闇ワクチン密売業者に接触。指定された場所に「1本15万円」の注射器

「一日100万回」を目標に急ピッチでワクチン接種が進むなか、接種時期が定まらない65歳未満の人々は「いつ打てるのか」と苛立っている。こうしたなか、さまざまなビジネスが生まれていた!

◆予約代行に渡米接種組も!密売業者もネットに出没

 全国で新型コロナウイルスのワクチン接種がGW明けから一気に本格化した。しかし、高齢者が予約システムに殺到しサーバーが落ちるなど、各自治体でトラブルが頻発。“ワクチン難民”になった老人たちの存在がクローズアップされた。

 こうしたなか、ツイッター上には4月末から数千~1万円で「予約代行」を請け負う輩が多数出現し、書き込みが溢れた。

◆図書館で“営業”してワクチン予約代行

「ネットができない老人に向けて、SNSで募集するのはアホ」

 こう鼻で笑うのは東海地方に住む会社員の男性(30代)。彼は予約代行で5万円以上稼いだという。

「テレワークでたまに行く図書館の新聞コーナーでいつも会う老人がいて、ワクチンの予約ができないと相談されて。接種券を持ってきてもらいQRコードを読み込んで記入したら5分で予約できた。そうしたら、その老人がえらく感動しちゃって、『お金取ってもいいから友達の分も予約してくれ』って泣きつかれた。一人2000円もらって、計8人分予約したよ」

 男性はこれで味をしめ、翌週から隣町の図書館に“遠征”。午前中から井戸端会議をしている老人たちに声をかけたという。

「話に乗ってくる人は少ないんだけど、一人の老人が知り合い5人とか連れてくるので効率はいい。藁にもすがる表情で懇願してくるので心苦しいけどね。夫婦で3000円とか、貧乏そうな老人には1000円とか価格は変えてますが、30人近く予約を取った。割のいい短期バイトでしたよ」

 男性の行動は褒められたものではないが、それだけ予約システムが機能していない証左だろう。

◆渡米してワクチン接種。3日で150人が殺到

 一方、国内のワクチン接種者がようやく1000万人を突破したが、65歳未満の接種スケジュールは未定のままだ。こうしたなか、注目を集めているのが渡米して接種するワクチンツーリズム。

 一部都市では観光客向けにワクチンを無料で接種するサービスを始めており、世界から外国人が殺到しているのだ。ニューヨークにある日本人向けツアー会社「あっとニューヨーク」の土橋省吾代表は言う。

「ワクチン接種ツアーの募集を5月12日から開始したところ、17日から3日間だけで150人もの予約があった。参加者の9割が男性で、多いのは40~50代の会社経営者です。ニューヨーク州が観光客用に接種するのは、当初ジョンソン・エンド・ジョンソン社の1回接種で済むワクチンだけでしたが、今はファイザー社製も打てます」

 同社は接種会場へのアテンド費として150ドルという価格だが、個人で動き始める人も。ビジネス通訳業務を行う現地在住の日本人は言う。

「コロナで仕事がなくてヒマだったから取引先に『ワクチン打てますよ』と呼びかけたら興味を示してくれて。今月末にIT企業の社長夫妻が来る予定です。ホテルの手配と合わせ20万円で請け負いました。コロナで仕事がなくなってたんで助かりますよ」

 渡米すれば日本より早く打てるのは確実だが、問題は帰国時だ。今のところ「ワクチン接種者も入国時は72時間前PCR検査と14日間の自主隔離は必要」(厚労省対策推進本部)なので、ややハードルは高いかもしれない。

◆中国製ワクチンの営業メールの正体

 さらに、一刻も早くワクチンを接種したい人々に向けて正体不明のワクチンを案内する事例も。

 家電や衛生用品を販売する東亜産業が医療・介護従事者に向けて「中国国内において接種された実績」があるワクチンを「独自ネットワークを駆使して」入手したという営業文書を送付していたのだ。5月中旬にSNSで暴露され炎上したが、当事者はこう答える。

「ワクチンの絶対数が不足するなか、国民全体に行き渡るまでに時間を要するので、社会貢献の一環として、医療機関の院長など非常に限られた方々にお手紙を出しました。

 弊社は医薬品の販売製造業の許認可を取得しておらず、薬機法(旧薬事法)上ワクチンの輸入ができないため、あくまで医療機関に対して入手ルートのご紹介と輸入手続きのサポートまで。医療機関等がしっかりとリスクを認識していただいた上で、購入していただくことになる。

 ネット上では批判的コメントもありましたが、『ぜひ情報交換したい』と好意的な意見も複数頂いています」(広報担当)

 中国政府は、中国製ワクチンの民間輸出を認めていないが、それに対しては「中国政府の意図はわからない」と答えた。中国製ワクチンが上陸する日は来るのだろうか。

◆テレグラムに出没!闇ワクチン密売業者

 最後にもっともヤバい事例を紹介しよう。完全に違法な闇ワクチン密売だ。取材をしたルポライターの奥窪優木氏は言う。

「秘匿性の高いメッセージアプリ『テレグラム』に大麻や覚醒剤を売るグループチャットがあり、そこに『中国のコロナワクチンがほしい人、注射したい人はDMください』との書き込みを発見したんです。連絡してみると中国シノバック社製で、手付金を振り込めば1週間後に渡すと回答があった」

 奥窪氏はその後「本物か確認したい」と業者に告げると、都内某所を指定してきた。相手が姿を現すと思いきや、一枚の画像が送られてきたという。

「そのときいた公園の一角の写真で『この草のうしろ』とメッセージが来て、覗いてみると注射器の入ったペンケースがあったんです。本物だと確認できたら15万円払えと。複数の検査機関に成分分析を断られ、医師に見せたところ注射器自体はワクチン接種用のものに見えるとのことでした」

◆65歳未満の国民はいつになったら打てる?

 全国民接種までの道筋が見えぬなか、さまざまなワクチンビジネスが蔓延しているが、65歳未満の国民はいつになったら打てるのか。ナビタスクリニック理事長で感染症に詳しい久住英二医師は言う。

「当初、政府はワクチンの調達に失敗したことを、現場が手伝わないから進まないというストーリーにすり替えていました。ただ、現在は粛々と接種は進んでおり、全国民の7割が打つとしても2回分で計1億6000回分ですので、半年あれば終わります。毎年、インフルエンザワクチンは6000万回分を2か月で行っていますから。

 中国製ワクチンについて、医師が個人輸入して使用する可能性があるかもしれませんが、偽物もあってサプライチェーンが信頼できないので避けたほうがいい」

 おとなしく公的接種の順番がくるのを待ったほうがいいだろう。

◆言ってはいけないワクチンの真実

 我が国におけるワクチン接種はなぜここまで混乱したのか。作家の橘玲氏は複数の要因を指摘する。

「厚労省は、被験者が160人しかおらず、医学的にはなんの意味もない国内の治験にこだわり、2か月も無駄にしました。政治判断で昨年12月にファイザーのワクチンを承認しておけば、状況もだいぶん違っていたでしょう」

 もうひとつはマスコミの責任だ。

「子宮頸がんワクチンが社会問題になったとき、医学的な根拠もないのに『副反応のあるワクチンなんて許さない』とマスコミはさんざん批判してきました。厚労省が国内治験にこだわったのはこのときのトラウマ。大手メディアが“ワクチン敗戦”を批判しないのは、過去の報道を蒸し返されることを恐れているからでしょう」

◆マイナンバーへの警戒感をマスコミが煽った結果?

 予約システムのトラブルも、マイナンバーへの警戒感をマスコミが煽った結果だと続ける。

「なぜ対象でない人が予約を取れてしまうかというと、個人情報に基づいたチェックができないから。マイナンバーと生年月日を照合して65歳未満をはじけばいいだけの話。なぜそんな簡単なことができないかというと、『国家が国民を管理するためにマイナンバーを使うのは許さない』と主張する人たちがいて、多くのメディアもそれに同調していたからです。

 新型コロナをめぐる一連の失策はまさに戦後民主主義の総決算であり、みんなが望んだ社会を私たちは目にしているのではないでしょうか」

 日本人は生まれ変われるのか。

【橘 玲氏】

’59年生まれ、作家。小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。著書に『言ってはいけない』『もっと言ってはいけない』(新潮新書)など多数

<取材・文/SPA!ワクチン問題取材班>

2021/6/5 8:54

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