石橋貴明、山本圭壱…YouTube番組の新潮流におじさん世代が目を輝かせるワケ

―[ロスジェネ解体新書]―

 あらゆる年代の人がいる職場はまさに“世代のルツボ”。特に社会に出て間もない人にとって、過重労働が社会問題になっている時代にあって嬉々として“徹夜仕事”をしたり、なんでも電子化、レンタルできる世の中で“モノにこだわる”40代以上の世代は奇異に映るかもしれない。

 社会の文脈的に“ロスト”されてきた世代は、日々どんなことを想い、令和を楽しもうとしているのか。貧乏クジ世代と揶揄されつつも、上の世代の生態をつぶさに観察し、折衝を繰り返してきたロスジェネ世代の筆者ふたりが解説していく。

◆上司と部下はなぜ、YouTubeの話題で盛り上がれないのか?

「会社の部署内での週一の定例会議で最近必ず“アイスブレイク”として雑談をするのをルールにしています。最近よくみるYouTuberの話になったりもするのですが、部下(20歳代後半)となかなか噛み合わずに盛り上がりません……」(46歳・建材メーカー)

 この数年顕著になった現象のひとつに、話題の中心がテレビの番組からYouTubeを中心とした動画コンテンツやNetflixなどのサブスク配信サービスに移行したことがあります。2020年にはコロナ禍も相まって、かなり加速しました。

 特に最近はテレビ電話で会議を行うことも多いためか、「空気の読めなさ感」を補うためにこうした“アイスブレイク”の時間をあえて設けることもあるようで、若手諸氏からすると「上司と無理やり雑談させられるキツい時間」という、“アイスブレク”とは真逆の“凍りつく空気”を生み出す地獄の時間になってしまう事案が全国で発生しているようです。

◆昭和~平成初期のエンタメの影響力

 最近の我々ロスジェネ世代のYouTube視聴は、20〜30歳代にはついていきづらい「潮流」ができはじめている気がします。

 そのワケを紐解いていくと、幼い頃から長年エンタメにどっぷりと浸かって育ったロスジェネ達にあるようです。物心ついた1970年代後半以降、テレビを中心に「完璧なエンタメ布陣」が揃っていたことにその理由が挙げられそうです。

“視聴率100%男”こと萩本欽一や『8時だよ!全員集合!』のドリフターズの作り込まれたコントやからはじまり、2者を猛追したビートたけし、明石家さんまを擁する『オレたちひょうきん族』といった「何を(どのチャンネルを)観ても面白い」といった状態。「テレビがつまらなくなった」と言われがちな昨今ではおよそ実感が沸かないお笑いの総量で、お茶の間でのテレビ視聴を通してバラエティ脳が純粋培養されていました。

 その後も、ダウンタウンやウッチャンナンチャン、とんねるずの登場から、ナインティナインらによる平成の長寿バラエティ『めちゃ×2イケてるッ!』の開始など、テレビ黄金期の受け手としての経験がロスジェネ達の「バラエティ脳の強化」につながったのではないでしょうか。

◆おじさん世代がハマるYouTube番組

 話をYouTubeに戻しましょう。最近この「潮流」という視点で気になるYouTubeチャンネルがあります。

 ひとつは石橋貴明さんの『貴ちゃんねるず』。そのノリや勢い、面白さは、90年代に絶頂だったとんねるずの『みなさんのおかげです』や『生でダラダラいかせて』に通じるものが多く、テレビで放映するにはBPOが黙ってないだろうな…という過激なものも多くあります。

 突然芸人を“拉致”して美容院につれていき、やりたくもないパーマをかけてしまう…など、お得意の“若手いじり”企画や、清原和博さんのようななかなかテレビには出演しなくなった方々をゲストに招くなど、昨今テレビではNGと言われそうなことから選んで企画にしていっているような感さえあります。

 さらに動画の企画や構成、演出のクオリティも当時の番組と全く引けを取らないのです。むしろ、起死回生、今まさに「石橋貴明ここにあり」と言わんばかりの面白さです。

◆めちゃイケを彷彿とさせる『けいちょんチャンネル』

 もうひとつは、極楽とんぼ山本圭壱さんの『けいちょんチャンネル』。配信開始当初こそ再生回数が振るわなかったものの、人気コンテンツへと成長。全盛期の『めちゃ×2イケてるッ!』の雰囲気をそこここに醸し出すバラエティに仕上がってきています。

 志半ばにして同番組から離脱した山本さんの、「やり残したことを次々と何でもやってやる」という気迫が強く感じられて、そのリミッターの外れ具合が視聴者を惹きつけます。中心となる制作スタッフに『めちゃ×2イケてるッ!』の方が参加し、同じくレギュラーだった鈴木紗理奈さん、光浦靖子さんらの参加でより話題も加熱しはじめていることは、オリエンタルラジオの中田敦彦さんも『winwinwiiin』 内で指摘されていました。

◆予定調和のない面白さ

 両者の共通点は「何が起こるか分からない」面白さにあります。ケンカ上等、迷惑上等……一見するとメチャクチャなことをしているようで、視聴者が安心して観ていられる“器の大きさ”もある。百戦錬磨のこの芸当は並のYoutuberにはできない強さがあります。

 どこかプロレス的でありながらも、リアリティショーとしてのスピード感もある。自分たちが面白いと思ったことを貫き、観たい人が観ればいい――こんな制作チームの意気込みも、あの頃の破天荒な番組をテレビでやれなくなった今、YouTubeで大きく花開こうとしているかのようで、ロスジェネ世代にとっては「なんだか最近ワクワクする」「配信が楽しみだ」となるわけです。

 20歳、30歳代との会話にお困りのロスジェネ世代の皆さん、お互いのアイスブレイクのきっかけに、よかったらこの2つのチャンネルあたりからオススメしてみるのはいかがでしょう?もちろん、若手からのオススメを受け入れる懐の深さもお忘れなく。

<イラスト/押本達希>

―[ロスジェネ解体新書]―

【ディスコ☆セリフ】

数々の雑誌を渡り歩き、幅広く文筆業に携わるライター・紺谷宏之(discot)と、企業の広告を中心にクリエイティブディレクターとして活動する森川俊(SERIFF)による不惑のライティングユニット。

森川俊

クリエイティブディレクター/プロデューサー、クリエイティブオフィス・SERIFFの共同CEO/ファウンダー。ブランディング、戦略、広告からPRまで、コミュニケーションにまつわるあれこれを生業とする。日々の活動は、seriff.co.jpや、@SERIFF_officialにて。

紺谷宏之

編集者/ライター/多摩ボーイ、クリエイティブファーム・株式会社discot 代表。商業誌を中心に編集・ライターとして活動する傍ら、近年は広告制作にも企画から携わる。今春、&Childrenに特化したクリエイティブラボ・C-labを創設。日々の活動はFacebookにて。

2021/7/4 8:51

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