悠仁殿下がおわす以上、「女帝」「女系」は不要有害の論である/倉山満

―[言論ストロングスタイル]―

◆「皇位継承権の女系への拡大」、賛成7に反対14。女系論の完敗だ!!

 その昔、浅原八郎という大賊徒がいた。皇居に乱入して時の伏見天皇と皇太子(後の後伏見天皇)を暗殺しようとした、犯罪者だ。だが、浅原の名など誰も覚えていない。

 皇室の歴史には雨の日も風の日もあったが、一度も途切れることなく今日まで続いてきた。皇室に仇なす者など星の数ほどいたが、ひとえに風の前の塵に同じ。先日も加藤勝信官房長官が愚かな発言をしたが、かき消すがごとき慶事があった。

 6月7日、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議が専門家のヒアリングを終了した。10の質問項目に21人の専門家が答える形式だが、注目は「皇位継承権の女系への拡大」だ。マスコミは「賛否拮抗」などと言っているが、印象操作も甚だしい。実際は、賛成7に反対14。女系論の完敗だ。

 小泉内閣以来、女系論が猛威を振るってきたが、ここまで完膚なきまで叩きのめされたのは初めてだ。菅内閣、よくやった!

◆愛子内親王の配偶者となるべき皇族がいなかった

 事の発端は、昭和40(1965)年に文仁親王(秋篠宮)を最後に、長らく皇族に男子がお生まれにならなかったことだ。「このままでは、次世代の皇族が一人もいなくなる!」という危機感の中、平成13(2001)年に愛子内親王殿下がお生まれになった。ここで「女性天皇論」「女系天皇論」が飛び出す。

 女帝は飛鳥時代の推古天皇から江戸時代の後桜町天皇まで、8方10代いらっしゃる。先例があるので「愛子天皇」自体は問題が無い。では、その次の世代はどうなるか。

 皇族と結婚し、その子が天皇になる。それは先例があり、構わない。天智天皇と天武天皇の父母は、舒明天皇と皇極天皇であり、文武天皇と元正天皇の父母は草壁皇子と元明天皇である。女帝の子が天皇になるのは先例があるが、その場合は父が天皇か皇族である。4方すべてが女系天皇かつ男系天皇だった。だが、そもそも愛子内親王の配偶者となるべき皇族がいないから、女帝を復活させようとの議論が起きたのだ。そこで「女系論」が飛び出す。「愛子様に天皇になっていただき、愛子様のお子様が天皇になるべき道を開くべきだ」との論だ。

 時の小泉内閣福田康夫官房長官は、過去の政府見解を変更した(平成13年6月8日衆議院内閣委員会)。

◆「このままでは皇族が一人もいなくなる」という当時の焦燥感

 それまでは憲法第2条で定められた「皇位の世襲」とは男系に限ると解釈されてきた。簡単に確認できるところで、林修三法制局長官(昭和34年2月6日衆議院内閣委員会)、宇佐美毅宮内庁長官(昭和39年3月13日衆議院内閣委員会)、そして加藤紘一官房長官(平成4年4月7日参議院内閣委員会)と揃って「男系継承は伝統」との見解を繰り返していた。

 当たり前の話だが、日本国憲法はもちろん、帝国憲法以前から、皇室は存在する。憲法典は皇室の存在を確認するだけであって、憲法典が皇室の存在を規定するのではない。

 では、なぜ小泉内閣は日本の歴史を書き換えるような言動をとったのか。繰り返すが、「このままでは皇族が一人もいなくなる」との、当時の焦燥感を理解せねばなるまい。福田長官答弁の半年後の12月1日に愛子内親王殿下がお生まれになる。長官答弁当時は、雅子妃殿下(現・皇后陛下)が御懐妊中であった。もし女の子が生まれてから「女帝」「女系」を言い出したら反発を招きかねない。だから、その前に解釈変更を言い出したのだ。ちなみに福田長官は解釈変更を認めておらず、「従来から皇位の世襲には女系も含まれる」と強引に主張していたが、日本語が読める人間を騙せる論法ではない。

◆女系論のおかしなところは、先例も男系も飛ばして、直系だけで語るところだ

 そして、平成17(2005)年、小泉内閣に「皇室典範に関する有識者会議」が「女性天皇と女系天皇を容認する皇室典範の改正を」と答申を出した。

 翌年元旦、秋篠宮ご夫妻は宮中歌会始でコウノトリの歌を詠まれた。当時、紀子妃殿下39歳。高齢出産を覚悟されての御歌だ。そして同年9月6日、悠仁親王殿下がお生まれになり、ご無事にお育ちになられている。

 皇室を語る大原則は先例、男系、その後に直系だ。皇室は先例の世界であり、一度の例外もなく守られてきた先例が男系継承だ。どの男系が皇室の直系を継ぐかは、その後の話だ。女系論のおかしなところは、先例も男系も飛ばして、直系だけで語るところだ。

◆悠仁殿下がおわす以上、「女帝」「女系」は不要有害の論だ

 現在、神武天皇の伝説以来の歴史を、悠仁殿下お一人が背負われている。どのようにして悠仁殿下をお支えするか。

 今回の有識者会議で最大の争点の一つが、女系論を葬りされるかどうかだった。結果は14対7と圧勝だが、中身はさらに圧巻だ。女系論の旗振り役だった、所功氏と笠原英彦氏(いずれも歴史学者)が、「悠仁親王殿下がいるので」と反対だった。最終的には、二人とも常識人だった。

 将来、悠仁親王殿下が即位された時、皇室の直系は秋篠宮家に移っていく。この状況で女帝だの女系だのを言うのは、悠仁殿下と秋篠宮家から皇位を取り上げようとする陰謀か? 「女帝」「女系」は、愛子内親王殿下しか次世代の皇族がおられなかった時の議論だ。悠仁殿下がおわす以上、不要有害の論だ。誰よりも愛子内親王殿下が最も迷惑されるだろう。

◆今の時点で過去の政府答を弁引用するのは不適切だ

 だが小泉内閣の時の狂騒が忘れられない御仁もいる。今回の有識者会議でも「小泉内閣の答申を実行せよ」と迫る御仁もいた。自らの手で日本の歴史を書き換えたいのだろう。この手の会議はあらかじめ政府が人選するが、明らかに菅内閣は小泉内閣でゆがめられた皇室の議論を正そうとしていた。

 そんな時に、よりによって官房長官の加藤勝信が国会で「皇位の世襲には女系も含まれる」と言い出し、記者会見では「過去の政府答弁を繰り返したに過ぎない」と言い訳した。過去の政府答弁とは、小泉内閣時の福田長官答弁のことであり、今の時点で引用するのは不適切だ。

 菅内閣の大番頭としても、敵が総崩れになりかけている時に、味方に爆弾を投げつけるような行為だ。

 菅さんに言いたいが、いつまで厚労大臣として機能しなかった人物を官房長官に据え続けるのか。

 ここで皇室を守れば菅義偉の名は日本の歴史に残る、大切な時だ。獅子身中の虫を駆除すべきだ。

―[言論ストロングスタイル]―

【倉山 満】

’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、最新著書に『保守とネトウヨの近現代史』がある

2021/6/21 8:51

この記事のみんなのコメント

1
  • グレイス

    6/21 11:31

    また悠仁様のお妃選びは難航すんだろな。決まっても順調に男児を懐妊するか分からんしな。愛子様を女性宮家にするくらいしないと20年後くらいにまた存続の危機を迎えそう。眞子様・佳子様は降嫁なさって良いですけど。

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