原田マハ「フィクションと史実」を曖昧にする理由、「アート小説」を書く上で気を付けていることは?

住吉美紀がパーソナリティをつとめるTOKYO FMの生ワイド番組「Blue Ocean」。5月31日(月)放送のコーナー「Blue Ocean Professional supported by あきゅらいず」のゲストは、作家・原田マハさん。ミステリー小説「リボルバー」(幻冬舎)を5月26日(水)に発売した原田さんが自身のキャリアを振り返り、小説の執筆スタイルについて語ってくれました。

(左から)原田マハさん、住吉美紀

「頑張るプロフェッショナルの女性の素顔に迫る」をテーマに、各界で活躍されている素敵な女性をゲストに迎えて話を伺うコーナー「Blue Ocean Professional supported by あきゅらいず」。今回のゲストは、作家の原田マハさんです。

原田さんは馬里邑美術館、伊藤忠商事株式会社、森ビル森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、2002年からフリーのキュレーターとして活躍。2005年には、「第1回 日本ラブストーリー大賞」で大賞を受賞し、作家デビューを果たします。2012年に発売した「楽園のカンヴァス」(新潮社)は、「第25回 山本周五郎賞」をはじめとする数々の賞を受賞し、多くの人々の注目を集めました。

原田マハさん/photo by 藤井保

◆漫画家を目指していた時期もあった!?

住吉:(画家や絵画をモチーフにした)「アート小説」というカテゴリでも知られている原田さん。そもそもアートの世界に興味を持たれたきっかけは?

原田:その話をすると、これから1時間ぐらいはかかってしまいます(笑)。すごく短く言うと、生まれたときからアート的な環境があったというか。父が美術全集のセールスマンをやっていて、身の回りには常に画集があったんです。

住吉:へええ!

原田:それを見ながら育ったので、子どもの頃からアートは“友だち”のような存在です。絵を描くのも得意だったし、美術館に行くのも好きな子どもでした。子どもの頃からずっと、大きくなったら画家や漫画家、物語を書く人といったクリエイターになることを考えていました。

住吉:漫画を描こうとされていた時期もあったそうですね?

原田:そうですね。10代~20代ぐらいの頃は、物語を作るのと絵を描くことが好きだったので、両方を合体させた漫画の大賞に応募したことがありました(笑)。

住吉:応募まで! すごい。

原田:いい線までいったんですけどね。もしあれが大賞をとっていたら、今頃は漫画家として活躍していたかもしれません(笑)。

◆自らの意思でアートの世界に

住吉:アートの勉強をして、キュレーターの道に進まれたのですか?

原田:もともと、20代になった頃に「アートに近い仕事がしたい」と思いはじめて、「いつかニューヨークに行ってアートディーラーになる」って妄想していたこともありました。たまたま、都内に新しい美術館がオープンする話を耳にしまして、そこに飛び込みで「私を雇ってください!」と話しにいったのがきっかけでした。それが転機となって、いろんなアートの世界に踏み込むようになりましたね。

住吉:自分で「雇ってください」って飛び込みでいったんですか!?

原田:そう(笑)。何の根拠もないんだけど、「アートの世界だったら一生付き合っていける」っていう思いがあって。高嶺の花の人に自分からプロポーズをする心境でしたね。

住吉:きっと、その熱量を受け止めてもらえる説得力があったんでしょうね。

原田:どうだったのでしょう。あまりに押しが強かったし、度胸もあったので「変わった人だな」と思われたのかもしれませんね(笑)。

住吉:「何かをやってくれそうだ」って期待されたのかもしれませんね。

◆小説家に転向したきっかけは?

住吉:子どもの頃からクリエイターに憧れていたわけですし、キュレーターから作家になられたのは自然な流れだったのでしょうか?

原田:そうですね。物語を読むのも書くのも好きだったので、本をたくさん読みました。それに、小学生の頃に創作の物語を書いていたので、何らかのクリエイションに関わることは、私のなかでは必然的にあった気がします。

小説の世界に飛び込むきっかけになったのは、40歳になったタイミングで「自分の人生のなかで一番やりたいことは何なのかな」と考えたことでした。当時は都内の美術館に勤めていたので、キュレーターとして生きるというレールが敷かれていたんです。だけど、「何かもう1つやりたいことを忘れているような気がする」と考えたときに、小説家になりたいことを思い出して。

それで、自分の人生でやり残したことがないように生きてみたくて、思い切って独立しました。いろいろ大変なこともありましたけど、大気圏を突破するような気持ちで飛び出して。「楽園のカンヴァス」の構想は元々あったので、資料を集めたり、物語の舞台がパリなのでヨーロッパを旅行したりしました。自分なりに、けっこういろいろやりましたね。

住吉:行動力、決断力、勇気、才能がすごくあったんですね。

◆フィクションと史実を曖昧にする理由

住吉:原田さんの最新作「リボルバー」は、ゴッホとゴーギャンが作品のテーマでしたね。みなさんご存知だと思いますが、ゴッホは37歳という若さで亡くなっていて、自ら命を絶ったと言われています。「リボルバー」では、ゴッホの死、ゴッホとゴーギャンの関係についてのミステリーが書かれています。こちらは、長い間書こうと思っていたテーマでした?

原田:そうですね。もともとゴッホを主人公の1人にした小説「たゆたえども沈まず」(幻冬舎)を既に上梓しているんですけれど、その頃からゴッホという画家は多面的に捉えることができる人物だな、ということがわかったんです。まさに“ゴッホ沼”にハマった感じです。

住吉:へええ!

原田:興味があった画家ではあったんですけど、ルソーやピカソのように自分から積極的には近付かなかったんですね。「この沼はハマると深いぞ」って最初からわかっていたので。かなり気を付けながら沼に近付いていたつもりだったのですが、「たゆたえども沈まず」で片足を突っ込んでしまって、「リボルバー」でもう片足も入ってしまったって感じです。

ゴッホは作品もさることながら、人生自体も波瀾万丈で、いまだに世界中の美術愛好家から検証されている画家です。今年は死後131年目ですが、まったく話題が絶えない。その衰えない人気の秘密はどこなのかってことも含めて、彼の晩年に迫る物語に仕立ててあります。

住吉:「リボルバー」は、パリの小さなオークション会社で働く主人公・高遠冴の元に、ゴッホの自殺に使われたという1丁の拳銃が持ち込まれたというストーリーです。どこまでが史実で、どこからがクリエイションなんだろうって、最後までハラハラして読みました。

原田:「楽園のカンヴァス」あたりから、虚実皮膜と言いますか、史実とフィクションを織り交ぜて書く手法を積極的に取り入れてきました。私の小説はフィクションなんですけれど、実は10パーセントぐらいは史実なんです。史実の部分をしっかりと固めて、その上に90パーセントのフィクションを乗せているわけです。

基盤の部分がしっかりしていないと上の部分がグラグラと揺らいでしまうため、話の整合性がなくなってしまうので、かなり気を付けて基盤づくりをしています。物語の最後には「これは史実をもとにしたフィクションです」と必ず書くんですけど、これは読者自身に「どこがフィクションで、どこが史実なんだろう」って調べてもらいたいからなんです。

住吉:なるほど!

原田:文献に目を通してもいいし、実際に美術館へ足を運んでみるのもいいですね。読者にリサーチをしていただきたいので、フィクションと史実の境界を曖昧にしております。

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<番組概要>

番組名:Blue Ocean

放送日時:毎週月~金曜9:00~11:00

パーソナリティ:住吉美紀

番組Webサイト: http://www.tfm.co.jp/bo/

特設サイト: https://www.tfm.co.jp/bo/aky/

2021/6/4 13:00

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