「この見た目で損してるの」悲しみの26歳OLが母親から言われた驚きの忠告
美人か、そうでないか。
女の人生は“顔面偏差値”に大きく左右される。
…それなら、美しく生まれなかった場合は、一体どうすればよいのだろう。
来世に期待して、美人と比べられながら損する人生を送るしかないのか。
そこに、理不尽だらけの境遇に首をかしげる、ひとりの平凡な容姿の女がいた。
女は次第に「美人より、絶対に幸せになってやる!」と闘志を燃やしていく。
◆これまでのあらすじ
広告代理店の美人ぞろいと評判の部署に異動した園子。仕事からの帰り道、片思いの幼なじみ・晋から突然、彼女ができたと告げられる。
仕事だけでなく恋愛でも「見た目で損ばかりする」と落ち込む園子は、中高時代の親友たちとオンライン飲みをして愚痴る。すると、親友から“さえない女の特権”があると言われ…?
▶前回:「報告があるんだ」片思いの相手が見せてきた、衝撃の写真とは…
オンライン飲み会で、画面越しの親友は“さえない女の特権”について、得意げに語り始めた。
「私たちのような女の特権はね、男の人と“完璧な女友達”になれることよ。恋愛だとほとんどの場合終わりがあるけど、友達だと終わりがないから、一生失わない相手になれるの」
確かに、と園子は思う。
もし自分が美人だったら、晋とはこんなに仲良くなれていないだろう。どこかで恋愛っぽい雰囲気になって、気まずくなったかもしれない。
けれども“完璧な女友達”になれることは、特権でもなんでもないと思うのだ。
「…私は相手を一生失わないより、一瞬でもいいから手に入れたいな」
つい口に出してしまった本音から、画面越しでも感じられるほど重い空気が広がっていく。
園子たちはみんな中高時代から、明るく振る舞ってきた。教室ではいつもおちゃらけて、わいわい笑っていた。…キラキラした女子たちから隠れるようにして。
本当は私たちだって、休み時間に大声で恋バナをしたり、流行りのアイドルソングを教壇で堂々と踊ってみたりしたかった。
でもそんなことを望んでみたところで、どうにもならないのだ。
「…なんてね!」
園子は誤魔化すように笑い、22時を過ぎたところでオンライン飲みは解散となった。
― 手の中にあるカードで戦うしかないことくらい、わかってるよ。
画面を切ったあと胸の中でそうつぶやいた園子は、部屋の隅に置かれた新しいハンガーラックに目をやった。
園子は両親の前で、あることを思わず口走ってしまう…
ハンガーラックには、自分をアップデートするために奮発して買った新品のブランド服とバッグがいくつもかけられている。
― 結局、変わることなんてできなかったな。一体いくら使ったんだろう。
ため息をつきながら、その中でひときわ目立つディオールの花柄ワンピースを手に取り、姿見の前で身体に当ててみる。
「やっぱりダメだ…」
この服は、テレビで旬の女優さんが着ていて素敵だったから買ったのだ。なのに自分が着ると違和感しかないし、安物のように見える。
営業部の美人たちが着たら、一瞬でサマになるのだろう。
ひとりでうなだれていると、1階から両親の笑い声が聞こえてきた。その声に引き寄せられるように、園子は居間へと下りていく。
「おお園子。食べるか?」
リビングのテーブルの上には、父が経営する和菓子店の商品が並んでいる。この時間は、家族で和菓子を楽しみながら会話をするのが日課なのだ。
しかし営業部に異動してからはあまり気が乗らず、自分の部屋にこもることが多くなっていた。
「ほら、美味しいぞ。最近元気ないから、食べなさい」
父親が笑顔で差し出した豆大福を見て、園子は首を横に振る。
「…なんだ食事制限か?甘いものは、元気のために必要なんだぞ」
呑気な父親の様子に、つい言い返してしまう。
「ダイエットじゃないわ…。痩せたところで、美人にはなれないもの」
この言葉に、両親は顔を見合わせた。園子はひるまずに話し続ける。
「あのね。私、この見た目で損してるの。…というか、今までの人生ずっと損してきたの」
園子が自分の見た目について両親の前で嘆いたのは、26年間でこれが初めてだ。
「ああ、両親を悲しませてしまう…」そう思ってとっさに後悔したとき、父親はケラケラと優しく笑い出した。
「なーに言ってんだ。園子は可愛いだろうが」
父親は目を丸くしながら、母親に「なあ?そうだよなあ?」と念押しする。
「…お父さん、ありがとうね」
園子はいたたまれない気持ちになり、自分の部屋に引き上げていった。
◆
正直、父親の褒め言葉は真実味がないので嬉しくなかった。…なのに、どこか救われる気持ちになったのも事実だ。
― 愛されてるなあ。
そのとき、園子は思った。「清華さんみたいな特別な見た目があれば…」そう切望していたけれど、自分だって特別なものを持っている。
それは、両親からの愛。
膨大なお金をかけて整形すれば、変身することはできる。けれども、愛は手に入れようとして手に入るものではない。
気にかけてくれる両親がいることは、かなり特別で恵まれたことではないか。
それに、と部屋をぐるりと見回す。
20畳近くある和室には、何枚もの賞状が長押の上にかけてある。これは、園子が学生時代に熱を入れていた習字や華道のコンテストで授与されたものだ。
豊かで不自由のない暮らし。これだって、相当恵まれている。
そう思ったとき「園子~?ちょっと入るよ」と、母親の声がした。
園子の部屋に訪れた母親が、伝えたこととは…?
「心配になっちゃって」と襖を開けてゆっくりと部屋に入ってきた母親は、園子の横の座布団に腰を下ろした。
そして温かいお茶を差し出し、照れくさそうに笑う。
「園子には、教えそびれたかもしれないね。そりゃあ世の中には美人がわんさかいて、彼女たちはだいたいの場合、得をする。世の中そんなに綺麗じゃないから、それは事実よ」
「…うん」
「だから、もし園子にとっての一番の幸せが“みんなからちやほやされて得すること”なら、そのために突き進みなさい。…整形したって何も言いませんよ」
突然の“整形”という言葉に対して身構える園子に、母親はふっと口元を緩めた。
「ただね、園子。自分にとって一番の幸せが何なのかを、間違えないようになさいね」
それだけ言って、母親は立ち上がる。そして部屋を出ていく間際に振り返った。
「参考までに、お母さんの人生はとんでもなく幸せよ。園子がいて、お父さんがいて、毎日笑ってて」
美人とは言い難い母親だけれど、カラッと笑ってみせたその顔は、本当に満ち足りているように見えた。
― 自分にとって一番の幸せ、か。
営業部に配属されてから、確かに「ちやほやされて得することが何よりの幸せ」であると思うようになっていたかもしれない。
園子が思い描く一番の幸せは、不特定多数からちやほやされることでは決してない。
なのに、周りのみんなが持っていて自分だけが持っていないものがあるから、うらやましくなったのだ。
少しでも美人に近付こうと必死だった。そのせいで、いま手の中にある幸福など、どうでも良くなってしまっていたのだ。
― きっと私の幸せは、自分らしくいること…。
「よし!」
園子はパソコンを開き、今の仕事に役立ちそうな書籍をいくつも購入した。
中身で勝負することが、自分にはできる気がしたのだ。明日からはもっとマシな気持ちで頑張ろうと、笑顔を浮かべて立ち上がる。
目の前にある大きな姿見には、久しぶりの心からの笑顔が映っていた。
▶前回:「報告があるんだ」片思いの相手が見せてきた、衝撃の写真とは…
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