CYNHN、クロスノエシス、Ringwanderung……この時世だからこそ観たい独自の世界観で魅せるアイドル6選|「偶像音楽 斯斯然然」第60回

コロナ禍によって、ステージとフロアが一体となって盛り上がることが難しくなった昨今。今回は、そんな状況の中で独自な世界観で楽曲やパフォーマンスを魅せることによってグループとしての“強さ”を発揮している6組をピックアップ。それぞれの魅力を、冬将軍ならではの視点で掘り下げながら紹介していく。

『偶像音楽 斯斯然然』

これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

ライブレポートを執筆するたびに“感染症対策によって〜”みたいな文言はもういらないのではないだろうかと思うほど、それが当たり前になった現状のライブ環境。このパンデミックがよかったなんて言うつもりはないが、それによって気づかされたこと、新たに知り得たものがあるのも事実。

ステージとフロアが一体化することはライブの醍醐味でもあって、特にアイドルライブにおいては、ステージとともに観客が声を出して楽しむことが盛り上がりの指標にもなっていたとも言える。しかしながら、それができない現状では、純粋に歌や楽曲、そして演者としてのパフォーマンスそのものの価値が求められているように感じている。

それは単純なスキル面の話ではなく、オリジナリティや世界観といった魅せ方の部分である。たとえ観客が声を出せなくとも、じっくり観て楽しむことができる、“魅せつける”ことができるグループは、やはり強いのである。

今回は、こうした時世だからこそ観たい、独自の世界観を持ったグループの中から、これまでにも何度か紹介したものを含め、ハイソで(古っ!)オシャンな(古っ!)音楽を奏でる6組を改めて、最近のライブやリリースをもとに触れていきたい。

CYNHN 新たに魅せる4人の青

4人体制となったCYNHN。澄んだ空、深い海、優しい水の流れ……独自の“青”で周りを塗っていく。そんなさまざまな青の世界を魅せてくれるグループだ。

CYNHN 「氷菓」Music Video

しかしながらこの4人体制は、はっきり言ってしまえば、予期せぬマイナスからの再スタートだったわけで。いくら歌えるメンバーが揃っているとはいえ、新体制が整うまでには時間が掛かるのではないかと思っていた。

CYNHN「AOAWASE」Music Video

そんな不安はどこ吹く風、対バンイベントで観た彼女たちは、あたかもずっと4人で活動してきたかのようなステージを見せてくれた。奇数人数だと、たとえ演者側にそのつもりがなくとも見ている側に自然と“センター”ポジションのようなものができてしまうわけで、そういう意味でも4人編成はステージ映えのパワーバランスがよいのかもしれない。

加えて、これまで以上の勢力的なライブ活動、イベント出演が新規ファンへの知名度を拡大することとなった。実際に私の周りからは“初めて観たがよかった”、“最初から4人組じゃないの?”という声も多く上がっていた。

CYNHN「2時のパレード」Blue Spring Live Official Movie 2021.04.10

<CYNHN LIVE TOUR 2021 -AOAWASE->のツアーファイナル、恵比寿LIQUIDROOM公演(2021年6月26日)は新生CYNHNの存在を高らかに証明した夜だった。CYNHN楽曲の特徴といえば、青のコラージュというべきサウンドプロダクトと、練りに練られた楽曲構成に載る、清流のようなボーカリゼーションが美しいわけだが、この日見せた4人での新たな歌割りは楽曲に新たな息吹をもたらしていた。特に「ラルゴ」は、当時6人であった彼女たちそれぞれの特性を歌で紡いでいく人気曲だったわけだが、4人それぞれの個性を再認識させてくれる、そんな歌になっていた。

綾瀬志希がアニメーションMVを描き、百瀬怜が振りを付ける。月雲ねるが衣装をデザインすれば、青柳透がグッズを考案する。ステージ以外のクリエイティヴな側面でも個を魅せてくれる4人のCYNHNから目が離せない。

クロスノエシス ダークエレクトロが織りなす無機的世界

“ダークポップダンスアイドルユニット”という、いわば一般的なアイドルの煌めいたイメージから相反する、“ダークさ”を掲げるクロスノエシスも、独自の世界観を魅せつけているグループである。

クロスノエシス「moon light」

空間の広がりを作っていくというよりも、パーツを組み立てていく、そんな音色重視のサウンドプロダクトは、今どきのシンセポップというよりも、ニューウェーヴの感覚に近いのかもしれない。エレクトロサウンドが楽曲を差配しながらも、どこかロックバンド的な香りがするのは、そうした組み立て方、ロック好きの嗅覚に触れるサウンドと楽曲展開、メロディ構成によるものだろう。90年代のUKロック、はたまたV-ROCKとの親和性を感じる楽曲が多く存在している。

歌メロ自体は音符の動きの多い、歌謡的なキャッチー性があったりと耳馴染みの良い曲が多いのだが、「moon light」ではメロディとは一切関係のない電子音のリフが終始鳴り続け、妙な不穏さを掻き立てていたりと、どこか漂う非日常感と退廃美もロック好きのツボをくすぐってくる。

クロスノエシス「光芒」2021.4.22「EVOLUTION POP! Vol.47」TSUTAYA O-WEST

ライブでは、モダンバレエやコンテンポラリーな方面からのパフォーマンスを美しく魅せていく。エモーショナルなロックアイドルなカッコよさとは別方面からの、無機的でクールな独自の美学を追求している。

Ringwanderung 美しい幾何学模様の万華鏡

ひょんなところからみょんの舌ペロに、いや、緻密に作られた楽曲に心奪われたRingwanderung。

Ringwanderung「ハロー ハロー」(Lyric Movie)

今最も注目すべき実力派グループとして何度も取り上げているリンワンだが、確実にパフォーマンス力を上げ、6月27日に行なわれた渋谷studio Wでの<2ndワンマンライブ[ VERSE ]>では、さらに磨きの掛かったステージを見せてくれた。ハイクオリティな鍵盤ロックに載せたしなやかな歌と、演舞的に魅せていくテクニカルなパフォーマンスが絶品で、小洒落た聴き心地ながら迸るエネルギッシュな躍動感も見どころだ。そのライブの様相は、揺れ動く美しい幾何学模様の万華鏡を眺めている気分になる。

楽曲、サウンドともにマスロック風な先鋭さを見せることもあるのだが、前衛音楽ほどの小難しさを感じさせない柔らかい耳馴染み具合いが見事。それでいて聴けば聴くほどに、緻密に組み込まれたリズムやメロディの複雑さがわかるという、なんとも奥ゆかしく深みある音楽を作っているグループなのだ。

Ringwanderung「es」(Lyric Movie)

このたび、ライブのダイジェスト映像を交えたリリックビデオを公開。今までは定点カメラのライブ映像が主流であったが、今回の映像によってより細やかな視点から彼女たちのステージを観ることができる。

ビジュアルワークにも独自のセンスが感じられるグループであり、毎回青系と赤系を交えたスタイリッシュな衣装も魅力の1つ。どんなに作り込んだ衣装でも、靴は動きやすさ重視で既成のスニーカー、というグループが少なくない中で、靴にまでこだわりを見せているところにも注目したい。

8月4日には初音源化曲を含めた1stフルアルバム『synchronism』をリリースとのことで、そうしたリンワンの美学を堪能できる初MVを期待してしまうのは私だけではないはず。

SOL 堅牢さとメロディの揺らぎが生む少女性

シネマティックエンターテイメントクルー、SOL。そのキャッチコピーのとおり、まさに映画やミュージカルを観ているような異世界に誘われるグループだ。

鍵盤やストリングスで煌びやかな拡がりを見せながらドラマチックな展開と、なだらかに音符を削っていくようなエネルギッシュなメロディの揺らぎが美しいポップスを武器としている。しかしながら、土台となっているのは堅牢なバンドサウンドであるのが実に興味深いところ。小粋にキメてくるドラムのフィル、スネアがやけに骨太であったり、ヘヴィなギターが垣間見えたり、聴けば聴くほどにロック好きを唸らせてくる。

楽曲制作はNEO JAPONISMと同じく、サウンドプロデューサー・Sayaが中心となるチーム、A-Spellsによるものだが、同グループがキャッチーさを極めつつも硬派なロックで攻めているのに対し、SOLはひたすらにポップネスを追求している。バンドサウンドの使い方、棲み分け的な部分で両グループを聴き比べてみるのも面白いだろう。

現体制となって初となるEP『SEQUENCE4』は、一般的なアイドルが持つ煌びやかさとは一味違う、ピュアな少女性を打ち出すSOLのベクトルをよりはっきりさせたような作風だ。

どこかインディアな香りがする「運命のダンス」、ホーンセクションをふんだんに散りばめたミュージカル調の「ドッペルゲンガーと憂鬱」、軽快なリズムと流麗なストリングスの入れ方、とことんシンプルな美メロにこだわった「ミライノツバサ」、現体制になって歌唱面での成長具合いをありありと見せつけてくる「サマークラッシュ」など、グループの基盤を大事にし、一切のブレを見せずにさらなる新境地を拓こうとする貪欲な姿勢を見せる4曲が揃い踏み。これからの期待が高まる作品になっている。

さて、ここからは本連載コラムで取り上げるのは初めてのグループを2組紹介する。

さっきの女の子、 ジャジィで未来のスタンダード

さっきの女の子、は2016年に活動を開始したグループであり、過去にライブを観たことはあったのだが、かなり久しぶりに観たら印象が変わっていた(メンバーが変わっていた)。

さっきの女の子、「に絶対的に騙されて」

人気ボカロP・YASUHIRO(康寛)を軸とした制作陣によるジャジィな楽曲は“Neo Idol Jazz”を掲げている。6月15日リリースのミニアルバム『さっきの女の子、と交流』に収録された「に絶対的に騙されて」は激しいスラップベースと、ちょっとレトロなメロディが印象的、「のジレンマ」は刹那メロにミュージカル風味もあり、まさにコンセプトに掲げる“未来のおしゃれスタンダード”。グループ名の読点は楽曲タイトルに続くところに統一されており、全曲「と」「を」「の」……といった助詞はじまりのタイトルになっている。

さっきの女の子、「のジレンマ」

本体の活動とは別に、柊しゅうによるベースの弾いてみた動画がオフィシャルYouTubeチャンネルにアップされている。

【うっせぇわ/Ado】アイドルが休日返上でベースを弾いてみた

Ado「うっせぇわ」からSiM「KiLLiNG ME」まで、現在4曲がアップされているのだが、手にするのはIbanez SRの上位モデル、しかも5弦という通好みの楽器選びもさることながら、右手首をしなやかに動かした安定感のあるオルタネイトピッキングが見事。そして、このプレイスタイルには珍しくミッドレンジに重きを置いた太くブーミーなサウンドメイクも心地よい。派手なプレイではないが、ベーシストとしての信条がよくわかる堅実的なプレイに感服。次はどんな曲を聴かせてくれるのか、楽しみだ。

終わらないで、夜 ノスタルジックで瀟洒な4人組

最後は“夜が好きな人は人が嫌い。”という、なんとも拗らせたようなコンセプトにグッとくる、終わらないで、夜。

終わらないで、夜「Mother Depth」

レトロな感触がありつつも、洗練された気品に溢れた香りを放ち、ノスタルジックな雰囲気をも漂わせているサウンドプロダクト。さらに、美麗なメロディラインがこのグループの輪郭を色濃くなぞっていく。

そんな楽曲の世界観をさらに強めているのは4人のボーカル。アイドル的な歌声でも、歌い上げるようなディーヴァ系でもないのだが、耳にスッと入ってくる綺麗な歌声。凛とした木兎あうる、ミステリアスな風貌とは裏腹な可憐さに溢れた真宵えま、芳醇な響きを持つ鈴星るう、ハスキー気味の印象的な倍音を含んだ声は祈園にっと、と瀟洒な4人が織りなす四様の歌声は、いわゆる“Female Vocal”ファンの琴線に触れるところだろう。

終わらないで、夜 -「シンデレラ」

白を纏ったライブにおける世界観の作り込みも絶品である。現在3ヵ月連続デジタルリリースの彼女たちから目が離せない。

2021/7/3 12:00

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