松重豊の出演ドラマに“ハズレなし!”の理由。コワモテからにじむ愛らしさ
人気ドラマの新章「孤独のグルメ Season9」(テレビ東京)が7月9日深夜0時12分(テレビ大阪では翌週月曜 深夜0時)よりから放送スタートです。
「孤独のグルメ」は原作・久住昌之、画・谷口ジローの同名人気コミックをもとにドラマ化。輸入雑貨商を営む主人公・井之頭五郎(松重豊)が営業先で見つけた食事処にふらりと立ち寄り、食べたいと思ったものを自由に食す、至福の時間を描いたグルメドキュメンタリードラマです。
◆松重豊の出演するドラマにハズレなし?!
主演の松重豊といえば、先クールのドラマでも『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK 以下『ここぼく』)では、松坂桃李演じる主人公を大学の広報担当者として呼び入れる大学総長役での名演も話題に。
思えば、松重豊が出演するドラマは近年『アンナチュラル』『重版出来』(ともにTBS)『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK)はじめ名作ぞろいです。この安定感、“松重豊の出演するドラマにハズレなし!”と言ってしまってもよいのではないでしょうか?
そこで、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』などの著書があるドラマライターの田幸和歌子さんに、松重豊が出演するドラマにハズレがないワケを聞きました。(以下、田幸さんの寄稿です)
◆松重豊の強みとは?
バイプレイヤー流行りの流れを作った筆頭が『孤独のグルメ』で大ブレイクを果たした松重豊さんだと思いますが、松重さんの強みは、シリアスからコメディまで幅広く演じられること。
そして渋くて知的なたたずまいから『ここぼく』の大学総長や『アンナチュラル』UDIラボ所長や『重版出来』の編集長など、知的職業がしっくりくる一方で、身長190センチ近い長身痩躯とコワモテからにじむ愛らしさがあることです。
◆『孤独のグルメ』『猫村さん』原作とは違う魅力を発揮
大ヒットした『孤独のグルメ』、私は原作ファンなんですが、正直言って原作漫画の井之頭五郎とはだいぶ印象が異なります。
原作のほうは、若干スノッブでカッコよすぎるところがあるんですが、松重版は眉間にしわを寄せ、コワイ顔で真剣に食べ物に向き合い、そこから相好(そうごう)を崩して本当に美味しそうに食べる姿がなにしろ魅力的で、幸せそうで、一番の魅力になっています。
さらに『きょうの猫村さん』!! こちらも原作ファンですが、まっったく想像もしませんでした。
あのバカでかい体でゴロゴロしたり、たまらずじゃれたりしてしまう姿の愛らしさとおかしさは、ちょっとした発明ですね。
◆遅咲きだからこその説得力
松重さんの芝居の魅力には、想像力の豊かさや興味・関心の広さと深さ、経験に基づく奥行きがある気がします。
なにしろ、もともとはミュージシャン志望で、挫折して大学で演劇を専攻し、最初は演劇や映画制作する側の勉強をしていました。もともと作り手志望だったところから役者になったのは、同じ事務所・ザズウの眞島秀和さんも同じ。
蜷川スタジオに入りますが、退団した後はフリーになり、舞台やテレビドラマ、映画、Vシネマなどに出演したものの、生活が困窮し、一度は休業。そんなとき、今の事務所の社長に促されて役者に復帰したという経歴は有名です。
そうした苦労から座右の銘は「その日ぐらし」で、初心を忘れないようにしているそう。釣りや写真、園芸、家電、散歩など、多趣味でも知られており、エッセイや小説も執筆する文才の持ち主でもあります。
遅咲きだからこそ、これまでの様々な経験や知見が芝居に生かされ、彼が出ているだけで「ハズレなし」と思わせる説得力があるのではないでしょうか。
<文/田幸和歌子>
【田幸和歌子】
ライター。特にドラマに詳しく、著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』など。Twitter:@takowakatendon