「自分が可愛くないって、わかってる」そんな代理店女子が屈辱を味わった、史上最低の出来事

美人か、そうでないか。

女の人生は“顔面偏差値”に大きく左右される。

…それなら、美しく生まれなかった場合は、一体どうすればよいのだろう。

来世に期待して、美人と比べられながら損する人生を送るしかないのか。

そこに、理不尽だらけの境遇に首をかしげる、ひとりの平凡な容姿の女がいた。

女は次第に「美人より、絶対に幸せになってやる!」と闘志を燃やしていく。


― ついについについに!

リモートワークを終えた山科園子は、スキップをしながら自宅の廊下を駆け抜け、襖を開けた。広々とした和室の中央で、両親がすでに夕食を始めている。

「おお園子、随分と遅くまでかかったね。お疲れさま」

「引き継ぎが結構大変だったの。でもこれで経理は卒業!明日から私、営業職よ!」

「おお、園子の希望が叶ったんだな。景気づけに乾杯しよう」

父親の差し出したお猪口を受け取り、園子は微笑んだ。



園子が大手広告代理店に入社したのは、今から3年前のこと。そこでの華やかな代理店ライフを夢みていたが、初任配属は経理部だった。

そのため園子は、イメージと実際の仕事とのギャップに苦しむことになったのだ。

「お疲れさまです。昨日出していただいた書類、2円計算が合っていないんですけれども…」

営業から提出される書類を細かくチェックし、ミスがあれば電話で確認する日々。

億単位のお金を動かしているからか、一部の営業職の人間は細かいお金について無頓着で、経理からの電話を後回しにする。何度かけても一向につかまらない人もいる。

その地味さに辟易し、この3月。人事に「異動したい」と申し出たのだった。

「私、営業職への異動を希望します。できれば華やかなクライアントがいいです」

希望を出したところで通らないことも多いと言われているなか、園子の希望はするりと通った。…というのも園子の実家は、有名老舗和菓子店を代々経営している。

そして代理店にとって、山科家の和菓子店は長年の得意先なのだ。もちろん、父親と役員の仲も良い。

― 異動が叶ったのは、お父さんが口利きしてくれたからだな。でもこれで、ようやく華の営業職ね!

とはいえ園子には、この異動に対してある大きな不安があった。

念願の部署異動。一方で園子が抱えていた“大きな不安”とは

異動先として告げられたのは、誰もが知る大手化粧品メーカーをクライアントとする部署だった。

「わ、私が、あのクライアント…?なんでまた」

園子はたじろいた。というのもその部署は、化粧品という商材の特徴からか女性比率が8割以上。そして何より、美人ぞろいで有名なのだ。

― 私があんな部署にいったら、確実に浮きません?

そう言ってみようかと思っていたら、人事は頭を下げた。

「山科はガッツがあるから向いてると思うよ。よろしくな」

考えてみれば、そもそも「華やかなクライアント」という希望を出したのは自分なのだ。だから園子は、静かにうなずくしかなかった。



園子は夕食をとりながら、その不安について両親に切り出した。

「あのね、ひとつ問題があるの。化粧品メーカーの担当になるんだけど、その部署が美人ぞろいで有名なの」

「それの何が問題なんだ?」

父親は園子の顔をまっすぐに見つめながら、かすかに首を傾げた。

「いや、だって。…私には似合わないと思わない?」

思わず笑いながら言った園子に、父は顔をしかめながら「どうしてだ?」と大真面目に聞く。

「だって私…」

― どっからどう見ても、美人じゃないじゃん?むしろ顔で損する方じゃん?

出かかった言葉を喉元で飲み込む。こういうことを言っても、両親がしょんぼりするだけだ。

「ほ、ほら…。私、派手な人と違ってお化粧とかあんまり興味ないしさ」

そうごまかすと、父親は満足そうに目を細めて言うのだった。

「まあ、園子は何もしなくても美人だからなあ」

このような褒め言葉は園子にとっては耳慣れたものだが、でも実は知っている。

― こんなふうに私の見た目を褒める人なんて、世界中探してもうちの両親くらいだわ。

小さい頃は両親の言葉を鵜呑みにして、本当に自分が「世界イチ可愛い」と思っていたし「男の人が放っておかないから注意しないとダメ」なのだと信じていた。

でも、中学に上がる頃にはもう気づいていた。

― 自分は可愛くなんかない。男の人が放っておかないような見た目じゃない。

…むしろ心配すべきは、男の人に一生放っておかれることだと思う。


「美人ぞろいの部署、か…」

夕食後。園子は歯磨きをしながら、ぼんやりと考えていた。

その部署には、100人いたら100人が漏れなく「美人だ」と断言するような人が集まっているのだろうか。

― 私なんて、100人いたら100人が「可愛くない」と断言するような顔なのに。

「…いや。100人いたら、1人くらいは可愛いって言ってくれるかもな」

鏡に映る顔を見て、頬を軽く叩いてみる。

― 明るく振る舞えば、まあなんとかなるかな!

園子は、ムリヤリ楽観的な思考に切り替えようとしてみた。

しかし翌朝、異動先のフロアに足を踏み入れた瞬間、“あること”を察してしまったのだ。

異動先のフロアで、園子が悟ってしまったこととは…?

― 何これ、経理部と全然違うんですけど!

フロアは、なんだか甘やかな香りがした。

新年度というタイミングもあり、半数以上の人が出社していて社内は賑やかだ。そんななか、園子は指定された席につく。

するとその後すぐに、新年度総会が始まった。そこで園子は、挨拶をすることになっていたのだ。

「本日から配属となりました、山科園子と申します」

そう挨拶すると拍手が起こり、リモートで見ている人たちの拍手もスピーカーを通して聞こえてくる。園子は周りをぐるりと取り囲む社員たちに向かって、丁寧にお辞儀をした。

こうして見ると、明るい色の服を着た人が多い。

― なんで私、グレーのブラウスにブラウンのスカートなんかで来たんだろ。

たまらなくなった園子は、挨拶の後にこう続けた。

「私、元は経理にいたんですけど…。いやあ、噂通りの美人ぞろいでびっくりです。ちょっと私、服が地味過ぎましたね!…あ、顔もか」

誰かしら笑ってくれるものだと思っていたのに、その瞬間、空気が凍ったようになった。綺麗に化粧が施された彼女たちの目が、園子を値踏みするように見ている。

「ということで、まずは雰囲気になじむとこから頑張ります。あ、もちろん仕事も全力でやるので、いろいろ教えてください!」

また拍手が起こるが、その音はどこかよそよそしく聞こえた。


「ねえ。あの人、ウチには場違いじゃない?」

総会が終わりトイレに入っていると、洗面台スペースの方から女たちのヒソヒソ声が聞こえてきた。園子は個室から出ずに、耳をすませる。

「それね!悪目立ちしちゃって、なんか可哀想だよね」

― もう、思いっきり私の話じゃん!

美女がクスクスと笑いあう様子は、見ていなくても想像できる。

「でもさ、あの子をわざわざここに配属するって、人事が何を考えたのか聞きたいわ」

― 私も聞きたいですよ…。

「あの子、コネ入社らしいよ。だから自分でここを希望したんじゃないかな」

― 希望はしてない!

心の中でこっそりと切り返しながら、小さく地団駄を踏む。だがしばらく待っても噂話は止まず、むしろエスカレートする一方だった。

園子は思い切って、堂々と個室のドアを開ける。そして気づかず噂話を続ける女たちに向かって、スタスタと歩み寄ったのだ。


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異動先の雰囲気に、どんどん飲まれていく園子は…?

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