「コロナで会えない」外国人彼女に送金、会社を解雇された40代男性

 コロナ禍に関連する解雇や雇い止めなど「コロナ解雇」が社会問題となるなか、関東・東日本で店舗を展開する外食関連企業勤務・Aさん(30代)は最近、年上の部下のBさん(40代)に解雇を言い渡した。その理由は、業績の悪化などではない。会社のカネを着服したからである。

「新型コロナウイルスのせいで会えなくなった国際恋愛の彼女に送金するため、だそうです」

 Aさんが言う。そして気だるそうな溜め息をつき、「言い換えれば、これから会える見込みのない女性に大金を貢いでいた、ということです」と、告げた。

◆着服を見抜いた本社社員Aさん

 Aさんから見たBさんは部下ではあるが、同時に先輩である。Aさんが入社した際の初めての上司がBさんだった。つまり、AさんはBさんを追い越して出世したということでもある。

「もちろん、Bさんに対する恩はあります。それも、とんでもなく大きな恩です。だから着服が発覚した時、私はその分を自腹で補填しようとしました」

 これは会社の業種問わず言えることだが、着服とは何気ない偶然から発覚することが多い。今回の場合、Bさんが責任者を務める営業所の機材が故障したことがきっかけだ。動かなくなった機材はもちろん修理しなければならないが、この会社では「どのような経緯で機材が故障したのか」を必ず調査する。

 そのためにBさんの営業所に本社社員、即ちAさんがやって来た。

「ちょっと驚きましたね。汚かったんですよ、営業所が。ロクに掃除をしている様子がないんです。Bさんはここまでズボラだったのか、と思いましたね。そして、何というか……ああ、これは何かまずいことをやってるなと察してしまったわけです。直後、私はBさんに“帳簿を見せてください”と言ってました」

◆隠蔽か、報告か

 Aさんの勘は当たった。帳簿と実際にあるカネを照らし合わせてみると、大きな差がある。Aさん曰く、その額は「ウン十万円」だという。

「帳簿との差が100円とか200円くらいなら、まあたまにあることです。しかし、ウン十万円だとさすがに見過ごせません。バレるのは時間の問題です。いやもう、悩みましたよ。私がそのウン十万円を出して揉み消してあげるか、それとも本社に報告するか……。結局、後者を選びました」

 その後、本社からBさんの営業所に内部監査が入る。同時に、Aさんにも監視がついたという。

「本社は私の性格をよく知っていますから。実際、このことを隠蔽するかどうかで悩んでいたわけですし」

 下手な温情を発揮しなくて本当に良かったと、Aさんは頭を抱えた。

◆「そういう商売」の外国人彼女に貢ぎまくる

 ここで時系列が飛んでしまうが、ご容赦いただきたい。時は2年前、新型コロナウイルスがこの世に現れる前のことだ。

 Bさんは余暇を使って旅行をした。行き先は海外である。その国——日本より遥かに物価の安いフィリピンで、Bさんはひとりの女性と出会った。

「単刀直入に言えば、そういう商売の女性です。その旅行の間でBさんは彼女と寝て、帰国後も連絡を取り続けました。わざわざ有給休暇を消化してフィリピンへ行くこともありました。向こうで彼女の家族にも会ったそうですよ。ええ、婚約しちゃったんです」

 Bさんは彼女を日本に呼ぶつもりで、マンションを購入した。単身で住むにはあまりにも大きい3LDKの部屋である。

 しかし、彼女は今も来日していない。

「向こうは新型コロナのせいで来日できないと言ってるそうですが、まあ……普通に考えたら、Bさんに貢がせているわけですよね。本人から話を聞くと、どうやら日本からの送金に彼女の家族全員が群がっているみたいで。ただ一番の問題は、Bさん自身に“貢がされている”という自覚が皆無な点です」

「で、Bさんはもう解雇されたんですよね? マンションのローンとか今後の送金とかはどうなるんです?」

 筆者の問いにAさんは、

「知りませんよ、そんなの」

 と、眉間に皺を寄せた。

「私がBさんに対して大恩があるのは事実ですけど、それを帳消しにして余りある罵詈雑言を最後の最後に言い放ちましたから。“Aは出世のために俺を踏み台にした”だの、“お前は本社の密偵だ。他の営業所でも同じことをやってるんだろう”だの。自分はこんな男のために自腹を切って着服を隠そうとしていたのかと、恥ずかしくなってしまいました」

◆住宅ローンを抱えた40代無職

 他人の恋愛についてとやかく言うつもりはないが、これもまた「コロナ禍の景色」のひとつであることは間違いないだろう。

 まだまだワクチンが出回らない状況下で、Bさんは最悪の形で失職してしまった。それについてAさんは、こう付け足した。

「Bさんはひとつの業種しか知らない人です。しかもその業種は、新型コロナで大きな損失を被っています。同業他社への再就職は、まあ早くても来年あたりにならないと望めないでしょう。それまで住宅ローンを抱えているBさんがどうやって生きていくのかは……すいません、やっぱりこの話はやめましょう」

<取材・文/澤田真一>

【澤田真一】

ノンフィクション作家、Webライター。1984年10月11日生。東南アジア経済情報、最新テクノロジー、ガジェット関連記事を各メディアで執筆。ブログ『たまには澤田もエンターテイナー』

2021/7/2 15:54

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