“J1最強の司令塔”田中碧、22歳の胸中「僕の役目はFWや2列目を輝かせること」

 昨季、他を寄せつけない圧倒的な強さで2年ぶり3度目のJ1優勝を遂げた川崎フロンターレ。最多勝ち点(83)、最多勝利(26)、最多得失点差(+57)、同一シーズンでの連勝記録(12)などさまざまな記録を塗り替え、その戦いぶりはJリーグ史上最強と称えられた。

 今季も連覇に向けて首位を独走中。そんな絶対王者・川崎の中盤で攻守にひときわ存在感を放ってきたのがMF田中碧(あお)である。川崎のアカデミーで育ち、’17年にトップチームへ昇格すると、昨季はJリーグ年間ベストイレブンに輝く活躍を見せた田中は、東京五輪に出場するU-24日本代表の司令塔としても期待される。

 今夏の海外移籍も電撃的に決まった22歳の胸中に迫った。

◆今まで以上にチームのことを考えるようになった

――昨季、川崎フロンターレは圧巻の強さでリーグと天皇杯の2冠に輝きましたが、今季もJ1で21試合を終えて17勝4分け(7月4日時点)の無敗で首位に立っています。そのチームにおいて、攻守の繫ぎ役として田中選手は欠かせない存在となってきました。

田中:今年で5年目。自分自身プレーで引っ張っていかなきゃいけないという気持ちも出てきましたし、同時に今まで以上にチームのことを考えるようになったことが、いい方向に出たのかなとは思ってます。

――中盤の低い位置でボールを持ったときに、縦パスや前への意識を感じられるのが田中選手の魅力のように感じますが、プレーしている際にはどんなことを考えているのですか。

田中:相手を見てサッカーをすることですね。ボールを受ける前の位置取りを含め、ボールを受けてからもそう。それはどのポジションで起用されても変わらないです。

――ボールを受けると、さっと前を向き、低くて速いパスを前線に通す。そんなプレーが印象的です。

田中:本当ですか?(笑) そこはすごく大事にしている部分というか、インサイドハーフやボランチでプレーする際に縦にパスを出すことと、前を向くことは特に意識しています。見てくれる人がわかってくれたら、すごくうれしいです。でも、サッカーをよく知らない人はどうしても点を取る人に目がいくでしょうし、僕はそういう選手たちを活躍させられたらいいかなって。

◆3列目の僕の役目はFWや2列目を輝かせること

――だいぶ控えめですね(苦笑)。以前、あるインタビューで「点は決めたいけど、目立ちたくない」と話していたこともありました。

田中:目立ちたくないっていうのはちょっと言いすぎかもしれないですね(笑)。ただ、サッカーの主役はFWや2列目の攻撃的な選手じゃないですか。3列目の僕の役目は、そういう選手を輝かせること。派手なプレースタイルでもないですし、僕は自分のやるべきことをやるだけ。人を魅了するようなプレーは自分じゃない選手にやってもらえたらいいのかなと思っています。

――自分で得点を決めるより、周りの選手を生かすことに喜びを感じるタイプですか。

田中:子供の頃は自分でゴールを決めるのが好きだったんですけど、今は“あとは決めるだけ”という決定的なパスを出すほうが気持ちいいっていうか。理想は、パスが出た瞬間に「入った!」みたいな。もちろん、サッカー選手の一番の評価はゴールだと思うので、そこを目指さないといけないとわかってはいるんですけどね。

――では、今ピッチで課題にしていることはありますか。

田中:結果を出すことはもちろんですが「違いをつくる」というか、自分がボールを持ったときに何かが起きるんじゃないか、自分がボールを奪いにいったときに絶対にボールが取れるんじゃないか、そういう雰囲気をつくることは考えていますね。

◆ピッチに入れば甘えはないのがフロンターレのよさ

――昨季以降、川崎は試合に勝って当たり前、負けると大きく報道されるようになりました。

田中:もちろんそれは光栄なことですし、自分たちがやってきたことが間違っていなかったんだという思いはあります。簡単な勝利なんて一つもないですし、連勝したからといって浮かれることもない。ただ上は目指しますけど、個人的にはあまり欲を出しすぎるのもどうかなと……。

目標は優勝であっても、すべての試合で自分たちの思い通りに運べることなんてないじゃないですか。人間は誰でもミスはしますし、スポーツでずっと勝ち続けることなんて絶対にないでしょうし。そういう意味では、負けるときは負けるという割り切りも必要かなって。それも含めて、楽しみながらやるのがいいんじゃないかって思っています。

――川崎は外から見ているとすごくアットホームな雰囲気があります。そのイメージは、ある意味で絶対的な強さとは対照的にも思えるのですが……。

田中:選手はみんな仲がいいですし、アットホームなのは間違いないです。ただ、オンとオフのスイッチはしっかり切り替えていますし、ピッチに入ればそれぞれが激しくぶつかり、厳しいことを言い合ったりもします。そこに甘えはないですし、それがフロンターレのよさかなと思っています。

◆常勝チームのジレンマ、中村憲剛が残したもの

――昨季限りで引退した元日本代表MF中村憲剛さんは田中選手にとっても憧れの選手だったと……。

田中:小さい頃から見てきた選手ですし、憧れの存在でした。もう一緒にプレーできないのは残念ですが、僕にとっては一緒にプレーできたことがすごく幸せでした。たとえばポジション取りの1mや一歩の大切さからプロとしてのあり方まで、すべてを教えてもらったというか。憲剛さんとプレーできたことで、今の僕があるのは間違いないです。

※7/6発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです

【Ao Tanaka】

’98年、神奈川県川崎市生まれ。ボール奪取能力の高さや右足の正確なキック、前線への積極的な飛び出しが光るMF。プロ4年目の昨季、自身初となるJリーグベストイレブンに選出された。日本代表国際Aマッチ2試合出場。180cm、74kg。利き足は右

取材・文/栗原正夫 撮影/ヤナガワゴーッ!

2021/7/8 15:52

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