってすごいプロなんですよ。まだ素人な子なので、だいぶナチュラルでしたけど、そういう部分も見えて面白かったですね(笑)。
沖口:
候補生に合宿を用意したのは、どういう意図だったんですか?
槙田:
合宿の時はチームで競わせたんです。アイドルグループに入るのであれば、協調性や仲間意識をどれだけ持てるかって、すごく大事だと思うので。そこを見たくて合宿をやりました。そういう人間性みたいなものって、1日では判断できないですよね。全部で6日間合宿したのかな。その間はずっとチームで行動してもらいました。不思議なもので、チームごとに雰囲気も全然違うんですよね。“あ、この子がいるからこのチームはまとまりがあるんだな”とか、“この子はまわりに注意ができるんだな”とか、“この子は人の話を吸収しようとしているな”とか、すっごくいろいろなことが見えました。
沖口:
輪を乱す子が出てきちゃったり、アイドルを始めてから起こり得るハプニングのようなものが合宿でも起こりそうです(笑)。合宿で事前にそういうところも把握できたんですね。もちろん、パフォーマンスも磨かれたでしょうし、合宿は効果的ですよね。これでもかっていうくらい見極めることができたというか(笑)。
槙田:
これはやっぱりアイドルをやっていたからわかることですけど、グループにいたら起こることが頭の中にあるじゃないですか、経験値として。だから、面談はいっぱいしました。“もし、こういう状況になったら、あなたならどうする?”って、めちゃくちゃ聞きました(笑)。
沖口:
就職の面接みたいですね(笑)。でも、アイドルを経験していないと、こういう時によくないことが起こるっていうのがわからないですよね。やっぱり、完全包囲ですね!
槙田:
経験がないと、“えっ!? これは読めてなかった!”ってことになると思いますね。でも、(いろいろな状況を想定してオーディションを行なっても)それでも想定外のことが起こるはずなんです。
沖口:
メンバーも成長して考え方も変わるでしょうし、思春期もあるでしょうし。ちなみに、オーディションの時に、紗子さんが1番注目していたポイントはどこなんですか?
槙田:
うーん、いろいろあるんですけど……話したり、パフォーマンスをしていたりしている時に、予測できない行動を取るかどうかはけっこう重要視していました。こちらとしては、それぞれの子の、いろいろな引き出しを開けようとするじゃないですか。そういう時に“あれ、もう引き出しを開け切ったかも”っていう子もいるんですよ。オーディションは5ヵ月くらいかかったんですけど、その間に“この子はこういう性格なんだな”って、私がなんとなくわかってしまう子と、“えっ、こういう面もあるんだ!”とか“今日はこういう感じで歌うんだ!”みたいに読めない子もいて。アイドルといえど、表現者なので、そこは大事な部分だなと思って見ていました。最初は、そこを見ようとは思っていなかったんですけど、オーディションをやっていくうちに、これは大事なポイントだなって気づいて。結局、審査員をも楽しませることができるのかどうかってことなんですよね。
沖口:
審査員の方が“この子は楽しませてくれるな”って感じるってことは、ファンの方もそう感じるはずですよね。
槙田:
そうですね。それと、日々、変わっていけるかってことにもなると思う。長期でオーディションをした中でどれだけ変われたのか。伸び率というか変化率というか、そこも注目して見ていました。
沖口:
マニュアル通りにいかないような成長を見せる子だと、アイドルに向いているということですか?
槙田:
そうです。型にハマっていて、なかなか抜け出せない子もいるんですよね。でも、そういう子が突然変わることもあって。そうすると、こちらの評価も爆上がりします(笑)。“この子は、会っていなかった時間を大切に過ごしていたんだな”とか“昨日の夜はめちゃくちゃ練習したんだろうな”っていうような、陰での努力が見えるので。
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