【今夜21時放送】DCコミックスが誇る『アクアマン』が描く“二つの世界を繋ぐ”神話世界

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「スーパーマン」や「バットマン」で人気の「DCコミックス」が、同作のキャラクターを一堂に結集させる「DCエクステンデッド・ユニバース」作品第6弾として製作された『アクアマン』(2018)。伝説の海底都市「アトランティス」を舞台に海底人たちの覇権争いが描かれる本作が今夜21時から「土曜プレミアム」で放送予定だ。

■時代を映す「MCU」と人間を描く「DCEU」

(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & © DC Comics

今や「アメコミ映画」では、それぞれの世界観の中でこれまで生み出され、養われてきたキャラクターたちを集結・競合させる“ユニバース化”の流れが浸透している。「アイアンマン」シリーズや「キャプテン・アメリカ」シリーズなどを擁する「マーベル・シネマティック・ユニバース」(以下、MCU)は、マーベルコミックスのクロスオーバー企画としてシリーズ映画歴代世界興行収入堂々の1位を保持している。対するDCコミックスもスーパーマン、バットマンやワンダーウーマンなどブランドの人気キャラクターたちを同一の世界観に集めた「DCエクステンデッド・ユニバース」(以下、DCEU)で負けじと応戦している。「MCU」と「DCEU」では、いずれもクロスオーバー企画でありながら作品世界としては異なる印象を与える。

一言でいえば、それはテーマ性の違いである。「MCU」シリーズでのヒーローたちの対立図式には、現実世界の状勢が反映されており、政治色を色濃く打ち出している。マーベルコミックスの各ヒーローの単体作品をみても、黒人俳優を起用しスーパーヒーロー映画としては初となるアカデミー賞作品賞ノミネート作となった『ブラックパンサー』(2018)や女性ヒーロー映画としてフェミニズム的な文脈にある『キャプテン・マーベル』(2019)など、その時代の政治性や社会性を感じさせる作品が多く、どこかに暗い影がある。一方の「DCEU」シリーズからは、よりエンタメ志向でより骨太な人間ドラマを描こうとする姿勢を感じる。スーパーヒーロー、ないしは神々が私たちと何ら変わりない感情を持った人間の姿で描かれていて、その劇的なドラマ作品世界を「MCU」のように政治的な図式として還元することは野暮というものだろう。

ギリシアの神話世界に題材を求める「DCEU」の作品世界では、神々たちが天衣無縫に飛び回ったかと思うと、神界から人間界に繰り出したりもし、人間味に溢れた姿が活写される。ギリシアの神々は人間の姿を借り、人間との間に命をもうけることがある。そうして生まれる「半神」の物語は、多くの作品の恰好の題材となるのだが、幻の海底世界を描いた『アクアマン』(2018)は、まさにそうした出自に苦悩する中で自らの宿命を受けいれていく劇的なドラマ展開をみせる。本作で描かれる人間界vs海底国という対立図式には、人間社会による海洋汚染問題などアクチュアルな社会テーマが盛り込まれてはいるものの、それが強い政治色を示すかと言うと、作品自体は極めて爽快の一言に尽きるばかりだ。

■伝説の海底都市「アトランティス」の物語

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今からおよそ12000万年前、大西洋に存在していたと伝えられる伝説の海底都市「アトランティス」は、現代においても尚多くのロマンを掻き立て続けている。19世紀大英帝国では、時の首相グラッドストンの命により人類起源の大陸として調査が行なわれた。しかしこのアトランティスはなぜ海底深くに沈んでしまったのだろうか。古代ギリシアの哲学者プラトンの対話篇『ティマイオス』と『クリティアス』の伝承によると、かつて海神ポセイドーンが統治したアトランティス帝国は、オリハルコンの壁面に彩られ、地上世界において栄華を極めていた。しかしポセイドーンの末裔である王家の代になると、次第に神の意志とは裏腹に人間の欲望にまみれ、古代ギリシア世界で理想とされた友愛の精神を失っていく。見兼ねた主神ゼウスによって裁きが下され、アトランティスはおよそ9000年前に深い海の底に沈められ、以降海底都市の伝説が語り継がれていくことになるのだった。

『アクアマン』は、そうして海底人の国となったアトランティスを舞台としている。現オーム王(パトリック・ウィルソン)は、海底最強の戦士として鍛え上げられた崇高な精神を持つ人物であるが、尊大で暴虐な独裁は周囲からあまりよく思われていない。7つの国の統治者である「オーシャン・マスター」を自称するものの、その証である初代王アトラントの伝説の矛トライデントが見つかっていなかった。さらに母であるアトランナ女王(ニコール・キッドマン)が地上世界にもうけた純血ではない半神の兄の存在が自分を脅かすのではないかと疑心暗鬼していた。そこで彼は、自らが正真正銘の王であることを示すために、海の大自然を汚染する地上世界の征服に乗り出す。こうして本作は、海底vs地上の対立を軸としながら、神の意志を受け継いだ者たちによる壮絶なドラマを展開していく。

■二つの世界を繋ぐ者

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純血の正当性を主張する弟オームに対して、地上育ちのアーサー(ジェイソン・モモア)は、海底世界の覇権争いとは無縁の生活を送っていた。だが、アトランティスの参謀バルコ(ウィレム・デフォー)がオームの目を盗んで幼いアーサーを密かに訓練していた。水族館で魚たちとコミュニケーションが取れるなど、自らの能力を自覚していたアーサーは、海底の戦士としてめきめきと成長し、地上世界の治安維持に貢献する。そんな彼が海底世界へ足を踏み入れることになるのは、オームが地上世界への警告として起こした津波によって最愛の父トム(テムエラ・モリソン)がさらわれそうになったのを発端としている。地上に現れたベゼル国の王女でオームのいいなずけであるメラ(アンバー・ハード)が、バルコとともにオーム打倒のため動きだし、アーサーはオーシャン・マスターの称号を得るために伝説の矛トライデント捜索の旅に出る。

オームとの決闘の末命からがらアトランティスを脱出したアーサーとメラは、海中世界から一転し砂漠地帯が広がる砂海世界から古代ローマの誇り高きシチリアを経由し、途中、オームの刺客である海賊ブラックマンタ(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)の妨害に遭いながら、母アトランナが追放された海溝国へ到達する。そこで挑むことになる伝説の怪物カラゼンとの死闘。何千年の時を経て、アトラント王の手から託されるトライデントを手にしたアーサーは、半神でありながら正真正銘のオーシャン・マスターとして海底世界と地上世界の「架け橋」となる存在としての宿命を一身に背負うのだ。

古来から「海」は生命誕生の象徴として語られてきた。古代ギリシアやローマの哲人たちは地中海を眺め、多くの思索を深めた。19世紀から20世紀にかけてヨーロッパ最高の知識人であるフランスの詩人ポール・ヴァレリーもまた海の官能にその知性を“揺さぶられた”ひとりである。絶えず押し寄せては引いていく波が接点となり繋いでいるのが、海と陸である。渚という場所は、海と陸の中継点としてのそのどちらにも肩入れすることなく、海がもたらす喜びを享受する場であるとともに脅威の到来を告げる場でもある。それはまさに人間の精神状態を象徴するトポスとしてあり、人間の根源的な思想の場である。本作のアクアマンは半神という出自が示す通り、そうした狭間に立たされたことで、自らの宿命を受けいれ、この世界の太平を心に誓う。神話や物語の世界だけでなく、いつの時代にも、この二つの世界を繋ぐ存在が必要なはずである。二つの世界がせめぎ合う場所で、その不安と恐怖に絶え得る強靭な肉体と精神力を持つリーダーの不在がこの現実世界でもう少し叫ばれてもよいはずではないだろうか。

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