若葉竜也が天才棋士役に「今でも将棋のルールは知りません」
2015年に行われた将棋電王戦第5局にインスパイアされた人間ドラマ、映画『AWAKE』が公開中です。プロへの夢に破れ、AI将棋を知ってプログラム開発にのめり込んでいく主人公を吉沢亮さんが演じる本作で、主人公のかつてのライバルで、電王戦の相手になる若手天才棋士を演じた若葉竜也さんにインタビュー。
大衆演劇出身で、子どものころから芸能の世界に身を置いてきた若葉さんに迫りました。連続テレビ小説『おちょやん』への出演も決定している若葉さんですが、実は「朝ドラは見たことがなかった」とか!
◆今でも将棋のルールは知りません
――天才棋士役です。完璧に指し手をマスターされてクランクインされたと聞いていますが、一方で、将棋のルールはほとんど知らなかったと。
若葉竜也さん(以下、若葉)「今でもルールは分からないです」
――いまだに!?
若葉「はい。今回の作品の将棋指導でも入ってくれた元奨励会員の栗尾が僕の幼なじみで、今でも2人で遊ぶ仲なんですが、彼の影響もあって、棋士という役はずっとやりたいと思ってました。ただ、準備期間も限られている中で優先事項をジャッジしなくてはいけなくて、今回は、天才的な棋士という役をやるにあたって、絶対条件としての棋士の所作、指し手を身体に徹底的に落とし込む必要があると思いました。
ルールが分かっていても佇まいが素人くさかったら説得力もないし、映画として終わりなので。だから所作や指し手は練習しましたが、ルールはいまだに知りません」
◆対局シーンの撮影では足の甲に青タンが
――終盤には将棋代指しロボットと対局するシーンがあります。
若葉「あのシーンだけで120カットほどあるんですが、デンソーさんから本物の将棋代指しロボット“新電王手さん”をお借りしての撮影で、1日で撮りきらないといけなかったんです。ずっと正座をしてひたすら撮影していったら、足の甲に青タンができました」
――うわ、痛そう。
若葉「僕もそういう体験は初めてでした。でも、“新電王手さん”をあの位置で見られるというのは、俳優界でもたぶん僕だけなので、贅沢な時間をいただけたなと思いました。ただ、将棋盤の上にセンサーがあって、“新電王手さん”が動き出したときにちょっとでもそのセンサーに触れると止まっちゃうんです。すごくシビアで。だからそこに入らないように、ものすごく気を使いました。面倒くさい大御所俳優と芝居しているみたいでしたね(笑)」
◆役者業はあくまでも仕事
――若葉さんは大衆演劇出身で、本当に小さなころから舞台に立たれてきましたが、ほかになれるものがなくて、いわば挫折的に役者になったと公言されています。映像でお仕事をするようになり、特にここ数年とても評価が高いです。役者業への意識の変化はありますか?
若葉「いや、とくにありません。昔から、僕にとって役者はあくまでも仕事です。しっかり生活するために役者という仕事をしています。『好き』という熱量だけではやってません。部活じゃないので。
あくまでも僕個人の意見ですが、役をプライベートまで引きずって…とか、役が抜けなくて…とか命をかけて演じました!みたいな話を聞いたりしますが、まぁ、聞こえはカッコいいけど…そういう役者を一切信用してません。偏見かもしれませんが(笑)。僕は壮絶な役をやっても私生活まで役を引きずるなんて、これまでに一度もないですし、おそらくこれからもないでしょう」
――難しい役を経て、その後の自分の役者としてのスタンスに影響したり、何か積んだ感覚があったりは?
若葉「そもそも僕は面白いなと思う作品を選んで参加してきてます。企画自体はもちろん、共演者に興味があったり、監督、演出家が好きだったり。そうした人たちの中でお仕事できるというのは、役者としてというよりも、僕という人間が生きていく上で、プラスになっているとは思います。役者は積んできたキャリアで戦い出したら終わりだと思っているので、僕のキャリアや、くだらないプライドなんか全部捨てて、現場に居ます」
◆悲しいかな、僕は凡人なんです
――若葉さんは、特に子どもの頃、私生活もカメラに映されることが多かったですが、一方で、現在、ミステリアスな印象を保たれています。
若葉「バラエティとか全部断ってるからですかね」
――はっきり断ってるんですね。
若葉「そもそも主戦場が違いますから。バラエティのフィールドに、僕みたいな面白いことも何もできないような役者が入り込んだところで、損しかないですよ。悲しいかな、僕はホント凡人なので。
破天荒なわけでもないし、休みもゲームしてるだけ。だからわざわざ、そうしたところへ出て、『素はこんな感じなんだ』と出すことのメリットは感じないです。この仕事をしている以上、他者が自分のことを決めると思っているので、もし今ミステリアスと思ってくれている人がいるならラッキーです(笑)」
◆朝ドラの反響にビックリ
――2021年は連続テレビ小説『おちょやん』にも出演されます。
若葉「僕、朝ドラって見たことがなかったんです」
――おお。
若葉「でも朝ドラの情報が解禁になったとき、ニュースがたくさん出たりして、周りの反響もすごくて。『朝ドラってこんなに影響力があるんだ』と受けてから知りました。僕としては朝ドラだからとか、そんな事じゃなくて、素直に『おちょやん』という企画が面白いと思ったことと、主演の杉咲花さんのお芝居が個人的にすごく好きなので、お会いしてみたいなと思ったんです。で、『あ、じゃ、僕で良ければ』という感じでした」
――そうなんですね。朝ドラも楽しみにしていますが、最後に『AWAKE』公開に際して、読者へメッセージをお願いします。
若葉「人が挫折したり、人と人とが繋がっていくといった、普遍的なことが描かれている作品です。たまたま彼らにとって熱中できるものが将棋だった。だからルールが一切わからなくても楽しめます。将棋ものかといった色眼鏡なしに、観に行ってもらえたら。普遍的な青春映画ですよ」
(C) 2019『AWAKE』フィルムパートナーズ
<文・写真/望月ふみ>
【望月ふみ】
70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi