世耕自民参院幹事長、安倍氏お墨付きで二階幹事長下ろし? 河井案里事件で泥仕合繰り広げられる

 自民党の世耕弘成(せこう・ひろしげ)参議院幹事長が、2019年夏の参議院広島選挙区で自民党本部から河井案里側に1億5000万円の資金が振り込まれ、それが地方議員の買収に使われていた問題で、説明責任は二階俊博幹事長にあるとの見方を示した。

 この河井陣営への多額の選挙資金への振り込みを巡っては二階氏が5月17日の会見で、「私は関与していない」と当初述べていた。翌18日の会見でも「全般の責任は私にあるが、個別選挙区の戦略や支援方針はそれぞれの担当で行っている」と改めて説明し、当時、二階自らは選挙資金振り込みを全く把握していなかった点を強調した。

 二階氏サイドは側近の林幹雄幹事長代理が「実質的に当時の選挙対策委員長が広島に関しては担当していた」と述べるなど、責任を甘利明に転嫁していた。その甘利は18日、国会内で記者団に「1ミリも関与していない。もっと正確に言えば1ミクロンも関わっていない。そもそも党から支給された事実を知らない」と言い切るなど、資金支出を巡り自民党内で泥仕合が繰り返された。

 冒頭の世耕発言の詳細を報じる5月21日配信のNHK NEWS WEBによると、世耕は記者会見で「二階幹事長はその後、発言を補足して最終的に資金の出納についての責任は自分にあると言っていると思う。一義的に説明責任は党本部にあり、党本部の責任者は幹事長ということだ」と指摘し、二階に説明責任を求めた。一応、「この1億5000万円は、収支を報告しなければならないことが前提になっており、そういう金が買収に使われるなどということはありえない」とも述べているが、永田町の関係者は誰も、この最後のつけたし発言を額面通りには取らない。

永田町ベテラン秘書が解説する世耕発言の真意

 この世耕の発言を永田町のベテラン秘書は、“永田町の言葉”で以下のように意訳する。ベテラン秘書が解く世耕の心中は以下のとおりだ。

「衆議院和歌山3区はもともと、経済企画庁長官まで務めた私の祖父、弘一(こういち)の地盤だ。和歌山県新宮市の材木店の丁稚から苦学して日大に入り、ベルリン大学への留学などを経て日大教授、近畿大学初代総長・理事長、衆議院議員(8期)を歴任した立志伝中の人物である祖父、弘一が 1932年から 23年間も連続当選した地盤、新宮市を中核とするものなのだから、 二階は1.5億円の問題の責任を取りさっさと消えろ」。

 世耕がかねてから「総理・総裁」の座を睨み、衆院への鞍替えを画策してきたのは周知の事実だ。参議院でも5期目を数えるベテランながら、58歳という若さで参院首脳ポストに就いているが、参議院議員であり続ける限り、この先目指せるのは参議院議長ぐらいしかない。衆院に移ればさほど期数を重ねずとも「総裁候補」の有資格者になるのは間違いない。

 世耕の経歴は名前が挙がる他のポスト菅の候補と比較して全く遜色ない。早稲田大学政治経済学部を卒業後、1986年に日本電信電話(NTT)に入社。1990年よりNTTの派遣で米マサチューセッツ州のボストン大学コミュニケーション学部大学院へ留学し、1992年に企業広報論修士号を取得した。帰国後、NTTでは本社広報部報道部門報道担当課長などを務めている。

 1998年に政治の世界に入ってからも順風満帆で、自民党マルチメディア局長、第一安倍内閣の内閣総理大臣補佐官、第二次安倍内閣の内閣官房副長官、経済産業大臣、原子力経済被害担当大臣、ロシア経済分野協力担当大臣などの要職を歴任している。7年8カ月に及んだ第二次安倍政権を側近として支えた。

 トリビア的情報を付け加えるならば、大阪教育大学付属高等学校天王寺校舎ではノーベル賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授と同期で、祖父、弘一が創立した近畿大学では第4代理事長を務めている。

 完璧としか言いようがない華麗なる世耕の経歴だ。だから、永田町では事あるごとに、世耕と二階を巡る「密約」も囁かれ続けてきた。世耕が二階の引退に伴って衆院和歌山3区に鞍替えし、二階氏の三男である伸康が世耕の参院和歌山選挙区を引き継ぐシナリオだ。

 二階の選挙区、和歌山3区では長男の俊樹(56歳)と三男の伸康(43歳)が父、俊博の政治活動を手伝っている。俊樹は2016年の御坊市長選で大敗し、二階の後継者本命から大きく後退し、今は伸康が後継に本命視されている。和歌山県庁関係者によると、父親の威を傘に威張り散らす俊樹と違い、「伸康は全日空で長年にわたりサラリーマンを務めるなどしているので、腰が低い」と地元の受けも悪くないという。で、噂される“密約”どおり、二階が引退すれば3区をすんなり世耕に譲り、伸康が参議院和歌山選挙区から出馬できるかというと、目論見通りに行かないのが政治の世界だ。

動き出した世耕 巨鯨「二階」との戦い

 総理総裁を狙う世耕は河井案里への選挙資金の支出を巡り、二階に対する批判が出ている今が好機と見て動きだした。そして、今回の発言は「安倍晋三前首相の意向を受けたものである」(自民党関係者)という。世耕が所属する清和会は、現在は細田派を名乗っているが、やがては安倍派に衣替えする派閥だ。自らの返り咲き、またはキングメーカーのポジションを確保したい安倍にとっても、世耕の衆院転出はキングメーカーたる自分の手駒を一つ増やすことになる。それで二階を引退に追い込めるなら一石二鳥だ。

 しかし、和歌山3区の反二階派の地元政治家は3区内の日本捕鯨の発祥の地、太地町があることを引き合いに、「二階は大きなクジラ。老いたとはいえ、これまで巨大になり続けてきたクジラだ。一本の銛を打ち込んだところで倒せるものでない。繰り返し繰り返し銛を打ち込み続けるしかない」と打倒二階の難しさを語る。

 果たして世耕は、巨鯨“二階”の背に銛を打ち込むことができるのか? ハーマン・メルヴィルの「白鯨」ではないが、世耕がエイハブ船長のように、鯨と死闘の末、海に引きずり込まれることがないことを切に願う。

2021/6/5 8:00

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