本物そっくりのロボットドルフィン 水族館のイルカの解放を求めて開発(米)

米バージニア州ノーフォークを拠点に動物の権利保護活動を行う団体「PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)」が先月28日、Facebookに1本の動画を投稿した。

カリフォルニア州ロサンゼルスにある市民プールにて撮影されたというこの動画には、プールサイドに腰かけた子ども達に向かって泳ぐイルカの姿が映っている。イルカが水面から顔を出して愛嬌を振りまくと、子ども達には笑顔が溢れた。

「こんな風にイルカと触れ合ってみたいな」と自然に思ってしまう和やかな光景だが、このイルカ、実はロボットだというのだ。本物そっくりに作られた表皮で覆われ、滑らかに泳ぐその姿は本物と見間違うほどの完成度になっている。

泳ぐこと以外にも機能が備わっており、“はい”または“いいえ”で答える簡単な質問にも反応し、うなずいたり首を振るという反応を示すという。

“デレ(Delle)”という名のこのロボットイルカは、映画『フリー・ウィリー』や『アナコンダ』などのハリウッド大作に登場する動物の製作を担当した会社が発案したそうだ。

水族館の狭い水槽で生涯を過ごすイルカを解放したいと願って作られたもので、PETAで活動するキャサリン・サリバンさん(Katherine Sullivan)は「海で過ごしていた幼いイルカは、違法に母親が連れ去られてしまい、トラウマになってしまうこともあるのです」と明かしており、連れ去られた母親イルカは望まない妊娠などを強制されてしまう場合もあるという現状を話す。

また動物を用いてサービスを提供する活動に対して、現在ヨーロッパの約20か国ではサーカスでの動物使用禁止または制限をするという動きが出ている。しかしアメリカで行われているイルカとの触れ合い体験には、毎年何十万人が訪れており、このような触れ合いもイルカにとってはストレスになるという。

さらにイルカも自然の生き物なので時に事故が発生し、過去にはツアーで一緒に泳いでいたイルカが暴走して引きずり込まれたこともあった。

こうした背景もあり、イルカと人間の双方にとって安全な触れ合いのために生まれたのがデレなのだ。デレとの触れ合いを楽しむだけではなく、間近でイルカの生態を学ぶこともできるという。

米サンフランシスコを拠点に置くテクノロジーシステム開発会社「エッジ・イノベーションズ(Edge Innovations)」がデレの開発を担当し、その費用は2080万ドル(約22億8000万円)になったそうだ。それでも「費用はかかるが、本物のイルカのように水温調整やエサの費用などは不要で、飼育しているイルカよりも長期間の使用が可能」と同社はメリットを明かす。

同社のCEO、ウォルティ・コンティさん(Walti Conti)はこのように語っている。

「このロボットイルカは、生き物を使用していることを嫌がって水族館から離れていった人々を再び呼び戻すことができるかもしれません。現在およそ3千頭のイルカが飼育下にあり、それによって数十億ドルもの収益が発生しています。」

「しかしそこには利益の追求だけではなく、イルカを好み、イルカについて知りたいという人間の欲求もあります。その気持ちを満たすために、生きているイルカを用いるのとは別の方法を提供していきたいのです。」

PETAは「ロボットイルカが普及するまでには時間がかかると思いますが、海でもカヤックやスタンドアップパドルサーフィン、シュノーケリング、スキューバダイビングなどでイルカと触れ合うことができますよ」と、屋外で自然のイルカと触れ合うことを推奨している。

画像は『PETA(People for the Ethical Treatment of Animals) 2021年6月7日付Facebook「Could this robot dolphin be the reason SeaWorld changes forever?!」』のスクリーンショット

(TechinsightJapan編集部 iruy)

2021/6/10 6:00

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