“世界一孤独”な日本のおじさんたち。「新しく友人をつくる気力はない」

今年2月、内閣官房に孤独・孤立対策室が設置されるなど、今や大きな社会問題となった日本人の「孤独問題」。浮き彫りになった“望まない孤独”の正体と、「孤独」が人体に及ぼす深刻なリスクに迫った!

◆蔓延する孤独の正体。日本のオジサンが危ない?

 コロナ禍によってさらに深刻化している孤独。人々に多様な健康リスクをもたらすことが、最近の研究で明らかになっている。

「東京都健康長寿医療センター研究所では『高齢期の社会的孤立と閉じこもり傾向による死亡リスクは2倍』という結果を発表しています。海外でも『早死にリスクが50%上昇する』という研究結果が明らかになり、孤独は世界中で深刻な病として捉えられています」

 そう語るのは、『世界一孤独な日本のオジサン』の著者で、コミュニケーション戦略研究家の岡本純子氏だ。孤独とは「物理的に一人きりの環境下に置かれることだけではない」と語る。

「問題は、自分が望んだ人間関係と、現実の人間関係の間に乖離があるかどうか。政府はこれを“望まない孤独”と定義し、その悪影響を危惧しています。人間関係や環境にかかわらず、『本人が孤独を感じているかどうか』のみが現代の孤独を測る指標になるのです」

◆日本は「孤独大国」

 孤独死に直結するような中高年はもちろんのこと、最近では子供や女性の孤独化も著しい。日本では、’20年に11年ぶりに自殺者数が増加。特に女性と子供の増加率が高いことが話題になった。

「海外では10年以上前から問題になっていましたが、新型コロナの流行によって人との繋がりが希薄になり、女性や若者の自殺が増えたことで、日本でも孤独問題がクローズアップされました」

 そもそも日本人は外国に比べて孤独である可能性が高い。「家族以外の人」と交流がない割合がOECD加盟国中トップで、核家族化・少子化が進んでいる日本は「孤独大国」だといえる。

◆中年男性が孤独に陥りやすいワケ

「業界の関係上、コロナ禍でも出社していたんですが、取引先で感染者が出てしまい、私も自宅隔離を余儀なくされました。テレワークを続けていくうちに、どんどん孤独感が大きくなりましたね」

 そう語るのは、機械メーカーに勤める浅井裕介さん(仮名・44歳)。高校を卒業してからは営業一筋で、社内外の人間と対面でコミュニケーションを取り合いながら仕事を進めてきた。

「会社の人間関係は良好で、コロナ流行前は頻繁に同僚や後輩たちと飲みに行っていました。しかし、自宅隔離以降は出社することはほとんどなくなり、1年近く飲み会も開催されていない。妻と2人きりの生活を続ける中で、会社以外に自分の人間関係がほとんどないことに気がつきました」

 浅井さんのように「大きな孤独に悩まされる男性は多い」と前出の岡本氏は語る。

「男性というのは『会社と肩書』を喪失し『何者でもない自分』になったとき、周囲とのコミュニケーションが激減します。特にそれが顕著になるのが定年退職のタイミングです。そのとき初めて『会社への依存』に気がつくことが多い。今回のケースは、コロナ禍が定年退職後のような環境をつくり出した結果、今までにない孤独を感じたのでしょう」

◆男性は古くからの価値観に苦しめられている

 先述したように世界と比べて「家族以外の人」との交流がない日本人。中でも男性は古くからの価値観に苦しめられている。

「日本の男性は『寂しさは甘え』『孤独は自業自得』『弱さを明かすのは恥』というような孤独賛美の側面が諸外国に比べて強い。自分から積極的に関係性をつくることができず、孤独を感じやすい傾向があります」(岡本氏)

 現在は妻との会話で孤独を紛らわせているという浅井さん。「もし妻に先立たれたら」と考え、強い不安を感じてしまうそうだ。

「正直、会社以外に気軽に連絡を取れる友達はいません。このまま孤独を感じて生きていくのは嫌ですが、この歳から新しく友人をつくる気力はないですね」

◆弱くても心地いい人間関係を複数作ることが重要

 男性は唯一の支えである家族を失ったとき、どうなってしまうのだろうか。一人暮らしの高齢者へのアンケートでは、「ちょっとした手助けでも頼れる人がいない」と答えた女性が10%ほどだったのに対し、男性は30%を超える。

「女性のコミュニケーションの基本はコラボレーションですが、男性はコンペティションです。競争社会の中で培ったマウンティングのような会話しかできない中年男性が、将来的に孤独な状態に陥ってしまうということは十分に考えられます。行きつけの喫茶店やスナックをつくったり、ペットを飼ったりして、弱くても心地のいい人間関係をいくつもつくっておくことが孤独から身を守る対策になります」(岡本氏)

 古い価値観に侵された中年男性は、自ら孤独に追いやられているのかもしれない。

【コミュニケーション戦略研究家・岡本純子氏】

企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化支援のスペシャリスト。著書に『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)

取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/杉原洋平 恵原祐二 図版/松崎芳則

※週刊SPA!6月29日発売号の特集「死に至る孤独の病」より

―[死に至る孤独の病]―

2021/6/30 8:53

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