この世のすべてを「あるあるネタ」に。狂気の芸人・ちくわを直撃

◆辛辣すぎる「あるあるネタ」

 2021年2月、動画配信アプリ「TikTok」に彗星のように登場し、今最も熱い注目を浴びている動画配信者がいる。その名も、「ちくわ」。

 元女優の堀北真希似の”美貌”とは裏腹に繰り出す、リアルかつ辛辣すぎる「あるあるネタ」が話題となり、早くもYouTubeを合わせフォロワー数は10万人を超えた。

 ネタの対象は一般の老若男女から著名人、政治家、AV女優、フェミニスト、ヴィーガン、地下アイドル、虫、動物など森羅万象に及び、ちくわはそれらの持つ「残念さ」をテキストとモノマネによってまんべんなく、容赦なくあぶり出すのである。

 動画のコメント欄では、「この世のすべてを敵に回した女」「心の片隅で思っていたことをネタにしてくれる」「的確すぎる」と“ちくわ中毒者”が続出。

 そんな、ちくわ本人を直撃した。

◆配信当初は「あるある」以外のネタ

――ちくわさんが動画配信を始められたきっかけは何だったのでしょうか?

 ちくわ:昨年まで芸人としてコンビを組んでいたのですが解散して、4月から新たなコンビで芸能事務所に所属することが決まっていました。でも、コロナでなかなか外出もライブもできず、それまでまだ時間がある。そこで、どうせ暇だからTikTokでもやってみようか……という程度のノリで始めたのがきっかけです。

 

 動画は相方と一緒に作っていますが、漫才が自分たちの本来のスタイルなので、たまたまウケたという感覚です。

――動画の出てくるテキストで笑わせ、モノマネで再度笑わせるという二段階の構成は、ちくわさんしかできない独特なものになっていますね。このスタイルはどのようにして確立されたのでしょうか?

 ちくわ:TikTokを始めて最初の一週間は、「あるある」以外のネタをやっていました。小説を食べる、顔にガムテープを貼るなどの内容で4つほど上げていたのですが、途中から「あるあるネタ」をしたらたまたまバズったんです。

 それをきっかけに、このスタイルでやっていこうと決めました。

 ただ、一人で考えるとどうしても偏ってしまうので、相方や周囲の意見を取り入れたうえで、「ちくわフィルター」をかけるようにします。

――TikTokとYouTubeの2つのチャンネルで活動されていますが、ネタや視聴者層の違いはあるのでしょうか?

ちくわ:YouTubeとTikTokでは受けるネタがまったく違うので、サイトごとに分けて作っています。YouTubeではTikTokで消された動画も載せているのですが、初期にやった紙を食べるやつが今だに伸びているんです。

 YouTubeで反響が出やすいのは「ユーチューバーあるあるネタ」ですね。ひろゆきさんを扱っても伸びます。一方、TikTokでは文字だけで完結するような短いネタや、モラル的にギリギリのネタがウケる傾向がありますね。

――TikTokでは垢BANを何度もされたようですね。

 ちくわ:はい。ガムテープを顔に貼る動画(「【閲覧注意】TikTokで削除された動画」)は、危険行為ということが理由でした。他の動画は、「マリファナ」や「頭のおかしい人」という文字が引っかかったようです。

◆時事ネタが得意なわけではない

――配信時はつねに同じTシャツとジャージ姿ですが、何かこだわりがあるのでしょうか?

 ちくわ:ラッパーの「鎮座DOPENESS」さんをリスペクトしているので、そのスタイルを一応、踏襲しています。あとは、単純に楽なので。少しでもストレスを感じると続けられないので、寝食と同等くらいのノリで採用できるものが大事かなと思っています。

――人物あるあるだけではなく、旬の事象を絨毯爆撃のように網羅しているのを見ると、よほど時事問題に関心があるのだと見受けられます。動画を作る上で、普段からチェックしていることはありますか?

 ちくわ:最初は思いつきから始めたのですが、もっと見てもらうにはどうすれば良いかを考えたら、時事ネタに絡めたほうが伸びることに気がつきました。なので、私も相方も特に時事問題が得意なわけではなく、社会に対する主張も一切ないんです。ないからこそ、縦横無尽にネタにできているのだろうと思います。

 ただ、アベマプライムはよく見ています。地上波ではできないような、「香ばしい」言い争いが頻繁に起きるので、そういう時にこそ人の面白みが見える。流行り物についても、必ずチェックしますね。

◆動画へのクレームに対しては?

――それらを動画に落とし込むにあたって、基準にしていることはありますか?

 ちくわ:いつも相方と一緒に話し合って、何百個と出た「あるある」の中から絞っていくのですが、「文字にしたら面白いものは何か?」を基準にしています。たとえば「世界では戦争があるのに幸せな家族」は、字面の面白さを意識して作ったものです。

 また、自分たちが心の底から面白いと感じているネタを選ぶようにしています。演じる上で少しでも恥ずかしさや照れを感じることない素材であることも、一応の指標です。

 逆に、ボツにするのは文字だけでは説明しづらいものですね。ネタ自体は尽きることはないので、とにかく「どうやったら見てもらえるか」に重点を置いてます。

――目の付け所が鋭すぎるので、笑いながらも見ていてヒヤヒヤすることがあります。ネタにした本人からクレームが来るのではないかとも心配です。

 ちくわ:動物愛護団体を名乗る人からは、クレームがありましたね。ベジタリアンからも「誤解を受けるからやめてくれ」と言われました。ただ、自分はあくまで「そこにありがちな人」を演じているので、そのジャンル全体をバカにするつもりはないんですよ。コメント欄で肯定派と否定派が喧嘩しているのも見かけます。みんなが好きな食べ物はないように、私の動画を嫌う人がいてもそれは仕方ないと思います。なので、特に気になることはないです。

 

「アクセルとブレーキを踏み間違えるじじい」などについては、作った時点では特定の誰かを想定していなかったのですが、視聴者に言われて気づきました。たまたま現実とタイミングがハマってしまうこともあるみたいです(笑)。

◆子供時代は絵に描いたような陰キャ

――「小学生あるあるネタ」もすごくリアルですよね。

 ちくわ:年の離れた妹と弟がいて、それぞれ自分と8歳と15歳差があるんです。二人とそのお友達を見ていると「これ、私もやってたな」という言動が見られるので参考にさせて頂いています。

――そういった人間観察は、昔から得意だったのでしょうか?

 ちくわ:私自身は学校が苦手で、休み時間も机に突っ伏している、絵に描いたような陰キャでした。でも耳だけは働かせていて、周囲の様子を気にはしていましたね。

 ただ、芸能界への憧れはあって、幼稚園の時は女優になりたいと思っていました。でもその後はずっと美容部員を目指していて、お笑い番組すらも見たことがなかったんです。芸人を目指すようになったのは本当につい最近のことなんです。

――芸人になる前は何をされていたのでしょうか?

 ちくわ:デパートで美容部員をしていました。社員だったのですが、芸人を目指すようになってからはアルバイトに切り替えて、お笑いの養成所に1年間通いました。

◆とにかく働きたくない(笑)

――それは意外ですね。美容部員時代の経験も、動画のネタに役立っていますか?

ちくわ:お客さんと会話することが多かったし、そのときに見た女性の「あるある」もすごく参考になっていますね。開口一番、「私に似合う色を教えてください」と言ってきたり、他のメーカーの商品を出してきて、「これに会うものは何?」など、無茶振りも多かった(笑)。女性への目線はその経験で培われたものも多いです。実は、売り上げが全国一位になったこともあるんですよ。

――素晴らしいですね。ちなみに、どのようにして売り上げ一位になれたのでしょうか?

 ちくわ:商品知識などももちろん必要なのですが、成分の説明より「この商品を使ったらどう変わるか」に重きをおいていました。具体的には、喩える方法ですね。たとえば「水でパックをするような使用感のファンデーションです」というと、お客様の納得感が強くなる。いずれは、美容系を応用したネタにも挑戦してみたいと思います。

――今は動画を中心に活動されていますが、今後の目標はありますか?

 ちくわ:いずれは芸人として漫才をやっていきたいのですが、このご時世なのではっきりとした展望を持てていないのが正直なところです。ただ、ユーチューブでギリギリ暮らしていけるだけの収益があるので、現状維持をするのが当面の目標。とにかく働きたくないので(笑)。あとは、なるべく垢BANを食らわないようにしていきたいですね。

【ちくわ】

芸人。20121年2月からTikTokで「ちくわ」として動画を配信。3月にYouTubeチャンネル「ちくわ【あるある】」と「ちくわ【ないない】」を開設。鋭すぎる「あるある」ネタがじわじわと話題を呼んでいる。

<取材・文/日刊SPA!編集部>

2021/5/31 15:52

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