俳優・北村有起哉がヤクザ役に「綾野剛くんとの“泥仕合”の撮影は大変でした」

 綾野剛さん演じる一人のヤクザの生きざまを、三つの時代に分けて描いた人間ドラマ『ヤクザと家族 The Family』が公開中。主人公の山本が父と慕う組長の柴咲(舘ひろし)を、若頭として支え続ける中村を、北村有起哉さんが演じて深い印象を残しています。

 映画『新聞記者』『浅田家!』『生きちゃった』、ドラマ『アンナチュラル』『美食探偵 明智五郎』と話題作に引っ張りだこで、現在もドラマ『書けないッ!?』に出演中、映画『すばらしき世界』も控える北村さんに、本作の撮影エピソードや、北村さんご自身の家族について直撃。北村さんの子煩悩な一面や、名優として活躍したお父様・北村和夫さんとのエピソードも聞きました。

◆日本アカデミー賞受賞の藤井道人監督と再タッグ

――『新聞記者』の藤井道人監督とふたたび組みました。『新聞記者』の陣野も本作の中村も、監督が信頼している人だからこそ託せる役だと感じました。

北村有起哉さん(以下、北村)「『新聞記者』の撮影が終わって、割と間もなくの、まだ『新聞記者』が題材的にも本当に劇場公開できるかもわからない段階の頃に、監督とプロデューサーから『次はヤクザをやろうと思います。またぜひ』と声をかけていただいたんです。

 そのころはまさか『新聞記者』が日本アカデミー賞を取ったりするとは想像もしてませんでしたが、また呼んでいただけたというのは、純粋に嬉しかったです。“ヤクザ”を撮るというのは驚きましたが」

――それも、いわゆるこれまで映画で描かれてきたヤクザではなく、今の時代に置かれたヤクザの姿をまっすぐに描いた作品ですね。

北村「僕も昔のヤクザ映画は好きでよく観ていましたが、今回の作品は基本、ヒューマンドラマですからね」

◆ヤクザの泥仕合の翌日には恐竜博物館へ

――いくつも印象的なシーンがありました。特にどこの撮影をよく覚えていますか。

北村「綾野剛くん演じる山本とケンカする場面です。脚本に『二人、殴り合う』と書いてあるんですけど、そこに『泥仕合』とあったんです。文字ではたった3文字ですけどね。『泥仕合』って、やるほうは肉体的に大変です(苦笑)。沼津の港の、下がボッコボコになっているコンクリートの上でね。深夜の1時くらいにやりました。しかも僕、体調管理がなってなくて、その日はちょっと調子が悪くて、エネルギー飲料を2本くらい飲んでやってたんです。

 綾野くんも海千山千の人だから、時間自体はそんなにかからなかったんですけどね。でもそのとき、僕、軽く足をひねっちゃって。撮影には別に支障ないレベルだったんですけど、実は翌日に家族と名古屋で遊びに行く約束をしていまして。よく覚えているシーンって、寒かったとか、大変だったとか、何かとワンセットになっているものなんですが、このシーンは、『そういえば翌日、足をひきずりながら恐竜博物館に行ったな』ということとワンセットで覚えています(笑)」

◆自分はもっと役者バカかと思っていた

――恐竜博物館とか、行かれるんですね。普段はどんなことをされているのでしょう。

北村「僕、びっくりするくらい趣味がないんです。それに、今は子どもが2人小さいこともあって、家にいられる時間はできるだけ寄り添っていたいなと。まあ、妻に聞かれたら怒られるかもしれないですけど(笑)。なるべくね。

 今日も、取材のために出なくちゃいけなかったんだけど、『遊ぼう、遊ぼう』って言ってくるものだから、『15分だけな』と、ドッジボールをしてきました。自分はもっと役者バカで、家族をないがしろにする昔のタイプだと思っていましたが、そういう時間が嫌いじゃないんだなと。割と普通でした(笑)

◆仕事を始めてから知った父の大きさ

――本作も家族の物語ですが、親子というと、北村さんのお父様はとても活躍された演技派の北村和夫さんです。北村さんが役者を目指したきっかけは、学校の文化祭で演劇をやったときだと伺っていますが、お父様からの影響は?

北村「あったと思いますよ。子どもの頃から、大人向けの舞台も連れられて観に行ってましたし。影響しているかしてないかといったら、絶対にしているし、背中も見ていたと思います。自然とね。そうしたベースがあったうえで、たまたま文化祭で演劇をやったときに、『あ、うちの親父ってこういうことをやってるんだ。面白いかもしれない』と感じた。で、やってみようかなと。それに対しては賛成も反対もなかったです」

――実際に芝居のお仕事を始めてからもなにも?

北村「親として心配はしてたと思います。でもぐっと堪えてたんじゃないですか? たぶんアドバイス的にはいくらでもあったはずだし、『出してやるよ』といったことも出来たのかもしれないですけど、そういうのは嫌ってたんでしょう。『お前はお前でやれ』という感じでした。僕もなるべく七光りの光の当たらないところ当たらないところと探してやっていました。そうしたなかで、『あれ、親父の光は意外とすげーんだな。ここも当たってるのか』と、改めて親父の大きさを知る感じでした」

◆絶対、誰かが見てくれている

――お仕事を始めてから、大きな影響を受けた人や、作品などはありますか?

北村「23歳のときにオーディションで勝ち取った『春のめざめ』という舞台です。大森南朋さんや田中哲司さんも出ていたんですが、すべてそこから始まりました。いろいろアイデアを出して、良いものがあれば採用される場だったんです。それで、大森くん演じる主役の相手役、準主役に落ちこぼれの役があって、その役に対するアイデアを出したら通って、そのまま僕がその準主役に配役されたんです。

 その舞台にたくさんの舞台関係者がいらしていたようで、そこから仕事が繋がるようになっていきました。次の舞台に呼んでいただいて、そこからまた次の作品が繋がって。『ヤクザと家族』まで、すべては繋がっていると思っています。誰かが絶対見てくれている。よかったら繋がっていくし、ダメだったら減っていく。スリルがありますし、やりがいを感じる仕事です」

(C) 2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

<文・写真/望月ふみ>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi

2021/2/6 15:46

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