東京都・大規模接種センターでのワクチン接種が「感動の30分」だった理由

 大規模接種センターでのワクチン接種は感動的な体験でした!

 東京五輪・パラリンピックを前にいよいよ本格化した新型コロナウイルスへのワクチン接種。筆者も自衛隊による東京都の大規模接種センターでワクチン接種の1回目を受けることができました。その体験は日本の底力を感じるような感動的体験でしたので、ぜひご共有したく思います。

◆6月19日、大規模接種センターで接種

 筆者が接種を受けたのは6月19日のこと。接種対象年齢が64歳以下の人にも拡大されたことを受け、居住自治体から配布された接種券を手に、大規模接種センターのウェブサイトで予約を取って接種を受けました。

 予約サイト立ち上げ時の報道では、間違った番号を入れても予約が取れるなど「ダメサイト」のように書き連ねる記事もありましたが、実際に予約を取る段階では「間違える」ことがあったとしても「それが大問題になる」ことはないと理解できました。

 必要となるのは自治体から配布された接種券に記載の「6ケタの市区町村コード」と、個人を識別する「10ケタの接種券番号」と「生年月日」ですが、これらの番号を適当に入力するはずもなく、よしんば間違った番号で予約が通ってしまったとしても、接種会場で接種券と身分証明書を確認されますので、エラーはその場で訂正すればいいだけのこと。

「悪意ある予約者」さえいなければ問題のないシステムです。スピードを第一に作成された簡潔なシステムに対して、「悪意ある予約者」の発生を助長した記事こそが「悪」だったなと、予約をしてみて改めて実感しました。

◆東京駅から無料シャトルで会場へ

 予約時点では6月27日までの枠は一旦満了となっていましたが、サイトをときどき見ているとポツリポツリとキャンセル枠が発生していました。筆者がトライしたタイミングがたまたまよかったのかもしれませんが、キャンセル枠に予約を入れるのに30分もかかりませんでした。

 プレイガイドでの人気公演のチケット争奪戦に比べれば、造作もありません。18日の夕方に翌日19日分のキャンセル枠に予約を入れ、「ひとつの枠も無駄にはしない」という気持ちで接種会場へ向かいます。

 東京会場は東京メトロ大手町駅から徒歩3分、竹橋駅から徒歩2分とアクセス良好な立地ですが、大手町の土地勘がなかったので行きは東京駅から出ている無料のシャトルバスを利用しました。

 東京駅のさまざまなところにシャトルバス乗り場への案内が表示されており、はとバスの黄色いバスが列を成して接種者を待っています。かつてない苦境にある観光業の人たちが、こういう形で活躍してくれているのを見ると、胸が熱くなるものがあります。乗り込んだバスは座席の50%を埋めたところで出発し、約10分で接種会場に到着しました。

◆「プロジェクトX」さながらの接種会場

 ここから先はまさに「プロジェクトX」の世界でした。ワクチンの大規模接種という前例のない事態に対して即席で作られたはずのオペレーションは、驚くほどスマートで圧倒的なスピード感がある、文字通りの「大規模接種作戦」でした。

 まず入場ゲートをくぐると、人々は4つほどに分かれた入口からセンター内に入ります。さらに左右2列で処理されるので、同時に8列ほどをさばいていく形だったでしょうか。

 その列ではひとつの工程にひとりの担当者がついており、「消毒どうぞ」「検温します」「検温済のシールを発行します」「手荷物検査します」「接種券と身分証と予診票を確認します」「ではこのファイルを持って奥へ」と次々に入場処理をされていきます。

 駅の改札を通過していくくらいのスピード感で、8列の人々がザッザッザッと行進していくさまは壮観でした。

 ときおり接種券を忘れたり、身分証明書を忘れたりする人もいますが、そうした人は別に待機しているイレギュラーな人用の対応窓口に誘導され、本流が滞ることはありません。あらかじめミスはあるものとして専用の人員が待ち受けているあたりは、強靭な現場力だなと感心しました。絶対に流れは止めない、そういう意志を感じました。

◆バケツリレーのようなスムーズな案内

 受付を終えた人は赤・青・黄・緑のファイルを渡され、必要書類をそこに入れて奥へと進みます。そこから先は「人間」と「色」によって迷いなく進めるような案内がされています。まず、通路ひとつ、角ひとつごとに細かく案内のスタッフさんが立っており、「はい、あちらへ」「はい、こちらです」とバケツリレーのように接種者がパスされていきます。

 その案内だけでも十分なところに、さらに「色」のサポートが加わります。筆者が渡されたクリアファイルは青色だったのですが、青グループの人は床面が青色に塗られた待機場所に集められ、7人集まると青色のビブスを着用したスタッフさんの案内でさらに奥へと誘導されます。そこから先も、床に4色に色分けされた矢印が貼ってあり、それを見るだけでも目的地に進めるようになっています。

 スタッフさんと矢印を見て奥に進むと、色分けされたエレベーターまで案内され、ちょうどぴったりの人数で接種フロアへと送られました。色ごとのグループで接種フロアが異なっており、それが予約サイトでの接種会場①~④という区分けに対応していた模様。ここまでの所要時間は10分かからないくらいでしょうか。待機場所にはイスも置いてありましたが、座ったのは数秒でした。

◆接種したのはモデルナ製ワクチン

 接種フロアでは「予診票確認の部屋」「医師による問診の部屋」「接種の部屋」という具合で、ひとつの工程をひとつの部屋で処理して、どんどん奥へと進んでいきます。

 エレベーターから部屋までの通路にも角ひとつごとに案内のスタッフさんがいますし、部屋に入ると自分が向かうべき窓口をすぐに案内してくれるスタッフさんがいますし、ひとつの工程が終われば次の部屋へと案内してくれるスタッフさんがすぐに迎えてくれます。どのスタッフさんもハキハキとして快活で、とても気持ちのいい対応でした。

 いよいよ緊張の接種へ。こちらも待ち時間はほとんどなく、袖をまくって待っているとすぐに順番がまわってきます。利き腕ではないほうに接種するのがよいとのことで、左腕を出します。腕をダラリと下げて待つと、肩の上のほうにモデルナ製ワクチンを接種してもらえました。注射器の針が細いのか痛みはほとんどありません。

◆「オリパラ前には2回接種」も達成予定

 健康診断の採血よりも遥かにラクで、インフルエンザの注射よりもラクに感じました。お医者さんの足元の箱には大量の注射器が廃棄されており、たくさんの人が接種を受けているんだなぁと改めて思います。この注射器の数だけ、世の中が安全安心に近づいていると思うと、また胸が熱くなります。

 その後は接種完了の確認をする窓口へとまわり、次回の予約もそちらで取ることができました。モデルナ製ワクチンは4週間間隔を空けて2回目を接種する必要があるとのことで、空き状況も鑑みて次回は7月20日の接種となりました。何となく意識していた「東京五輪・パラリンピックの前に2回接種」というスケジュールは達成できそうです。できるかぎりの準備をできたな、と思います。

◆気の利き具合はまるで「一流のカフェ店員」

 筆者はアレルギー等もなく、当日の体調も「絶好調」でしたので、接種後の経過観察時間は15分でした。とは言え、接種後に次回予約の相談をしていたりしたので、ほとんど待機時間はありません。イスに座ってテレビを見ながらお待ちくださいという待機部屋もあったのですが、座った途端に所定時間は過ぎている状態。

「せっかくだからもう少し休むか……」と思ったものの、「何時何分まで経過観察すべし」という紙を渡されていたため、それを的確にチェックしていたスタッフさんから「具合はいかがですか?」とすぐに追い出しの声が掛かりました。

 まるで一流のカフェ店員のような気の利き具合です。特に変調もなかったのでそそくさと接種会場をあとにします。全体での所用時間は30分ほど。スマホを見る隙もないくらい、あっという間の接種体験でした。

◆戸惑いも迷いもない感動的なオペレーション

 東京会場は接種を担う自衛隊と、受付や案内を担う日本旅行との共同作業で運営されているそうです。知らない土地や知らない国でもツアー客を引率する観光業のノウハウと、多くの医療スタッフと練度の高い隊員を抱えた自衛隊の物量、ふたつがガッチリと噛み合って今や一日で1万人もの接種を実施していると言います。

 ただその「一日1万人」という数字さえも、現場を体験した身としてはまだまだ奥深い余裕を感じる数字でした。万全を約束できるのがその数字というだけで、もっと過酷な状況に世の中が追い込まれていたら、さらにチカラを発揮するのだろうと思えるほど、この現場は強靭でした。

 ワクチン接種に限らず、ここまでスムーズな案内をされたことは記憶になく、一瞬の戸惑いも迷いもない接種体験は「感動」の一言です。人員の手配からオペレーションの構築まで、この短期間でよくぞここまで整えてくれたものだと、ワクチンを接種したこと以上に、この「接種体験」そのものに感動しました。

 自衛隊という「国防」を旨とする組織を、便利屋的に起用することには若干のためらいもあるものの、「日本を守る」ということにおいて強い実行力を持つ「頼れる集団」の存在に頭が下がります。自衛隊による大規模接種は早晩終了し、ここでのノウハウが各自治体に展開されていくということですが、道筋をつけて颯爽と現場をあとにするなんて、猛烈にカッコいいじゃないですか。「スタッフさんに敬礼!」の気持ちです。

◆「ワクチンを打たない自由」をどう考えるべきか?

 さて、ワクチンの接種が加速するなかで、最近しばしば報道などで取り上げられるのが「ワクチンを打たない自由」という言説です。なるほど、累計の陽性者数が約78万人ということで、人口の1%にも満たない状況ですから、まだワクチンを打たなくてもいいだろう、様子見でもいいだろう、そもそも必要性を感じない、という意見は理解できます。

 しかし、このコロナ禍の1年間は「誰かの自由」を制限してきた1年間でした。飲食店やイベント業、観光業といった人たちが感染を拡大させる「悪」とみなされ、営業を制限されてきました。

 外食すること自体やお酒を飲むこと自体、あるいは旅行すること自体で感染が拡大するわけではなく、そのなかで起きる「会話」や「会食」あるいは「交流」が真に感染拡大の機会であるにもかかわらず、「元から断たなきゃダメ」とばかりに彼らの自由は制限されました。今もなお、その自由は制限されつづけています。

 誰かの自由を制限するなかで、「コロナも怖い」「でもワクチンも怖い」「私は一切リスクを負いたくない」「誰かが魔法のように解決してほしい、私の自由は保ったうえで」とはなかなか言えません。飲食・イベント・観光業などの自由が制限されたのと同様に、「ワクチンを打たない自由」もまた制限されるだろうと筆者は思います。

 大規模接種、職域接種、自治体での接種、自分が行ける機会を最大限活用して、速やかに接種を進めることだけが、安心安全のために奪われてきた「誰かの自由」に報いる方法だろうと思います。「打たない自由」が制限されないのなら、飲食・イベント・観光業などもまた制限なく「自由に」やらせるべきだろうと。互いの自由を尊重するべきだろうと。そう思います。

◆「大切な人の命を守る」ことに一歩前進

 ワクチンが100%効くわけではなくても、すでに接種を進めている国の状況を見れば、劇的に効果があるようではあります。接種が進むことで発症者が減り、医療への負担が軽減され、安心感が世間に広がって、奪われてきた誰かの自由が戻ってくる。

 今まさに苦境のなかにある人たちを思うと、体質的に打てない、接種するほうがリスクが大きいという人を除いた「打っても打たなくてもどっちでもいい人」「ただ何となく打ちたくないだけの人」は出来る限り速やかに接種を進めることが、今まさに困っている人のため、大切な人のため、そして自分自身のために必要だろうと筆者は思います。

 その一助として、筆者もただ機会を待っているだけでなく、自分から率先してつかまえにいったということでもあります。何をやろうとしても「リスクがある」「不要不急」「中止すべき」と制止される世の中から脱するための1票を投じる、そういう気持ちで。

 心配される向きが多いだろう副反応も、1回目の接種に関しては特になく、当日から翌日にかけて接種したほうの腕に筋肉痛のような痛みが出た程度でしたし、それも翌々日にはスッキリと消えました。まだ1回接種しただけの段階ではありますが、「大切な人の命を守る」ことに一歩前進したという喜びもあります。

 自分から機会を求めに行ったことで、感動的な大規模接種センターでのオペレーションも体験できましたし、ハッキリ言っていいこと尽くめでした。ただ迷っているだけなら様子見などせず、早いうちに打っちゃってはいかがでしょうか。ワクチンに一番くわしいだろう日本中のお医者さんたちが自ら率先して接種していますし、コロナとワクチンでどっちが危険かと言ったら普通にコロナだと思いますしね!

2021/6/27 8:50

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