「報告があるんだ」そう言って片思いの相手が見せてきた、衝撃の写真とは…
美人か、そうでないか。
女の人生は“顔面偏差値”に大きく左右される。
…それなら、美しく生まれなかった場合は、一体どうすればよいのだろう。
来世に期待して、美人と比べられながら損する人生を送るしかないのか。
そこに、理不尽だらけの境遇に首をかしげる、ひとりの平凡な容姿の女がいた。
女は次第に「美人より、絶対に幸せになってやる!」と闘志を燃やしていく。
◆これまでのあらすじ
大手広告代理店の経理部から、華の営業部に異動した園子。懸命に仕事へと励むが、トレーナーの清華や得意先に嫌味を言われてしまう。
その帰り道。落ち込んでいた園子の前を偶然通りかかった、幼なじみの晋に呼び止められて…?
▶前回:「恥かかせないでくれない?」上司と得意先からの言葉に、女が唖然とした理由
しとしとと小雨が降る夜。晋の傘に入り、神楽坂の街をふたりで歩く。園子は昔のことを思い出していた。
― なんだか懐かしいなあ、この感じ。
園子と晋は、幼なじみだ。お互いの家が近くにあるため幼少期から仲が良く、小学生のときはこうしてよく同じ傘に入って歩いたものだった。
無邪気な子どもだった頃を思い出しながら、横を歩く晋を見る。彼は今や立派な27歳の銀行員で、スラリとした長身にネイビーのスーツがよく似合っている。
そんな姿を見ていると、唐突に照れたような気持ちになった。
「…ねえ。園子さ、なんか雰囲気変わった?」
突然のその言葉に、心臓が跳ね上がる。
― やっぱり、変だと思われたのかな…?
目を泳がせながらも、そう思われるのは当然だと考える。
園子は社会人になってもほとんど化粧をせず、ヘアアレンジなんてしようとも思わなかった。なのに今日はきちんと化粧をして髪も巻いているし、ベージュのワンピースにピンヒールという格好なのだ。
「実は、営業部に異動になってさ。ものすごく綺麗な人ばかりいる部署なの。だから溶け込もうと頑張ってて」
変だよね、と誤魔化すように笑う。しかし晋は予想外の反応を見せた。
「いいね。似合うじゃん」
驚いて彼を見ると、目尻を思いっきり下げて笑っていた。
― 似合うじゃん、だって!
手先だけで小さくガッツポーズをして、ひそかに頬を染める。園子は、晋に恋をしているのだ。小学生の頃からずっと。
彼の一言で、今日の仕事でのモヤモヤした気分がスーッと溶けていく。嬉しくてマスクの下でニヤニヤしていると、彼が怪訝な様子でこう言ったのだ。
晋が園子に言った、予想外の言葉とは…?
「…でもなんか、園子さ」
「ん?」
首をかしげた園子を見て、晋は困ったように笑った。
「なんか園子、疲れてる感じがする。…いや、気のせいだったらごめんな」
彼は昔から、ちょっとした変化にもすぐ気づく繊細な人なのだ。
「…気のせいじゃないよ」
心配されないよう明るく笑い飛ばしたつもりなのに、声は全然明るくならず、むしろ震えて響いた。
慣れないピンヒールで雨のなか歩く園子を気遣い、晋はゆっくりと歩いてくれる。そのテンポと同じ穏やかな様子で、彼は言った。
「よかったら今からご飯行く?僕でいいなら話、聞くよ」
そしてふたりは、通り沿いの蕎麦屋に入った。昔から何度も一緒に来ている老舗の名店だ。
「何にする?鴨そば?」
「…何でわかるの?」
目を丸くする園子を見て、彼は「そりゃ園子の好物くらい覚えてるよ」と悪戯っぽく笑った。
「で、しんどい部署ってどういうこと?」
そうして注文を済ませてから、目の前の晋が深刻そうな顔で言ったのだった。
園子は今の部署について、お蕎麦を食べながら話しだした。
美人が多く園子は浮いた存在で、周囲から邪険に扱われることや、頑張ってなじもうとしても全然うまくいかないことを彼に伝える。
「…だから私、正直しんどくてさ。疲れちゃった」
その力ない声に、晋は箸を止め、眉間を寄せて不満げな表情を浮かべた。
「園子がそんなつらい思いしてるの、嫌だな。僕に何かできればいいんだけど」
「ありがとう。…晋ちゃんがそう言ってくれるだけで、随分救われる」
「ほんと?ならよかった」
晋は小さく笑い、それから独り言のようにつぶやいた。
「見た目より、人間性の方が圧倒的に大事なのにね」
その言葉は、園子の長年の傷を癒す。やっぱり晋ちゃんはデキた人だわ、とうっとりした気分になる。
たわいない話をしながら最後に蕎麦湯を飲んでいると、晋が急に何か思い出したように話しだした。
「あ、そうだ。僕、報告したいことがあるんだ」
晋の衝撃の報告に、園子は…?
「彼女できたんだよ。言ってなかったよな?」
おしぼりで口を拭きながら、晋はさりげなく言った。園子は一瞬、世界が遠のくような感覚に襲われる。
「へえ…」
「園子と同い年でね、美容部員やってる子」
― 美容部員、か。
その響きからは、美人の匂いがぷんぷん感じられた。
「いいね。きっかけは?」
「出会いはアプリ。明るくていい子だから、良いなって思ったんだ」
「…ふうん」
園子は頭の中で考える。晋は銀行員という手堅い職業に加え、高身長で顔もそこそこかっこいい。しかも、家柄も立派だ。
学生時代の彼女と3年前に別れてから恋人がいなかったが、それがむしろ不自然だったのだろう。
そんなことを思いながら晋の顔をまじまじと見ていると、彼はひとりで笑い出した。
「あ。彼女、園子に似てるかもな。エネルギッシュで明るい感じが」
― なんで似てるとか言うんだろう。
晋に悪気がないことはわかっていたけれど、園子は妙に寂しい気持ちになり、それを隠すようにお得意のおどけたテンションで笑いかけた。
「ね!ツーショット見せてよ!」
リクエストに応じて彼が差し出したスマホの中で、アイドルのように華やかな女の子と晋が写っている。
「…かっわいい。やるじゃん晋ちゃん!」
バシバシと晋の肩を叩きながら、園子はさっき聞いた彼の独り言を思い出していた。
“見た目より、人間性の方が圧倒的に大事なのにね”
― ま、そりゃ結局、人間性だけじゃだめよねえ。
心の中で言ってから、自分の屈折した気持ちにハッとする。卑屈になることはめったにない園子だが、営業部での日々によって心がすさんでおり、悪いほうに考えてしまうのだ。
暗い気持ちを振り払うように、伸びをしながら明るい口調で言った。
「いいじゃん。あ~羨ましいなあ」
「いいだろう」
ふざけたように答える彼に、思う。
― 違うよ。晋ちゃんがじゃなくて、彼女さんが羨ましいんだよ。
そんな思いなど知りもしない彼は、伝票をつかんで立ち上がりながら「今度ぜひ紹介するよ」と、なんの邪気もない顔で言うのだった。
◆
翌日の夜。園子はオンライン飲み会に参加していた。
画面に映るのは、名門と言われる中高一貫の女子校で“いつメン”だった4人の女子たち。園子が一番心を開けるメンバーだ。
学生というのは、そうしているつもりはなくても、同じような容姿レベルでつるむものだと園子は思う。…だからこそ、落ち着くのだ。
「ねえ、みんな聞いてよ」
園子はマシンガントークで、営業部の愚痴や、晋への失恋について話した。
「ほんと、この見た目で損しかないんだけど」
いつものように笑う園子に、友人のひとりが口を開いた。
「でもね、園子。さえない女って損も多いけど、特権もあるよ」
― 特権?
そんなものないでしょと心の中で言いながらも、園子は少しだけ期待して「なになに教えてよ」と身を乗り出した。
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気になる“さえない女の特権”とは一体…?