『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』 日本に金メダルをもたらした「影の主役」たちの熱い実話!

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1998年の長野オリンピックのスキージャンプ団体で、日本が金メダルを獲得するために力を尽くしたテストジャンパーたちの実話を基にした『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』(5月7日公開)。銀メダリストから裏方へと転身した主人公の葛藤など深みのある人間ドラマとしても堪能できるこの作品についてご紹介しよう!

『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』あらすじ(ネタバレなし)

©2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

1994年、リレハンメル・オリンピック。スキージャンプ団体戦で日本の金メダルは確実視されていたが、ラストの原田雅彦(濱津隆之)がジャンプに失敗してしまい、銀メダルに終わってしまった。日本代表の一人として参加していた西方仁也(田中圭)は、責任を感じて落ち込む原田を励ますものの、やはり内心穏やかではない。地元の人々の、腫れ物に触るような態度も彼を苦しめた。だが西方は、常に自然体で彼を支えようとする妻の幸枝(土屋太鳳)と、生まれてきた息子のためにも、彼の地元で開催される次の長野オリンピックでは必ず金メダルを獲得しようと決心する。
しかし、その目標に向かって自分を追い込むあまり、彼は腰痛に悩まされるようになった挙句、それが原因で長野の代表選考を目前にして練習中にジャンプに失敗、負傷してしまう。西方は懸命にリハビリに励み選考直前に全快するが、直近の各大会での成績が考慮されるため結局代表には落選してしまう。これまで何のために努力してきたのか?すべてが無意味に終わってしまったことを嘆き、失意の日々を送る西方。リレハンメルで失敗した原田が再び出場し、自分は出場できないということも、彼に理不尽さを感じさせていた。
そんな彼のもとを、ある日コーチの神崎(古田新太)が訪れる。長野五輪のテストジャンパーの責任者に就任したという神崎は、西方にテストジャンパーとしての参加を依頼しに来たのだ。メダリストとしてのプライド、これまでの努力が徒労に終わったことへの悔しさ、そして年齢的に次の五輪への出場は難しいという絶望感から、西方はその誘いを一旦は断る。しかし、幸枝や幼い息子との会話を通して、自分にとっての“跳ぶ”ことの意味を再認識した彼は、裏方に徹することの屈辱感を完全には拭い去ることができなかったものの、テストジャンパーとして参加することにする。
ジャンパーは総勢25名。さまざまな人間がそれぞれの理由や思いを抱えて参加していた。西方の後輩で実力もありながらやはり怪我によって五輪出場がかなわなかった南川(眞栄田郷敦)、生まれながらに聴覚障害を持ちながらジャンプ選手として優秀な成績を誇っている高橋竜二(山田裕貴)、(当時の)五輪には女子のジャンプ競技がないことからテストジャンパーも「自分にとっての五輪出場」と捉えて情熱を傾けろ北海道の高校生・小林賀子(小坂菜緒)…。そんな彼らの中で最年長であり唯一人のメダリストでもある西方は、いまだに悩みながらも彼らを支え、またそのことによって自分自身の心境も次第に変化していく。
五輪が始まり、ついに迎えたジャンプ団体の本番。天候が悪いこともあり、原田は1回目の試技で再び失敗し、日本は4位に転落してしまう。悪夢の再来に加えて猛吹雪となり、協議は中断。このまま中止になれば日本は金メダルを獲得できなくなってしまう。
審判団は協議の結果、25人のテストジャンパー全員が無事にジャンプを成功させることができれば、2回目の競技を行なうという結論に達した。つまり、日本が金メダルを獲得できるかどうかは、西方らテストジャンパーたちの双肩にかかることになったのだ。しかも、この天候でのジャンプは、最悪の場合生命の危険にすらさらされることになる…。

「結末が分かっている物語」の描き方のお手本

©2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

本作も含めて「実話に基づく映画」は多い。つまり、当然ながら“ストーリー”はすでに出来上がっているわけで、元になる題材が有名であればあるほど、多くの人がその“結末”まで知っているということになる。この映画ももちろんその一本だと言えそうだ(それでも、当時を知らない世代やスポーツに疎いという人たちのために、前ページの「あらすじ」もHPなどで触れられている部分までで止めている)。
普通は、結末が分かっている映画だと、観客としては最後まで観ようというモチベーションが若干弱くなってしまうこともあるかも知れない。そこで試されるのが、「それでも観続けたくなる」演出力や構成力だろう。これらがしっかりしていれば純粋に映画として楽しめるので、観客も飽きることなく映画を最後まで観ることが出来る。
この映画も、そんな成功例の一本と言えそうだ。“あの金メダル”が、出場した選手だけでなく周囲の人々の一致協力によってもたらされたこと、特にテストジャンパーたちの活躍は“裏方”と呼ぶにはあまりにも重要だったという、まさしく「知られざる実話」を丁寧に描きながら、五輪におけるテストジャンパーが果たす役割やその重要性にもきちんと触れているので、観客は大いに興味深く映画を観ることが出来る。しかも、西方を中心にテストジャンパーたちそれぞれのドラマを丹念に追っていることも、観客を飽きさせない理由の一つだ。特に西方と家族の絆の描写は秀逸だ。そして後半の劇的な展開へのサスペンスに満ちた盛り上げは、結果が分かっていてもハラハラしてしまう。最後のこれが出来ているので、この手の実話ベースの作品としては大成功だ。

©2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

実在の人物を演じる魅力的なキャスティング

©2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

実話ベース映画にとって最も難しく最も魅力になるものがキャスティング。諸事情や脚色などでフィクションの要素が入ってしまうことはあるものの、登場人物の大半は実在の人物だし、描かれるエピソードも実際の出来事。演じる俳優たちも、モデルとなる人物に顔立ちや雰囲気が似ていて、なおかつその内面まできちんと表現できる演技力が必要とされることがほとんどだ。
西方に扮した田中は、長身で精悍な顔立ちの本人に比べると若干柔らかい感じもするが、バスケットボール好きでもある身体能力の高さを活かして、アスリートの普段の生活における立ち居振る舞いを違和感なく演じている。何より、良き夫・良き父としての雰囲気が十分に漂っているところは、人間ドラマとしてのこの映画の主演としてはまさに適役。
元プロ野球選手を父に持ち自身も野球などの経験がある山田、日本のアクション俳優の代表格・千葉真一の息子である眞栄田など、他のジャンパー役の俳優たちもアスリートにふさわしい身体の持ち主で、かつ雰囲気や演技力も兼ね備えた顔触れが揃う。障害を持つアスリートを的確に演じるために実際に高橋に会って役作りに励んだ山田。特定のモデルはいないものの、若さゆえにある意味西方よりもテストジャンパーをやることに屈折した心情を抱く南川の心理を巧みに表現した眞栄田。ともに好演だ。
さらに、アイドルグループ「日向坂46」のメンバーとしてマルチに活躍する中で女優業にも真摯に取り組んでいる小坂の熱演、「挫折の先輩」として西方らに厳しく接しながらも実は人情味あふれる神崎に扮して映画を引き締める古田ら、まさに適材適所。そして何より、いろいろな意味で西方のモチベーションの源であり彼を優しく支え続ける幸枝に扮した土屋の「癒しオーラ全開」の存在感が、家族のドラマとしてのこの映画の柱になっている。

スポーツを題材にした実録もの、挫折を乗り越えようとする主人公たちの人間ドラマ、家族の絆を描くホームドラマ、大きな目標のために力を合わせる人々の姿を描いた群像劇…。さまざまな要素を巧みにブレンドした、見応えのある映画だ。

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