ダービーに2頭同時出走を果たして注目。DMMの一口馬主革命に迫る

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―[あのすごい企業の「中の人」に聞いてみた]―

◆我が子(馬)を応援する楽しみを誰にでも

 日常に何気なく溶け込んでいる商品やサービスの裏には、知られざる逸話や並々ならぬ努力が隠されていた……。

 そんな“実はスゴい”エピソードを持つ企業を紹介する連載企画第5回目は、新興ながら今年の日本ダービーに所属馬が2頭出走する快挙を果たしたクラブ法人「DMMドリームクラブ」、および一口馬主サービス「DMMバヌーシー」を取り上げる。

 話を伺ったのは、DMMドリームクラブ株式会社代表代行/ゼネラルマネージャーの椎名竜大氏、そして取締役兼株式会社DMM.com証券リスク管理部長の青木正男氏だ。

◆新興クラブがダービー出走馬を2頭輩出

 競馬好きでなくとも一度は耳にしたことがあるであろう日本最大級のGIレース・日本ダービー(東京優駿)。昨年の2歳新馬戦から実績を重ねてきた17頭(出走予定のダノンザキッドは骨折で回避)が、今年5月30日に東京競馬場(府中市)に集結して栄冠を競った。DMMドリームクラブからの出走馬は、タイムトゥヘヴン(石橋脩騎手)とディープモンスター(武豊騎手)だ。

 日本の競走馬の生産数は、毎年7000頭あまり。その中からダービーに出走する18頭に入るのは、単純な確率で言えば0.2%、生半可なことではない。なにしろ何十年も所有馬を走らせていながらも、ダービーに出したことがない馬主などごまんといるのだ。

 そんな彼らを横目に所有馬2頭をダービーに送り込んだDMMドリームクラブは、大快挙だろう。DMMドリームクラブのゼネラルマネージャー椎名竜大氏は、喜びを興奮気味に語った。

「ダービーへの挑戦は大手クラブでも難しいのに、2頭出しとなれば喜びもひとしおです。当クラブは、立ち上げ翌年の2018年にキタノコマンドールがダービーに出走し、2019年にはラヴズオンリーユーがオークス(優駿牝馬)で優勝しました。

 2020年は3歳(現4歳)世代の勝ち上がり率が13頭中9頭でクラブ法人において第1位になるなど、1勝するのも難しい世界でこれだけコンスタントに結果を出せているのは、手前味噌にはなりますが、何か“持ってる”んじゃないかという気がします(笑)」(椎名氏)

 1勝もすることなくさってゆく馬が大半とも言われる競馬界。そんな世界にあって、バヌーシーの所有馬は健闘どころか躍進してると言っても過言ではないだろう。

◆高額馬を1万口の超小口化で募集

「DMMバヌーシー」は、コンテンツから通信・インフラまで幅広い事業を手がけるDMM.comグループの一事業だ。出資希望者は「DMM.com証券」に専用の口座を開設して入金し、同証券はその資金を使って購入した競走馬を、JRAが認めた馬主資格を持つ別法人「DMMドリームクラブ」に委託。同クラブは馬を管理育成してレースに参加させ、獲得した賞金を同証券に還元する仕組みだ。

 競馬法では馬主資格を持たない人物が共同馬主になる行為を名義貸しとして禁じているため、そこを回避するための知恵。競馬界では20件超の一口馬主クラブが存在するが、そのいずれも同じ仕組みである。このスキームにおいて、DMM.com証券にあたる法人は「愛馬会法人」と呼ばれ、DMMドリームクラブは、「クラブ法人」として位置づけられている。

 個人馬主の資格には金銭面での高いハードルが設けられているが、そこを満たさない一般庶民にも、競走馬のファンドへの出資(一口馬主)というかたちで門戸を開いたというわけだ。

「JRAの個人馬主には、過去2年の所得金額が1700万円以上、資産が7500万円以上ないとなれません。実際、それだけのお金がないと継続して馬を持つことが難しいわけですが、小口化すれば馬を購入する費用も維持費も、一人あたりの負担が軽くなります。レースで賞金を獲得したときのリターンが少なくなる代わりに、支払いも減らしてリスクを少なく所有気分を味わおうというのが一口馬主クラブです。

 厳密にいえば個人が直接馬主になるわけではありませんが、実際に費用を負担し、出資した口数に応じて分配もあり、所有する感覚が得られるので “自分の馬”という愛着度が高まるのは大きな魅力だと思います。また、“血の継承”という意味で、お気に入りの馬の仔の成長を逐一見守る楽しみもあります」(椎名氏)

◆椎名氏とDMMの出会いは記者時代に遡る

 そんな椎名氏とDMMドリームクラブとの出会いは、2017年のこと。この年7月10日のセレクトセール(日本競走馬協会が主催するサラブレッドせり市場)で、DMM.comはラヴズオンリーユーを1億6000万円(税抜)で落札。

 にわかに業界関係者の注目が集まるなかで、DMMドリームクラブによる一口馬主サービス「DMMバヌーシー」の創設が明らかにされた。当時、椎名氏はスポーツ新聞社の競馬担当記者として本件を追っていたそうだ。

「セレクトセール当日は事前に情報が出ておらず、いきなり高額馬を競り落としたので『DMMが競走馬事業に参入か!?』と、業界はにわかに色めき立っていました。僕はそれよりも前の段階からDMMの動きが気になって取材を進めていた経緯があったので、DMMサイドが気を遣い、『明日、公になります』と電話をくれました。

 その後、単独取材をセットしてもらうような状況もあり、いろいろと事業について話を聞いているうちにご縁があって声をかけられ、自分もこの事業に参画することになりました。『面白そうな仕事ですよね』と言ったら、『じゃあ来ませんか?』みたいな、勢いのある流れでしたね。周りからは、『DMMはうまくいかなかったらすぐ撤退するぞ、やめとけ』と止められましたけど、面白そうだったので入社しちゃいました(笑)。

 DMMバヌーシーは3億円超えの高額馬を1万口に超小口化し、維持費込みの払いきりで募集をかけるなど、当時ではかなり斬新な試みでした。伝統を重んじる競馬界に新しい風を吹かせるのは間違いないと直感しましたし、実際にかなり話題を呼んでいました。初期のあのやりかたは、認知を広げるきっかけにもなったと思います」(椎名氏)

 取材対象として話を聞いていたDMMに気がつけば入社。一口馬主事業を任されるようになるとは、なんとも夢のある話である。

◆コンスタントに動画をアップし愛馬の成長記録を届ける

 DMMバヌーシーは一般的なクラブで1~3万円程度必要な入会金が不要なため、入会のハードルが低く、口座開設数は2021年5月23日現在で4万7000を超える。

 無料会員のまま一部コンテンツを楽しむことも可能だが、それに飽き足らない1万2000あまりのユーザーは、実際に出資して一口馬主ライフを謳歌しているそうだ。

 会員のボリュームゾーンは30、40代の男性だが、所属馬の近況映像のコメントやSNSでは、女性からの反応も多く見受けられるという。

「クラブ会員へのサービスとして、とくに動画提供には力を入れています。原則として週に1回の頻度で愛馬の様子を動画で配信しており、愛馬の動いている姿を見ることで愛着がより高まると思っています。デビューする前には、愛馬の成長過程をまとめた特別動画を作ってもいるので、より感慨深くデビュー戦を見守れるのではないでしょうか」

 会員向け取引ツール内とYouTubeで週1回、所属馬の近況について椎名氏が話す動画を流しているが、2020年の緊急事態宣言下は配信を週2回に増やす対応をとったそうだ。

「もともと1万口でスタートしたこともあり、牧場見学や募集馬選定ツアーなど、上限人数の兼ね合いで馬を直接見る機会はなかなか設けづらい。その代わりに動画提供に力を入れてきたことが、このコロナ禍においては救いとなっている気がします。

 現在は競馬場での口取り(勝った馬と馬主との記念撮影)、馬主席招待などのサービスができないので、動画によって少しでも愛馬を身近に感じていただきたいです」

◆GⅠの舞台で活躍する馬を……

 現在、DMMドリームクラブに所属している馬は、現役の競走馬と、競走馬登録前の2歳馬を合わせて39頭。なかでも注目馬する馬を聞いた。

「どの馬にも同じ想いで接していますが、目立つところではやはりオープンクラス。一昨年のオークス、今年は香港のクイーンエリザベスII世カップで勝ったラヴズオンリーユーは、この秋、日本馬が勝ったことがないアメリカ競馬の祭典ブリーダーズカップの『フィリー&メアターフ』に臨む方向で調整しています。日本ダービーに出走したタイムトゥヘヴンとディープモンスターに関しても、また重賞やGIの舞台で頑張ってくれると期待しています」

 計算だけでは一筋縄ではいかない競馬の世界に黒船のごとく現れたDMMバヌーシーの今後の快進撃に期待だ。次回は、椎名氏をはじめとする「中の人」について深掘りする。

取材・文/松嶋千春(清談社)

―[あのすごい企業の「中の人」に聞いてみた]―

【松嶋千春(清談社)】
様々なメディア媒体で活躍する編集プロダクション「清談社」所属の編集・ライター。商品検証企画から潜入取材まで幅広く手がける。

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