「仕事でラクすることは悪?」中年会社員を不幸にする真面目すぎる国民性

 コロナ禍で揺れる日本。今、そのど真ん中で生きる中年男性たちは何を考えているのだろうか? そこでSPA!は、40~55歳の男性会社員3300人(既婚2500人、独身800人)の大調査を敢行。今回は仕事篇。その実情や悩みをひも解いた。

◆仕事中に頭をよぎっているものは?

 働き盛りのこの世代の人生の中心は、やはり「仕事」だ。では、仕事中にどんなことを考えているのか?

Q.仕事中に頭をよぎっているものは?(複数回答可)

・仕事を頑張って、成果を上げたい 28.3%

・新しいアイディアやスキルアップ 23.8%

・体力・メンタルの不安 23.8%

・人間関係を広げて充実させたい 20.6%

・効率の悪い組織や業務体系へのストレス 19.4%

アンケート概要:個人年収300万~1500万円、40~55歳の男性会社員3300人(既婚2500人、独身800人)が対象

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 回答では「成果を上げたい」「新しいアイデアやスキルアップ」「人間関係の充実」が上位を占め、多くの人が真面目に仕事に向き合っていることが見て取れる。だが、その真摯さが報われるとは限らない。人材育成を支援するFeelWorks代表の前川孝雄氏は、現状をこう語る。

「辞令一枚での転勤や単身赴任、苦手な上司にも仕え、平成不況のなかで成功体験を積めずに我慢を続け、中年になってやっと“アメ”をもらえるかと思いきや、今度は会社から『早期退職・定年後を考えよ』と新たな“ムチ”で叩かれる。昇給昇進もなく年収は頭打ちにもかかわらず税負担は増加し、モチベーションを保つのが難しい」

◆「効率の悪い組織」に不満

 そんな過酷な環境でも、自身の処遇より「効率の悪い組織」に不満を持つ中年世代は、ある意味、正義感が強いともいえる。「リモートワークで効率化が進むと思いきや、余計に面倒な手続きばかりが増えていく」(44歳・教育)など、旧態依然とした組織への憤りは募るばかりだが……。

「キャリアを積んで、良くも悪くも組織全体を見渡せるようになった分、不満も生じる。しかし、『会社を変えたい』と思っても、どこか他人事なのがこの世代の特徴。実際に行動に移せる人はほとんどいません」(ライフシフトジャパンの豊田義博氏)

 自分から動くことはなく、真綿で首を絞められるのは、「自分の能力が足りないふがいなさ」(15%)と自己評価が低いことも一因か。

「高度経済成長期を過ごした父親の『男は仕事に生き、成功してなんぼ』という価値観を引きずる最後の世代。実際には社会状況が一変して仕事での自己実現が困難なのに、価値観だけはアップデートされず、自己肯定感を抱けないという悲しい世代でもあります」(社会学者の田中俊之氏)

◆仕事観を変えなければ、体力・気力が限界に

 父親とは時代が違うし、たどる人生も違う。そう割り切って、自分自身の仕事観を掴み取るべきだが、続いてのアンケート「Q 現実的に何歳まで仕事すると思いますか?」に、「定年退職で引退」が4割を占めた。やはり親世代の働き方をなぞりたがる中年世代。コピーライターの田中泰延氏は、こう現実を指摘する。

「電通を辞めたのが47歳の頃。それまで財形や貯蓄をし、早期割増退職金も出ましたが、それでもFPから『FIREするには1億円足りない』と言われました。人生100年時代と言われる今、年収600万円ほどで65歳定年・即引退は、人生設計がファンタジーと言わざるをえません」

 そこで前川氏は「今こそアルバイトでも副業を始めるべし」と助言する。

「新卒入社から会社員一筋で20年以上。副業に抵抗があるのはわかりますが、会社村のなかで狭まっている視野を広げることにも役立ちます。また、シニアに交じって働くことで、定年後の自分をリアルに想像できるようになります」

◆仕事に求める価値は何ですか?

 仕事観をアップデートできれば、アルバイトにも真摯に取り組める。だが、「Q 仕事に求める価値は何ですか?」の結果から「いまだに価値観を更新できておらず、親世代の仕事観に引きずられているのでは」と田中泰延氏は指摘する。

Q.仕事に求める価値は何ですか?(3つまで選択可)

・満足のいく収入 61.1%

・やりがいや達成感 47.8%

・働きやすさや生活との調和 46.8%

・人間関係の広がり 13.4%

・とにかく楽であること 19.4%

・出世や名誉 8.2%

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「一見、『出世や名誉』が顕著に低いので価値観が変化しているかと思いきや、年収別に見ると『満足のいく収入』は収入の多寡にかかわらず約6割と一定。それに対し、『楽であること』と回答した人は、年収300万円台が約2割、年収800万円以上が約1割と差が出ました。

 つまり、収入が増えてもそれほど満足度が上がるわけでもないのに、『収入に見合うだけ働かなくちゃ』と自分自身を追い込んでしまう。これが終わることのない日本の“ラットレース”の正体なのです」

◆いかに楽して、細く長く続けるか?

 真面目すぎる国民性は、必ずしも幸せに結びつかないと田中俊之氏は危惧する。

「かつて大手電力会社のOBに『学者は何歳で上がりなの?』と聞かれて驚きました。彼の現役時代は、若い間にハードワークした分、50歳以降は机に座っているだけで給料が振り込まれるという“50歳で上がり”の働き方が当たり前だったというのです。

 このように、企業戦士的な旧来の会社員像は、実は50歳までしかハードワークしない前提があってこそ成立していた。同じ働き方を人生100年時代に続けていたら、破綻は確実です。むしろ今の時代には、『いかに楽して、細く長く続けるか?』という選択肢もあってしかるべきでしょう」

 社会が変われば仕事観も変わる。そんな当たり前の事実を、忘れてはいけない。

◆「ニッポンの中年」仕事の3か条

・親世代の仕事観にとらわれてはいけない

・「仕事で楽をする」ことは決して悪ではない

・副業のアルバイト経験が老後の糧となる

【FeelWorks代表 前川孝雄氏】

青山学院大学兼任講師。「50代からの働き方研修」「上司力研修」などで400社以上を支援。著書に『50歳からの幸せな独立戦略』(PHPビジネス新書)など

【社会学者 田中俊之氏】

大正大学心理社会学部人間科学科准教授。著書に『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)、『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など

【ライフシフトジャパン取締役 豊田義博氏】

リクルートワークス研究所主幹研究員。高知大学客員教授。著書に『実践!50歳からのライフシフト術―葛藤・挫折・不安を乗り越えた22人』(NHK出版)など

【コピーライター 田中泰延氏】

’69年生まれ。電通でコピーライターとして活動後、独立。出版社・ひろのぶとを設立。著書に『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)

<取材・文/週刊SPA!編集部 モデル協力/古賀プロダクション アンケート/クロス・マーケティングQIQUMOにて調査>

※週刊SPA!6月1日発売号の特集「中年のお悩み白書」より

―[中年のお悩み白書]―

2021/6/10 8:53

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