「恥かかせないでくれない?」上司と得意先からの言葉に、女が唖然とした理由

美人か、そうでないか。

女の人生は“顔面偏差値”に大きく左右される。

…それなら、美しく生まれなかった場合は、一体どうすればよいのだろう。

来世に期待して、美人と比べられながら損する人生を送るしかないのか。

そこに、理不尽だらけの境遇に首をかしげる、ひとりの平凡な容姿の女がいた。

女は次第に「美人より、絶対に幸せになってやる!」と闘志を燃やしていく。

◆これまでのあらすじ

念願叶って大手広告代理店の経理部から、華の営業部に異動した園子。美人ぞろいの部署になじもうと、お金をかけて服とメイクを一新するが、陰口を言われうんざりする。

そこでトレーナーとなる「清華さん」という人物の話を聞く園子であったが…。

▶前回:「私、何やってるんだろう」可愛くなりたくて自分に“投資”した女が、職場で聞いてしまった衝撃の事実


噂話で聞いた「清華さん」と会社で初めて顔を合わせたのは、営業部に配属されて2週間後の朝だった。

全身黒色のジャケットとパンツ、そしてピンヒールで颯爽と現れた彼女は、園子の前で立ち止まり話しかけてきたのだ。

「山科園子。あなたね」

― 突然、呼び捨て!?

かすかに眉をひそめた園子の表情にはまるで関心を示さない様子で、清華は長く茶色いストレートの髪をバサリとかきあげる。

「あなたのトレーナーに指名された、遠藤清華です」

威圧感のある声に「はい」と返事をしながら、園子はあっけにとられていた。彼女の口調には、これっぽっちも愛想というものがなかったからだ。

― いくら後輩とはいえ、初対面の人にこれだけ態度が悪いなんて、どうなのよ?

心の中で言いながら、横目で清華を見る。すると彼女はスタスタと窓際まで歩いていき、デスクの上にドスンとバッグを置く。そして椅子に座るや否や、足を組む。

ガサツな人だな、と園子は思った。

…でもエレベーターホールで噂されていた通り、綺麗な人だ。さっぱりとした雰囲気でありながら、他の誰よりも目立つ。

170センチ半ばくらいありそうな身長、細くて長い脚、白い肌に形の良い目。

リモートを積極的に活用しているため、久々の出社であった清華に、周囲の人がニコニコしながら声をかけている。そんな彼らに対し、談笑などせず真顔で受け答えをしている。

― 無愛想な人ねえ。

心の中でつぶやいた途端、母親のある言葉がよみがえってきた。

母親が園子にいつも言っていた“あること”とは?

「女の子は愛嬌が大切よ」

幼い頃、園子の髪をクシでとかしながら母親はいつもそう言っていた。だから園子は愛嬌に溢れた大人へと成長したのだ。人に対してぶっきらぼうな態度をとることは決してない。

でも、と清華を見ながら思う。

確かに愛嬌は重要だ。だけど美人は愛嬌がなくても、それはそれで“サマになっている”ので、魅力的だと感じる。

― 結局私の愛嬌なんて、美人の無愛想には遠く及ばないわけね。

気後れした園子は、書類の入力作業を始めた。未だ営業らしい仕事は与えられていないし、清華のような人が丁寧にレクチャーしてくれる想像もつかず、早くも途方に暮れてしまう。

そこから3週間ほど経って、ようやく清華からあるメールが送られてきた。

「明日、得意先のキーマンに会いに行くから、あなたも来たら?」

― ようやく営業らしい仕事ができる!

それまで、トレーナーとトレーニーという関係は形ばかりで、メールのCcに入れられるようになったこと以外、彼女からは何のフォローもなかった。

メールの内容について清華に質問をしようとしても「今度説明するから。今、忙しいの」とすぐにあしらわれていたのだ。

だから、いよいよ得意先にあいさつできるのかと、園子は嬉しくなった。



翌朝。

ジャケットを羽織り、いつもよりカッチリした服装で身支度をする。

「あら園子、ホント垢抜けたねえ」

両親がいつものように褒めてくれて、気持ちよく家を出る。今日はいい日になるぞ、という明るい予感に満ちた朝だった。


得意先のオフィスは丸の内の一等地にある。クライアントのキーマンであるという三木谷は、38階の広い会議室で待っていた。

園子は三木谷について、何となく知っていた。

売れっ子メーキャップアーティストから化粧品メーカーの宣伝部長に転身した経歴の持ち主で、ちょっとした有名人なのだ。先週は、昼のワイドショーで彼の特集が組まれていた。

「初めまして。新しく担当させて頂くことになりました、山科園子と申します」

「三木谷翔です」

緊張しながら名刺を交換したとき、園子の目線は彼の指先にとまった。黒いネイルが綺麗に施されていて、驚いたのだ。これがおしゃれなのかと。

…でも、もっとびっくりしたのは、背後から聞こえてきた清華の声色だ。

「翔さん、見ましたよあの特集!すっごく素敵でした~!」

清華の声はいつもより何トーンも明るく、なんとクシャッと人懐っこく笑っているではないか。いつも無愛想な彼女の豹変ぶりに、園子はマスクの下でぽかんと口を開けた。

そんな園子を、三木谷はじっと見つめている。

「で。彼女が、うちの担当になるの?」

清華はゆっくりと頷きながら、返答する。

「でも、基本は私が引き続き担当します。山科はサブとしてお世話になります」

すると三木谷は「ふーん」と口を歪めてから、とんでもないひと言を言い放ったのだ。

三木谷が園子に告げた、衝撃のひと言とは?

「ふーん。…なんか君、“っぽくない”ねえ」

三木谷は、こちらをまじまじと見ている。その様子に、園子は無言で半笑いの表情を浮かべるしかなかった。

そうして打ち合わせが終わり、三木谷と別れてオフィスの外に出るや否や、清華はこれみよがしにため息をついてみせたのだ。

「あのさ、恥かかせないでくれない?」

「…恥、ですか?」

園子はなんて言えばいいのかわからず、努めて明るい声で聞き返した。しかし清華は面倒そうに首を横に振っただけで、歩く速度を早める。

「あなた、先に会社へ戻ってて。午後にもう1件アポがあるの」

そう言うと清華は片眉を釣り上げ、去っていった。



ひとりでオフィスに戻ってきた園子は、沈んでいた。

やる気に満ち溢れていた気持ちが削がれていく。それでもできることをやろうと、自分より若い社員たちに代わって、コピーや掃除の雑用をした。

夕方になってようやく戻ってきた清華は、園子に向かってたったひと言、こう言ったのだ。

「営業は印象が大事なの。あなたじゃダメね」

「ダメって、何がですか」

食い下がる園子に、清華は面倒くさそうに足を組んでから言い放った。

「は?色々よ。…例えば、その“のっぺり”したメイク」


1日の疲れを背負ったまま電車に乗り込み、園子は「のっぺりしたメイク」について考える。

これでも最近は雑誌やネットを参考に、丁寧にメイクアップするようにしている。だから、のっぺりするのは、きっと顔のつくりのせいだ。

― 「のっぺりしているのは顔なんです!」…なんて言っても、笑ってくれないだろうな。

園子は、もし清華が男だったら、パワハラとかセクハラで訴えてやるのに、と思う。同性だとこういう差別も、ハラスメントと思われにくい気がしたのだ。

それでも会社に訴えれば、今の時代ならすぐに対応してもらえるだろう。父親に頼み込むこともできる。

…でも、それはとても悔しかった。自分の手で、状況を変えてみたいと思ったのだ。



実家の最寄駅である神楽坂駅に着くと、まだ少し明るい空から雨がしとしと降っていた。今日は本当に嫌な日だなと、空を見上げる。

「園子?」

突然、背後から聞き慣れた心地のいい低い声が聞こえてきた。

「…晋ちゃん?」

そう言って振り返ると、そこには園子の大好きな人が立っていた。

「おう。僕、傘あるよ。送ってくよ」

― やっぱり今日はいい日だわ!

園子は、バサッと開かれた大きな傘の下に滑り込んだ。


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