「信じられない…」週末になると音信不通になる32歳男が、青山でコッソリしていた意外なこと
女は、会っている時間に愛を育み、男は、会えない時間に愛を育てる…!?
平日は全力で働き、週末は恋人と甘い時間を過ごす。
それが東京で生きる女たちの姿だろう。
でも恋人と、“週末”に会えないとわかると、「いったい何をしているの?」と疑心暗鬼になる女たち。
これは、土日に会えない男と、そんな男に恋した女のストーリー。
◆これまでのあらすじ
IT企業で働く笹本美加(28)は、脚本家の釘宮海斗(32)と知り合い、瞬く間に仲が進展する。だが土日だけは彼と連絡が取れない。しかも、それは2週連続で…。
▶前回:「信用できると思ったのに…」初めてお泊りした2日後、急に音信不通になる男の本性
2nd weekend 「本当の、言い訳」
「海斗さんって、土日は何してるんですか?」
脚本家、という特殊な職業の釘宮海斗は、この手の質問をよくされる。
土日はほとんど仕事をしている。ただ、その理由を説明するのが面倒で、いつもは適当に返事をしたり、答えを濁したりする。
が、あの夜は違った。
知り合いのホームパーティーで知り合った彼女――IT会社で働く笹本美加――に、海斗は、心を奪われていたからだ。
凛とした立ち姿…。手入れが行き届いた髪…。美しい箸の使い方…。本当に美味しそうにワインを飲み干したあとの笑顔…。「コンプレックスなんです」と言った低い声…。
海斗の一目惚れだった。だから、彼女の質問には、正直に答えた。
「土日は、…ほとんど仕事してますね」
それから2週間ほどで、彼女との距離が一気に縮まり、海斗は、完全に恋に落ちた自覚がある。
しかし、美加と出会ってから1度目の“土日”は、いつものように外界の連絡を遮断して執筆に没頭してしまった。その結果、美加のLINEを無視することになった。
週明けに、その事実に気づいた海斗は、焦って美加に連絡した。彼女に謝罪し、連絡できなかった理由を丁寧に説明したのだ。
そして、2度目の“土日”を一緒に過ごそうと提案すると、美加は、快諾してくれた。
これで万事うまくいった、と思っていたのだが、その直後、海斗はふたたび大失態を起こしたことに気づく。
海斗が気づいてしまった大失態とは…!?
実は、海斗は15歳まで本気でJリーガーを目指していた。本気だったからこそ、高校に入ってすぐに気づく。
― 絶対、プロになれねえわ。
サッカーを諦めた海斗は、「将来は何をしようか」と悩んだ。いつだって本気を出すのが、海斗の信条だから、本気で悩んだ。
そして、サッカーと同じくらい好きなものが、テレビドラマだということに気がつく。
テレビドラマに「脚本」というものが存在していると知っていた海斗は、作文が得意だったことから、制作スタッフになるより脚本家のほうが向いていると自己分析し、脚本の勉強を始めたのだ。
その後、紆余曲折はあったものの、今、32歳にしてプロの脚本家として生活できている。
同時にサッカーのことも、まだ愛している。試合を見ることはもちろん、プレーするのも好きだ。
大学時代のサッカーサークル仲間と“週末フットサル”をすることは、執筆ばかりの海斗の生活において唯一の運動であり、趣味でもある。
で、美加と会う約束をしている今週土曜は、青山公園でフットサルをする予定だったことをすっかり忘れていて、海斗はダブルブッキングしてしまったのだ。
― これは、マズイ!
『ごめんなさい。約束してたけど、土日に会えなくなりました。』
美加にLINEすると、すぐに返事が来た。
『どうしてですか?』
海斗は、会えない理由が“フットサル”だという事実を美加に理解してもらえるのか不安で、既読をつけることさえできなかった。
―土曜日―
「海斗、お前…バカか!?なんで、こんな所にいるんだよ!?」
淳司の声があまりに大きかったので、フットサルコートにいる仲間たち全員がこちらを見た。
「どうした?」
「みんな聞いてくれ!海斗がバカすぎる!」
こっそり淳司とだけ話していたのに、他の仲間たちからの視線と興味を引いてしまい、海斗はダブルブッキングの経緯を話すしかなくなった。
3時間みっちりプレーしたあとでヘトヘトなのに、海斗の話を聞くと、仲間たちは口々に声を張り上げた。
「たしかにバカだ!バカすぎる!」
四方八方から罵声を浴びた海斗は、自分が聖徳太子になったかのように、みんなの言葉を静かに受け止めた。
彼らの主張をまとめると、こうなる。
「ダブルブッキングは仕方ないとしても、フットサルを選ばずに彼女とデートすべきだ。LINEを未読スルーするなんて、もってのほかだ」
― ごもっともだ。わかっている。
でも、海斗には、それができなかった。
「なんで、そんな当然のことがわからないんだよ?お前、恋愛したことないのか?」
結婚7年目の淳司が呆れ声で尋ねてきたので、海斗は小声で返す。
「…恋愛してたよ…みんな知ってるだろ…?」
「バカ!そういう意味じゃねえ!」
淳司は溜息を出す。他の仲間たちも溜息だ。頭を抱えている者もいる。
「お前、脚本家なのに…どうして人の心ってのがわからないんだ?」
痛い所を突かれた……返す言葉もない。
「とりあえず、今すぐカノジョに連絡して謝れ。せめて今夜から明日にかけて、一緒に過ごせ」
淳司のアドバイスどおりのことを海斗も一度は考えた。でも、それもできなかった。
「ダメだよ。明日はJリーグを見に行かないといけないから…」
「はあ!?」
場にいる全員が目をひん剥く。
「だってFC東京にとって大事な試合があって、俺が応援しないと――」
海斗の言葉を最後まで聞かず、淳司は叫ぶ。
「お前ひとりいなくても、FC東京は頑張れるわ!」
友達から反感をかった海斗は、結局あることを決断する。しかし、事態は思わぬ方向に…!?
フットサルが終わって、いつものように数人で、淳司の家へ向かった。しかし、当然のように海斗は参加を断られる。
「お前は、そのカノジョに謝ってこい」と有無を言わさず帰されたのだ。
それから3時間、どんな謝罪文をLINEしようかと海斗は悩み続けている。何をどう書いても言い訳になるような気がして、筆が進まない。
― 脚本家のくせに、謝罪のメッセージさえ書けないのか、俺は…。
思い返せば、これまでの恋愛もいつもそうだった。
特殊な仕事をしている海斗の生活スタイルは、他の仕事をしている人からはまったく理解されない。
それが恋人ともなると、さらに悲惨なことになる。
深い仲になって1ヶ月も経たないうちに、ほとんどの女性たちがこう言った。
「こんなダサいこと言いたくないけど、…私と仕事と、どっちが大事なの?」
ポイントは、女性たちがいずれも「こんなダサいこと言いたくないけど」と前置きすることだ。
彼女たちは「私 or 仕事」という究極の選択が、前時代的なものだと理解したうえで、それでもそう言うしかない状況に追い込まれたのだ。
しかも、たった1ヶ月で。
海斗は彼女たちの絶望に触れ、いつも言葉を失う。謝罪したところで、相手からすれば言い訳にしか聞こえないのだろう。
結果、すぐに呆れられて、別々の道を歩むことになる。
2週間前に出会った美加との関係も、同じ轍を踏んでいるような気がする。
― でも今度は、同じ失敗をしたくない。
今まで深い仲となった女性たちと違い、幸い美加は「アプリを開発プロデュースする」というクリエイティブな仕事をしている。
だから、「少しは脚本家という仕事を理解してくれるかもしれない」という淡い期待があった。
― そのためにはどうすべきか、言い訳に聞こえない謝罪の方法は…いったい、なんだ…?
海斗は、ソファに横になり目を閉じた。
他人から見れば寝ているようにしか見えないが、これは海斗なりの熟考方法だ。
― あっ、そうだ!
急にひらめいた。答えは意外に簡単なことだった。どうして今まで思いつかなかったのだろう、と思うほどに。
― すべて正直に話せばいいんだ。
まずは、脚本家の生活スタイルと、これまでの恋愛について。
そして、美加に一目惚れして、本当に恋に落ちたこと。
その後は、ダブルブッキングの理由と、そのことで友達から叱責されたこと。最後に、何より美加を手放したくないことを…。
覚悟を決めた海斗は、LINEを開くと下書きメッセージを作り始めた。
『今日は本当にスイマセンでした。今って電話できますか?すべて正直にお話しますので、お時間頂けないでしょうか?』
あとは送信するだけ――というタイミングで、不意にスマホの画面が切り替わった。
相手は、海斗が現在一緒に仕事をしている映画会社のプロデューサーからだった。
「あ、釘宮さん?申し訳ないけど、佐田剣介の事務所が今回の企画に乗り気で『脚本を読んでみたい』って言っててさ」
佐田剣介は30代の人気俳優だ。数々のヒット作の主演をしている。ただ海斗が書いている脚本の主役は20代だ。
「週明けに、事務所に脚本を送りたいから、主役を20代から30代に変更して、書き直せる?」
結局その夜、海斗は、美加と電話することはできなかった。
電話だけでない。LINEさえできなかった。
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ふたたび週が始まり…。美加のプライベートに大きな変化が起きていた。