『ドラゴン桜』を見た東大生が「理想が高すぎる人は危険」と納得した理由
―[貧困東大生・布施川天馬]―
現役東大生の布施川天馬と申します。学生生活の傍ら、ライターとして受験に関する情報発信などをしています。
◆完璧主義はいいことなのか?
皆さんは大雑把なタイプでしょうか? それとも、完璧にこなそうとするタイプでしょうか?
僕は間違いなく前者で、何事についても8割くらいあってれば、あとは「だいたいいいだろう」と思ってしまうタイプです。
飛行機の整備士や医者など常に完璧な気配りが求められるような仕事は、僕には絶対できないので尊敬してしまいます。
もちろん完璧主義でもそうでなくても、さまざまな分野で結果を出している人はいますから、このあたりの性格が結果を出せる人かどうかの境目というわけではありません。
◆「自分に厳しい」は立派に聞こえるが…
とはいえ、「あまりにも完璧主義すぎるのはよくない」と僕は考えています。
むしろ、完璧にしすぎず、適度に力を抜いて物事に臨む人ほど結果を出しているのではないかと思うのです。
なぜなら自分に厳しいということが、時として自分自身を苦しめてしまうことになるから。
一見すると「自分に甘い」よりも「自分に厳しい」ほうがずっと立派に思えますよね。でも、それが無理な目標だったらどうでしょうか。
◆「非現実的な目標」は非効率を生む
たとえば、僕は非常に足が遅いのですが、そんな僕が「ウサイン・ボルト並の速さで100メートルを走れなかったから自分はダメだ!」と自分を責めるのは適切なのでしょうか。
さすがにそのチャレンジは無謀ですよね。まずは「とりあえず13秒台を目指す」というように、もっと手の届く範囲の目標から始めるべきでしょう。
このように無謀な目標を設定しておきながら自分に厳しく当たり続けるのは、あまりにも効率が悪いのです。
この教訓は先日の日曜劇場『ドラゴン桜』の中のワンシーンにも見ることができました。
◆『ドラゴン桜』で描かれた「フリースロー勝負」
前回、放送された第9話には桜木先生と、その教え子の瀬戸輝くんがフリースロー勝負をするというシーンがありました。
「10本投げて、1本でも多くゴールしたほうが勝ち」という非常にシンプルなルールの勝負です。
桜木先生から持ち掛けられたこの提案に現役バリバリ男子高校生の瀬戸くんは二つ返事で快諾し、勝負が始まります。
序盤、2本連続でフリースローを外す桜木先生に対して、瀬戸くんは2本連続でシュートを決めました。これに彼はますます調子づき、周りの誰もが瀬戸くんの勝利を確信してやみません。
◆「シュートを全部決めようとした」から負けた?
しかし、勝負は中盤からおかしくなり始めます。
桜木先生のシュートが連続で決まり始めたことに動揺したのか、1本のシュートを外してしまった瀬戸くんは、そこからまったくゴールを決めることができなくなってしまいました。
結局、勝負は桜木先生の勝ち。試合後、「負けたのは運が悪かっただけ」とぼやく瀬戸くんでしたが、ギャラリーや瀬戸くんらに向かって伝えた桜木先生の言葉が本当に参考になるのです。
桜木先生は「お前(瀬戸くん)がここぞというときに失敗したのは、シュートを全部決めようとしたからだ」と言ったのでした。
◆「完璧主義」が心の余裕をなくす
普通に考えて、「たくさんシュートが入ったほうが勝ち」というルールなら「全部入れてやろう」と思いますよね。でも、これが間違いだというのです。
それは心に余裕がなくなってしまうから。全部入れようと思っていると、成功している前半はいいものの、後半になればなるほど、どんどんプレッシャーがかかってきます。
実際に瀬戸くんは勝負中盤にシュートを外してしまった際、「これ以上はもう外すことができない」と強く意識してしまっていました。
◆「4本外してもいい」がもたらした好循環
一方で、桜木先生は最初のシュートを連続で外してもまったく焦ることはありません。これはもともと「10本中の6本くらい入ればよい」と考えていたからでした。
「10本中の6本を入れる」ということは、裏を返せば「4本は外していい」ということになります。
ですから、最初に連続で外そうとも、「まあ、まだ自分には2本の猶予があるし」と考えることができたのです。
◆焦りに飲み込まれて自滅をしないためには…
このような「多く○○したほうが勝ち」という勝負になると、ついつい全部できるように欲張ってしまいがち。
もちろん、前述のフリースロー勝負にしても、1本でも多くのシュートを決められるに越したことはありません。
とはいえ、ここで瀬戸くんのように全部入れるつもりでは、外せば外すほどに「もう外せない」という焦りが出てきてしまいます。
瀬戸くんはこの焦りに飲み込まれて自滅していってしまいましたが、桜木先生は自分の実力がよくわかっているからこそ、あえて「4本を捨てる」という行動に出ることで、全体的な安定感を確保したのでした。
◆「無理のない理想」がちょうどいい
もちろん完璧にこなすということが悪いわけではありません。とはいえ、「完璧にこなそう」と思ったことを本当に完璧にこなせる人は稀だと思います。
だからこそ、自分の実力をよく把握した上で、「最低限超えたいライン」と「理想のライン」を2つ設定してあげるなど、工夫が必要になってくるのです。
「完璧にこなすことができないから自分はダメだ」ではなく、「今は完璧にこなすことなどできないから、最低でもこれくらいはできるように頑張ろう」というように考えることこそが重要になります。
完璧主義傾向の人も、そうでない人も、何かを始めるときには、まずは自分の現在の実力で、無理のない理想を考えることから始めてみるのはいかがでしょうか。
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある(Twitterアカウント:@Temma_Fusegawa)