「私、何やってるんだろう」可愛くなりたくて自分に“投資”した女が、職場で聞いてしまった衝撃の事実

美人か、そうでないか。

女の人生は“顔面偏差値”に大きく左右される。

…それなら、美しく生まれなかった場合は、一体どうすればよいのだろう。

来世に期待して、美人と比べられながら損する人生を送るしかないのか。

そこに、理不尽だらけの境遇に首をかしげる、ひとりの平凡な容姿の女がいた。

女は次第に「美人より、絶対に幸せになってやる!」と闘志を燃やしていく。

◆これまでのあらすじ

念願叶って大手広告代理店の経理部から、華の営業部に異動した園子。しかし異動先は、社内随一の“美人ぞろいの部署”だった。

異動初日から、園子のパッとしない容姿について陰口を言われてしまい…?

▶前回:「自分が可愛くないって知ってる」そんな女が屈辱を受けた、史上最低の出来事


「場違いな見た目のせいで、悪目立ちしちゃって可哀想」

そんな悪口を会社のトイレで耳にしてしまった園子。しかし思い切って個室のドアを開けると、美女ふたりに歩み寄った。

「お疲れさまです!」

「ああ…お疲れさまです」

すると洗面台の前でヒソヒソと楽しそうに盛り上がっていた彼女たちは、話を止めたのだ。

「本当におっしゃる通りですわ。この部署って美人ばっかりだから、私、浮いちゃって」

そう言うと、曖昧な笑顔を浮かべたままのふたりは、園子の自虐をスルーしてそそくさとトイレから出て行ってしまった。

― 気まずそうにされるより、いっそ笑い飛ばしてくれた方が楽だわ!

香水の香りをほのかに残して逃げていった美女たちに、心の中で突っ込んだ。…しかしまあ、鏡の中に映る女は、確かにさえない。

― でも“笑ってくれた方が楽”だなんて、本当に思ってるっけ?

園子はふと、自分に問いかけてしまった。そしてある遠い日の記憶が、リアルに脳内で再生され始める――。



「おかっぱちゃん」

あれは、小学校3年生の時だ。気づいたら園子は、クラスメイトから「おかっぱちゃん」と呼ばれるようになっていた。

― 髪型をいじられているのねえ。

最初は、あだ名をもらったことが少し嬉しかった。みんなから愛されている気がしたからだ。

けれども、その由来を知って園子は血の気が引いた。

あだ名の由来。それは予想外の内容だった…

ある日の放課後のことだった。

クラスのお調子者の男子から、突然きゅうりを1本渡された。周囲は、クスクスと笑っている。

この時、園子は理解した。自分の顔が「河童っぽい」から「おかっぱちゃん」なのか、と。

「うわあ、ありがとう!きゅうり大好物だから嬉しい」

園子はそう言っておどけて笑いをとった。実際は、ちょっと泣きそうなくらい動揺していたにもかかわらず。

この瞬間から、園子は生きやすさを身につけ始めた。

それからもずっとおどけて生きてきた。“お笑い枠”に自ら入ることで、自分を守ってきたのだ。中学、高校、そして大学でも。

「明るいブス」

これは園子が大学生の時に、食事会の席で男の子から言われた言葉だ。心の中は、いつしかトゲのついた言葉でパンパンになっていた。

少しでも中を開いて覗いてみようとすると、こんなふうに生々しい痛みを伴って、言葉の数々がシーンとともに思い出されてしまう。

だから、園子はいつも心に封をするように笑顔を作るのだ。



誰もいないパウダールームで笑顔を作ってみると、鏡の中の見慣れた女も笑った。笑っていると、見られない顔ではないと園子は思う。

― ハンディキャップには慣れっこだ。でも、このまま黙っちゃいないから!

しぼんでいた気持ちが、むくむくと復活する。もう、おちゃらけてみせたりはしない。少しでも自分が綺麗になって、そして仕事もうんと頑張ると決めたのだ。

― 落ち込んだまま過ごすなんて若さの無駄づかいよ。この状況、とことん楽しんでみせる!

今日は、幸いなことに金曜日だ。この週末を有効に使えば、事態を少しでも好転させることができるかもしれないと、園子は考えた。

帰りの電車の中でスマホを開き、こう検索をする。

「さえない女 あか抜ける方法」


翌日の土曜日。園子は、伊勢丹 新宿店の3階で服を物色していた。

母親から与えられる無難な服を着て育ってきたので、26歳にして初めてとなる伊勢丹での服探しだ。

そもそも服を買うというのは、園子の苦手なことのひとつであった。

だって気になる服に手をふれた途端に、店員から声をかけられる。アパレル店員は決まって可愛いから、自分が値踏みされているような気がしてオドオドするばかりなのだ。

ということで、ハイクラスなお店などは論外だ。踏み入れるだけで迷惑がかかる気がすると、園子は思っている。それに、試着した姿を店員に見せるのも気が乗らない。

つまり、今日は相当“意を決した日”なのだ。

「あ、あれ可愛い…!」

目に止まったのは、マネキンが着ているミントグリーンのワンピースだ。

「今年流行りのカラーなんですよ〜」

緊張していた園子をほぐすような優しい声で、店員が近づいてくる。園子は、ひとつ呼吸をしてから言った。

「あの…試着してもよろしいでしょうか」

ガラッと雰囲気が変わった園子に、周りはまさかの反応を…?

そして迎えた、月曜日。

みんなを驚かすために意気揚々と身支度をしていると、父親が嬉しそうに声をかけてきた。

「園子、なんかキラキラしてるなあ。さすが美人ぞろいの営業部の子だ!」

園子はその言葉にはにかんだ。試着したワンピースは、とても気に入ったので即決。その後、クロエでバッグも購入した。

さらに日曜日は、フェイシャルサロンとエステでメンテナンス。そして、美容院で酸熱トリートメントなるものをしたら、髪は嘘みたいにツヤツヤとなった。

― でしょ!変わったでしょ!

父親の言葉をお守りに、いつもよりマシな気持ちで出社すると、早々に手応えがあった。

「えー?山科さん、なんか雰囲気変わった!」

「ね!そのワンピース、可愛いですね!」

デスクに来てみると、その島の女性社員たちは以前とは違う園子の姿を見て、一気に反応したのだ。

園子はニコニコしながら、お礼を言って席につく。ウキウキする気持ちが止まらなかった。

― 馴染めるかもしれない!

ここ数日、心臓をずっしりと重たくしていたものが取り払われたような気分だった。引継ぎ研修にも身が入る。

…けれど、そんなに単純なものではないことを数時間後に思い知ることになる。



「お疲れさまでした」

軽い足取りで執務室を出ると、エレベーターホールから話し声が聞こえてきた。


「雰囲気、すごく変わったと思わない?」

聞こえてきたのは、女が陰口を言うとき特有の口調だ。小さい声で、深刻そうに、それでいて何よりも楽しそうな声。

園子はそういうのを感じるアンテナが発達している。だから、エレベーターホールの手前で足を止めた。

「…ね、さすがご令嬢なだけあるよね。お金にものいわせてる感じ」

「お金をかければいいってもんじゃないよねえ」

― やっぱり私の話だ。

「あの人のトレーナー、清華さんらしいよ」

「やば。天然美人と金持ち不細工のコンビじゃんね」

「ウケる」

まもなくエレベーターが開く音がして、陰口と笑い声は止んだ。

― やっと行ってくれた。トレーナーの清華さんって美人なのか…。

園子は少し身構え、なぜ社会人になってまで、こんなことに悩まされるんだろうと思った。

見た目についてやいやい言われるのなんて、中学、高校くらいで終わるものだと思っていたのだ。それが、大学生になっても、社会人になっても続く。

これが世の中なのだろう。

しん、としたエレベーターホールに立ち、ガラス越しに広がる港区の夜景を見下ろしてみる。

― 私、何やってるんだろう。

美しい夜景を見ていると、この週末のことが馬鹿馬鹿しくなってくる。乗り込んだエレベーターの中にある鏡に映った自分は、いつもとは違う。

フリルのついた艶やかなワンピース。フェイシャルサロンで整えた肌や、ツヤツヤにしてもらった髪。

…なのに、まったくパッとしない。

さっきの人が言った「お金をかければいいってもんじゃない」というのは、ド正論だと思った。

でも園子は、ため息をつかない。

だって、ここは仕事場だ。だったら仕事で見返してやると、そう決めたからだ。


▶前回:「自分が可愛くないって知ってる」そんな女が屈辱を受けた、史上最低の出来事

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仕事で見返すと決意した園子の前に、現れた人物とは…

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