井浦新が養子を迎えた父親役に、「血の繋がりより大事なもの」とは
日本映画を担う俳優として活躍する井浦新さん。そんな井浦さんが、一貫した「リアリティ」追求のもとに映画を作り上げていく河瀨直美監督の最新作『朝が来る』に出演。初めて河瀨監督と組みました。
直木賞作家・辻村深月さんの小説を原作に、特別養子縁組で男児を迎えた夫婦と、中学生で妊娠し、子供を手放すことになる母親の姿を見つめた本作で、永作博美さんと夫婦を演じた井浦さん。河瀨組の映画作りと、是枝裕和監督作品で俳優デビューしたからこそ強く感じること、そして本作のテーマに通じる思いなどを真摯に語ってくれました。
◆一番純粋な映画作りをしている河瀨組
――河瀨監督というと、独特の現場のイメージがあります。ただ、半ばドキュメンタリーのように物語を撮っていく河瀨組は、井浦さんにはとても合う感じがして、初の河瀨組というのがむしろ意外です。
井浦新さん(以下、井浦)「確かに河瀨監督の現場というと、ちょっと特殊だとか、他と違うといった表現をされるのを僕も聞いたことがありました。でも実際に入ってみると、どっちが特殊なんだろうと思ったんです。もしかしたら一番純粋な映画作りをしているんじゃないかと。
撮影に入る前に役を積んでいく作業や、完全な順撮りをしたりと、ちゃんと時間をかけて作っていく。たとえば、今では俳優のスケジュールだったり作品の予算だったり、様々な都合に押されて映画を撮ることが当たり前になっています。でも、本来の映画作りってこうだよねという感じがしました。そう感じたのは、僕のデビュー作も関係していると思います」
◆俳優としてのベースになっているデビュー作
――是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』(1998)ですね。
井浦「はい。是枝監督も順撮りだったんです。作品に入る前の数ヶ月、監督と心を合わせていく時間もありました。そうして心の移り変わりをそのまま撮っていくという経験をデビューからさせてもらっていて、それが僕の映画作りのスタートになっています。
それ以降、いろんな都合で1週間で撮らなきゃいけないといった作品などのほうが、僕自身も経験が多くなっていって、それに対応できる心と体になりました。でも、河瀨組には、何か懐かしい感じというか、居心地の良さを感じたんです。作品のなかで本当に無理なく生きることができて有難かったです。今では贅沢だなと思ってしまうところもありますけれど」
――河瀨組の撮影期間中は、監督が別の場所で別のシーンを撮っている間も、他の作品にタッチしていないのですか?
井浦「タッチしないというのが、河瀨組に挑むための最低限の条件といいますか。他の要素は全く入れません。それは監督の想いですね。縛りではなく、想いです」
――特別養子縁組支援団体「ベビーバトン」の説明会シーンも、半ばドキュメントなんでしょうか。
井浦「リアルです。脚本にセリフは書かれていませんので、参加者の皆さんが、それぞれの本当の思いを出しています。だから代表役の浅田(美代子)さんが本当にすごいんですよ。投げられた質問に全部答えていくわけですからね。素晴らしかった。圧倒されました」
◆特別養子縁組支援団体を知ったシーンの思い
――井浦さん演じる清和と佐都子(永作)がベビーバトンを知ったのは、その活動をたまたまテレビで目にしたことでした。無精子症によって不妊治療を続けるも上手くいかなかった清和が、あの番組を、チャンネルを変えずに見続けられたのはなぜでしょう。
井浦「清和としては、別れたほうが佐都子さんのためだと思ったこともあったわけです。出産するとか、母になるといったことが、自分と一緒にいる限りはきっとさせてあげられないから。本当に申し訳ないという気持ちがあった。でも佐都子さんは受け入れて『2人で生きて行こう』と言ってくれた。空港での2人のシーンがありますが、あそこで2人は次のステージに入ったんだろうと思うんです」
――胸が締め付けられるシーンでした。
井浦「あそこで何かをくくったというか。揺るがない器をしっかりと2人で築いていく覚悟を持った。そんな器を持てたうえで、母として、父として生きてくこともできるかもしれないと、画面を見て知ったときに、チャンネルを変えることは、やっぱりできなかったんだろうと思います」
◆大切なのは、親と子どもが家族として一緒に育っていく環境
――清和と佐都子は血の繋がらない息子と家族になっていきます。“家族になる”ために大切なことは何だと思いますか?
井浦「僕自身はとても奇跡的なことに子どもと血が繋がっていますが、ただ、血が繋がっているから家族だとは単純には言えない。形式的には家族ですが。いくら産みの苦しみを知っていたとしても、母になれないまま母親として、ただあることになってしまうこともある。
血が繋がっているとか、繋がっていないとかではなく、一緒にいる時間が大事だと思います。長さではなく、同じ痛みを知って、同じ喜びを感じて、親と子どもが家族として一緒に育っていく。その環境が大事なのではないでしょうか」
(C) 2020「朝が来る」Film Partners
<文・写真/望月ふみ>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi