「ロキ」だけじゃないトム・ヒドルストン、“七変化”の魅力に迫る

あのアベンジャーズを苦しめた宿敵でありながら、ファンからは「ロキ様」あるいは「ロキちゃん」「ロキたん」と呼ばれ、愛されているマーベル・キャラクターのロキ。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で思いがけなく、そしてあっけなくMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)を去ってしまい、涙に暮れた人は数知れない。

だが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』に“過去のロキ”という形で再登場した彼は、Disney+オリジナルドラマシリーズ最新作「ロキ」でタイトルロールとなって帰還! マーベル・スタジオが自信を持って送り出すドラマシリーズにおいても、嘘と悪戯を愛する“裏切り王子”として圧倒的魅力を振りまいている。

それはひとえに、トム・ヒドルストンがロキを演じればこそ。“トムヒ”として日本でも親しまれている彼が、自身を大ブレイクさせたキャラクターを再び喜々として演じていることを噛みしめながら、ロキだけではない、多彩なこれまでの作品を振り返った。

ロキ役で英国俳優ブーム、MCU人気を後押し

トム・ヒドルストンは1981年2月9日生まれ、イギリス・ロンドン出身で、ベネディクト・カンバーバッチやエディ・レッドメイン、トム・ハーディらと並ぶ人気“英国俳優”の代表格。ケンブリッジ大学在学中から舞台作品や「チャーチル/大英帝国の嵐」などのTV映画に出演し、その後、ケネス・ブラナーやアンソニー・ホプキンスら多くの名優を輩出する最高峰・王立演劇学校(RADA)で学ぶ。なんとイートン校時代には、同窓のエディと学芸会で共演。「ハワーズ・エンド」「眺めのいい部屋」などで知られる作家E.M.フォースター原作の「インドへの道」で、エディが演じた女性主人公が乗る“象の右足”役を担当したという。

2007年に『Unrelated』(原題)で映画デビュー。ウエスト・エンドのシェイクスピア劇「シンベリン」ではローレンス・オリヴィエ賞の新人賞を受賞する。そして、BBCドラマ「刑事ヴァランダー」で共演し、舞台でのタッグもあったケネスが監督する『マイティ・ソー』(2011)でロキ役を演じて世界的にブレイク。その後、『アベンジャーズ』から『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』『マイティ・ソー バトルロイヤル』、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』まで6作のMCU作品でロキを演じてきた。

『マイティ・ソー』では当初、20ポンドも筋肉をつけて肉体改造を行い、ソー役でオーディションを受けたが、シェイクスピア劇でのトムをよく知るケネス監督によってロキ役に起用されたことは有名な話。ソー役に決まったワイルドでアグレッシブな魅力のクリス・ヘムズワースとは対照的で、気品と色気、繊細さと冷淡さを合わせ持つロキをトムが演じたことは、彼自身のみならず、MCUをスケールアップさせることになったのは間違いない。

ほかにも、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『戦火の馬』に参加し、ウディ・アレン監督の映画『ミッドナイト・イン・パリ』では小説家のF・スコット・フィッツジェラルド役で「ロキ」メビウス役のオーウェン・ウィルソンとも共演。エディとはアードマン・アニメーションズの『アーリーマン ~ダグと仲間のキックオフ!~』で“再共演”が実現した。プライベートでは、テイラー・スウィフトやジェシカ・チャステインらとの交際も大いに注目を集めた。

また「東京コミコン2018」で来日し、溢れんばかりの気さくな笑顔でファンサービス。このとき「ロキ」の噂について問われ、お茶を濁していたのもいまや懐かしい。

「ホロウ・クラウン/嘆きの王冠」

=放蕩のハル王子からヘンリー五世へ

とらえどころのない予測不可能なロキを演じた後、歴史劇「ホロウ・クラウン」(2012)では、ヘンリー四世(ジェレミー・アイアンズ)の最大の悩みであった奔放すぎる息子のハル王子を演じた。最近ではNetflix映画『キング』でティモシー・シャラメが演じたことも記憶に新しい同役。狂乱の世で酔いどれの老いたフォルスタッフをからかう悪戯っ気たっぷりの王子から、勇ましい甲冑に身を包んだ兵の先頭に立つ王への変貌ぶりは、彼がシェイクスピア俳優であることを改めて目の当たりにする。

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』

=ミュージシャンの吸血鬼

2013年、ジム・ジャームッシュ監督のもとでティルダ・スウィントンと何世紀も生き続けるヴァンパイアのカップル、アダムとイヴを演じた。アンダーグラウンド・ミュージックシーンでカリスマ的な人気を誇るミュージシャン役は、退廃的で謎めいていてセクシーでエレガント。亡きアントン・イェルチン演じる青年でなくとも、思わず心酔してしまうはず。

『クリムゾン・ピーク』=妖しい准男爵

『パンズ・ラビリンス』『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロが監督した2015年のゴシック・ミステリー。降板したベネディクト・カンバーバッチに代わってトーマス・シャープ役で出演し、『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』でも共演したミア・ワシコウスカが主人公に。不気味ながら徹底された世界観のお屋敷に、感情を押し殺したトムヒの不穏さがハマりすぎ。

『ハイ・ライズ』=パーティー三昧の医師

40階建ての新築タワーマンションは階層がそのまま経済格差、上層階に行くほど富裕層になる。ここに越してきた医師、ロバート・ラングはスパやスカッシュを気ままに楽しみ、毎晩のように開かれる堕落したパーティを満喫、人妻シャーロット(シエナ・ミラー)とも親密になる。やがて、混乱に巻き込まれていき…。名作SF小説が耽美に、過激に映像化され、何が起こってもとにかくスーツorナッシングなトムヒが乱れまくる。

「ナイト・マネジャー」

=ホテルのマネジャーからスパイへ

スパイ小説の大家ジョン・ル・カレの原作を、デンマーク出身の女性監督スサンネ・ビア(「フレイザー家の秘密」)がドラマ化。復讐を誓うスマートなスパイ、ジョナサン・パインとして、人気海外ドラマ「Dr. HOUSE」のヒュー・ローリー演じる武器商人の組織に潜入、ヒリヒリするような駆け引きに挑む。『TENET テネット』エリザベス・デビッキとの危険な熱い情事も必見。

『アイ・ソー・ザ・ライト』

=伝説的カントリーシンガー

MCUのワンダ、いまやスカーレット・ウィッチことエリザベス・オルセンと夫婦役となり、「ルーツ・オブ・ロック」と呼ばれながら29歳で早世したカントリーシンガー、ハンク・ウィリアムスを熱演。ランや自転車で減量に挑んだトムヒは、5週間の歌唱トレーニングを経て劇中のハンクの曲すべてを吹き替えなしで歌い切った。2016年は本作含め映画3本とドラマが相次いで日本に上陸し、トムヒ人気を決定づけた1年だった。

『キングコング:髑髏島の巨神』

=コングと対峙する元軍人

巨大モンスター“キングコング”を、日本の怪獣やアニメが大好きなジョーダン・ヴォート=ロバーツ監督がリブート。コング調査チームを率いる英国陸軍特殊部隊の元兵士ジェームズ・コンラッドに扮し、巨大生物や、コングに敵対心を燃やす軍人たちとバトルした。キャプテン・マーベル役のブリー・ラーソン、フューリー役のサミュエル・L・ジャクソンが共演。

「ロキ」はこれまでのロキじゃない、“変異体”に!?

そして、『アベンジャーズ/エンドゲーム』からMUCフェーズ4に繋がる物語になるという「ロキ」は、「ワンダヴィジョン」「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」に続くマーベル・スタジオのドラマシリーズ第3弾。『エンドゲーム』でアイアンマンたちがタイムスリップしたニューヨーク決戦の敗北直後、四次元キューブを使って逃げ出したロキの顛末が描かれる。トムヒは製作総指揮にも名を連ねている。

一瞬の逃亡の後、TVA(時間変異取締局)に拘束されたロキは、あるべき正しいタイムライン=神聖時間軸を乱した、いわば罪人で“変異体”と呼ばれている。小ずるくて悪知恵が働く『アベンジャーズ』の頃のロキながらも、TVAではなす術なく降参状態。もう1人の謎の“変異体”が様々な時代で起こす重大事件に、TVAのエージェント、メビウスたちと巻き込まれていく。

実は、その“変異体”は“別のロキ”であり、様々な人物に化けたり、ときには女性になったりもするのだ。もう1人の自分を追いながら、言葉巧みにメビウスたちを説得しようとする姿や、“彼女”に振り回されて初めて「兄上の気持ちが分かった」とこぼす姿は、私たちに馴染みのあるロキのように思えてくるのだが…。

嘘と悪戯を愛し、巧みな話術や魔術を武器にする“裏切り王子”ロキが立ち向かうのは、まるで別人のような自分自身という皮肉。プライドが高く自信家でセクシー、利己的で強がり、承認欲求が強く、寂しがりやで友情や愛に飢えている…。トムヒが演じることで、複雑で多面的な魅力が肉づけされてきたロキだが、今作ではさらに思いも寄らないロキが待ち受けることになりそうだ。

「ロキ」はディズニープラスにて配信中。

(text:Reiko Uehara)

2021/6/23 18:15

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