「付き合って」の一言もなく深い関係になった男女。その後、女が知ってしまった驚きの事実とは

恋は焦りすぎると、上手くいかないもの。

だから、じっくり時間をかけて相手を知っていくべきなのだ。

結婚に焦り様々な出会いと別れを繰り返す、丸の内OL・萌。

“カルボナーラ”をきっかけに失恋した女は、恋も料理の腕前も上達していく…?

◆これまでのあらすじ

失恋を機に、萌は料理教室へと通い始めた。そこで不思議な魅力を持つ、朝日和馬と出会う。

彼から「恋愛はゆっくり進めるものだ」と優しくアドバイスをもらう萌。しかし気になっていた会社の先輩・松田と一線を越えてしまい…?

▶前回:「大概はハッピーエンドにならないとわかってる」それでも女が、付き合ってもない男の部屋に行ったワケ


「絵美さん、さっきのどういうことですか?松田さんと飲みに行って大丈夫だったか、って」

前々から楽しみにしていた、イタリアンレストランでのランチの最中。萌は運ばれてきたマルゲリータピザもそっちのけで、絵美に詰め寄った。

「実は松田さん、この間まで私の同期の春香と、半年くらい社内恋愛してたんだ…」

「ウソ、知らなかった…。それに松田さん、私には一言もそんなこと言ってなかったですよ」

「こっそり付き合ってたからね。萌が知らないのも、まあ無理はないよ。社内で変に噂が立つのを嫌って、上手くやってたみたいだから」

松田の元カノである小野春香は、彼と同じ部署で働いている。スタイル抜群で美人、ということもあって社内では目立つ方だった。

しかも料理が上手で料理インスタグラマーとしても活躍し、1万人もフォロワーがいるのだ。

“美人で料理上手“という武器で、男の心も胃袋も掴む春香だが、なぜか女性陣にはキツくあたるという側面もある。そのせいか、同性からの評判はあまり良くなかった。

「なんで二人は別れちゃったんですか?」

すると、絵美は声を潜めて言う。

「松田さん、表向きとっても優しいでしょ。いつも笑顔だし気が利くし。でも実際に付き合ったらヤバかったらしいよ」

100年の恋も冷めてしまう、恐るべき松田の本性とは

「彼、釣った魚にはエサをやらないタイプだったみたい。休日も一人で出かけちゃって、デートは二の次で。ようやく会えたと思ったら近所でちょっとご飯食べるだけの、省エネデートだったみたいだよ」

「え、あんな美人を捕まえておいてひどい…」

「しかもね」

そう言うと、深刻そうな表情を見せた絵美が、こちらにグイと身を乗り出してきた。

「春香の前に付き合っていたのが受付の長谷川さんだったの。そのほかにも社内の人に手を出してたらしくて、彼女探しも省エネモードだったんだってさ」

「え、あの松田さんがですか?」

「意外だよね。それにね、自分よりも社会的レベルが下だってわかると見下したりして。そんな態度が嫌だったみたい」

絵美の話を一通り聞き終わる頃には、アツアツのピザはすでに冷めていた。

萌は固まってしまったピザのチーズを見つめながら、今までの松田とのやりとりを思い出す。…結局、萌のことも含めて、近場で都合のいい女を漁っているだけの男だったのだ。

「…私って男を見る目ないですね」

それからというもの、萌は松田から誘われるたびに、何かと理由をつけて断るようにし始めた。

そうして彼と距離を取るようにして、気づいたことがある。どうやら松田は、萌と並行して新入社員の女の子も口説いていたようなのだ。

萌は自分自身の軽率さを反省し、朝日に言われた「恋愛はじっくり進めるもの」というアドバイスを、改めて胸に刻んだのだった。




「はあ…」

萌は、料理教室での2回目のレッスンを終え、大きなため息をついていた。…ため息の理由は、2つある。

まず1つ目は、目の前の不格好な出汁巻き卵だ。

今日のレッスンでは出汁巻き卵を作ることになっていたのだが、萌の出来栄えは群を抜いて悪かった。

卵焼きを作るには、常に弱火で表面が固まらないうちに巻かなければならない。しかし、もたもたしていた萌は、卵に火を通しすぎて一部真っ黒に焦がしてしまったのだ。

「萌ちゃん、大丈夫?」

朝日が心配そうに声をかけてくる。

「ちょっと考え事をしてたら失敗しちゃいました…」

「考え事?」

これが、ため息をついていた2つ目の理由だ。

「人を見る目って、どうやったら養えるんですかね?朝日さんは会社を経営されていて、裏切られたり騙されたりすることはないんですか?この人なら大丈夫、って思える人は、どんな人なんでしょう…」

萌は立て続けに質問をぶつけてしまったことを少し後悔しながらも、朝日が口を開くのを待つ。

すると彼は、萌の切実なまなざしに何かを察したのか、難しい顔をしながらこう言ったのだ。

真剣な萌のまなざしに、朝日は…?

「僕は『ありがとう』って感謝の言葉をきちんと伝えてくれる人かな。何でもやってもらって当たり前だって思う人は、どんなに仕事ができる人でも信用できないから」

「感謝、ですか?」

「この卵焼きひとつとってみてもさ。ありふれたおかずで一見簡単そうだけど、実際に作ってみたら時間も手間もかかったでしょ?」

萌は、不格好な出汁巻き卵に視線を落とす。

「だから作ってくれた人の気持ちを考えたら、どんな些細なことでも 『ありがとう』は言わないとなって。…まあ、僕もこの歳になって気づいたんだけどね」

朝日は照れたように笑いながら、卵焼きをパクッと食べる。その横顔は、どことなく物悲しく見えた気がした。




「絵美さんはいいなあ…」

土曜日の昼下がり。飯田橋にあるカフェのテラス席で、萌は絵美と一緒にコーヒーを待っていた。松田との一件で落ち込む萌を励まそうとしたようで、休日にもかかわらず誘ってくれたのだ。

「どうしたの、いきなり」

「美人でスタイルも良くてキラキラしてて、しかもイケメンの彼氏がいて羨ましくって…。どこかにいい出会いってないですかね?」

「あはは、何を言い出すかと思ったら…。そんなことないよ、私だって今の彼氏はアプリで見つけたんだもん。萌も始めてみたら?」

「うーん、アプリですか…」

萌は運ばれてきたコーヒーにミルクをたっぷり入れ、かき回しながらつぶやく。

「アプリで結婚した友達だって周りにいるし。その子は商社マンを見つけて、確か1年くらいで結婚したよ。相手は海外駐在の前に、帯同してくれる人を決めたかったみたい」

目の前の絵美は、目を輝かせながら続ける。

「今やその子は、シンガポールで優雅な駐妻生活してるの。アプリも立派な出会い方の1つだよ?」

実は萌も、元カレの雅紀と別れた勢いでマッチングアプリに登録していた。しかし誰とも会う気になれず、しばらく更新していなかったのだ。

絵美に諭され、その場でプロフィール写真を3枚登録し、長めの紹介文を載せてみる。

そうして帰宅後にアプリを開くと、20通ほどメッセージが届いていた。…だけど、どの人にもなんだかピンとこない。

年収はいいけれど、50代のバツイチ。一方で顔はタイプだけど、年収はそこそこな人。

メッセージは、コピペして使い回してるのではないかと思うほど陳腐なものばかり。

― やっぱり、私にはアプリ向いてないのかも。

半ば投げやりな気持ちでメッセージをスワイプしていた、そのとき。萌の指が止まった。

「あ、この人…」

萌はその瞬間、息を止めてある人物のプロフィールに見入っていたのだった。


▶前回:「大概はハッピーエンドにならないとわかってる」それでも女が、付き合ってもない男の部屋に行ったワケ

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マッチングアプリを始めた萌に、どんな出会いが待っているのだろうか…?

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