まさか自分が…コロナ陽性者、濃厚接触者に。家族の慌ただしい日々
テレビや新聞などのメディアで毎日のように報道される新型コロナウイルス。そして、ワクチン接種も本格的に始まり、6月10日に行われた全国知事会議では「長いトンネルの出口がようやく見えてきた」と言及されたという。
とはいえ、職場や学校などの身近でも陽性者や濃厚接触者が珍しくなくなってきた昨今。決して他人事ではなく、「明日は我が身」だと考えることもあるだろう。
もしも自分や身内がそうなってしまったとき、家庭内はどのように変化し、対応することになるのだろうか。当事者に話を聞いてみると、想像以上に大変な様子がうかがえる。
◆37.8度の熱、咳が出始め「これは陽性だ」と覚悟
身近の大切な人が新型コロナウイルスに感染し、自分自身も「濃厚接触者」という扱いになった浅田英二さん(仮名・20代)は、その後の壮絶な体験を話してくれた。
「濃厚接触者ということで、保健所からすぐに連絡がありました。抗原検査をしてくださいとの依頼があり、自宅待機命令が出たんです」
実家暮らしのため、家族全員も濃厚接触者扱いとなり各自抗原検査を受けることになった。その時点では、浅田さん自身の体調には変化はなかったという。
濃厚接触者となってから2日後の朝一に検査を済ませ、自分の部屋で検査結果を待っていたのだが……。
「その日の午後3時頃から37.8度の熱、喉の痛み、咳が出始め『あー、これは陽性だ』と覚悟を決めました。そして18時頃、保健所から連絡があり『結果は陽性』と言われたんです。そのとき、すでに熱も39度を超え、全身に筋肉痛の症状もありました」
浅田さんは普段から健康には気をつけており、ここ10年間、インフルエンザはもちろん、風邪も引かないくらいだったという。
新型コロナウイルスの症状について、浅田さんは「想像の5倍ほどのキツさだった」と話す。
そんな状態にもかかわらず、病床がひっ迫していたため、若い世代は入院ができず、ホテルでの隔離生活が始まったのだ。
「ただ、ホテルも部屋が空かずに、最初の3日間は自宅隔離でした。この間も症状は一向に回復せず、本当に辛かったです」
◆身近な人に迷惑をかけるのが“コロナの怖さ”だけど「自分を責めないで」
一方、浅田さんの家族は陰性だった。しかし、家族も2週間の自宅待機となり仕事にも行けない状態が続いたようだ。外に出ることができないストレスと「コロナになるかもしれない」という不安が絡み合っていたという。
「僕だけの制限と苦しみだけならまだ良かったと思います。今回陽性になったことで、身近な大切な人にも大変迷惑をかけてしまうのが『新型コロナウイルスの怖さ』だと感じました」
浅田さんの症状は、発症から1週間ほど続いたが、その後も後遺症に悩まされることに。
「熱や咳、喉の痛みや倦怠感は治ったのですが、3日間は匂いや味覚が消えました。かなり焦りを感じました。自宅に戻っても家族の不安は解消されることはなく、それから7日間は部屋で隔離状態にしていました」
ホテル生活は10日ほど続いたが、1日3食は豪華な食事が提供された。
浅田さんは、病院の看護師やホテルのスタッフ、食事を提供してくれた方々へ感謝の言葉を口にする。退出する際には、想いを伝えることができたという。
「まさか自分がかかるなんて、という気持ちが大きかったですね。みなさんに伝えたいことは、もしも感染してしまっても自分自身を責めることは絶対にしないでください。感染者も被害者で、誰も悪くないんです」
◆妹の夫が陽性者に。家族を巻き込んだ一大騒動
内藤由紀さん(仮名・30代)は、近所に住む妹の夫であるAさんが新型コロナウイルスに感染した。コロナ禍だったが、会社の判断で出張が多かったことが原因だったのかもしれないと振り返る。
そこからしばらく、内藤さんや両親を含めて、慌ただしい日々を過ごすことになる。
「はじめに陽性が判明したのは、Aさんの職場の先輩でした。そして、Aさんも濃厚接触者として自宅待機となり、保健所からの連絡を待っていたそうです。しかし、2日待っても連絡がなかったので、こちらから連絡したそうですが、『検査はまだできない』と言われたみたいで」
内藤さんの妹は、まだ2歳の娘がいることや、もしも夫が陽性ならうつる可能性があるということで、不安な日々を過ごしたという。「コロナになることは避けたい」と家中のドアノブや洗面所、トイレなどをこまめに消毒し、Aさんは別の部屋で完全隔離、お風呂には最後に入ってもらい、出たらすぐに消毒を心がけるように徹底したという。
「3日目の夜にようやく保健所から連絡がありました。病院は車で40分のところにありますが、今から来てくれとのことでした。当然、公共交通機関は使用せず、1人で来るか家族に送ってもらうように言われたんです」
陽性だった場合、そのまま入院することになる。保健所からは、自家用車をずっと停めておける場所がないため、家族が送ることが望ましいと告げられたのだという。
◆「もしも陽性だったら」実家や身内にも頼れないのでは…
「旦那が仮に陽性だったとしても、うつらないように努力してきた妹でしたが、車で40分も一緒にいれば、うつってしまうのではないかと怖くなったそうです。
妹と旦那が病院に行けば、娘も一緒に行くことになる。もしかしたら、すでに3人とも陽性かもしれないと思うと、当初は実家や義実家、姉の私にも頼ることができないと悩んだそうです」
結局、Aさんの両親が病院まで送ったという。検査の結果、Aさんは陽性と判明した。
「濃厚接触者である妹とその娘は自宅待機。それから2日間待たされ検査しました。ここまでで5日間ですよ。一歩も家から出ず、買い物もできなかったそうです。かんしゃくを起こす娘と2人きりで、頭がおかしくなりそうだと泣いて電話をしてきました」
検査の結果は2人とも陰性。最後に夫と接触したときから14日間、自宅から出なければもう大丈夫と言われたそうだ。
家族である内藤さんや実家の両親、義実家の両親が交代で食料などを玄関に置き、テレビ電話で励ます毎日が続いた。
ゴミを捨てることもできず、玄関に置いてもらい、代わりに捨てに行く状況だったと話す。
「妹のケースは、実家が近く、両親や私など、頼ることができる人が多かったので、幼い子どもがいても何とかなりました。ですが、頼る人が傍にいなかったり、一人暮らしの場合はとても大変だなと思いました。
ある日突然、自宅から出られなくなるので、ある程度は食料や日用品をストックしておくべきだなと感じました」
内藤さんは、前出の浅田さん同様、「医療従事者の方々に感謝している」と当時の思いを話してくれた。「娘がコロナになったらどうしよう」と泣き出す妹に優しく話しかけてくれたり、この先どうなるのかを丁寧に教えてくれたりしたそうだ。
新型コロナウイルスは決して対岸の火事ではない。そのとき、冷静に対応できるようにしておきたい。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
ライター歴5年目。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。Instagram:@chimi86.insta