63歳ひとり暮らし・月収12万円でも、楽しく生きる女性の日々のコツ

 コロナ禍で日常生活が脅かされる中、これからの生き方を模索した人もいるのではないでしょうか。経済状況や人間関係、漠然とした不安しかない人も、誰かお手本のような先輩がいたら励みになりますよね。

『58歳から日々を大切に小さく暮らす』(すばる舎)の著者、ショコラさんは63歳。60歳だった2016年にブログ「60代一人暮らし大切にしたいこと」を開始。ブログに綴られた「老前整理」としての物の整理やお金の使い方、仕事や人付き合いまで、今からでも参考にしたいことがいっぱい。

 何よりもショコラさんご自身が肩ひじ張らずに毎日を楽しんでいる様子が伝わってきて、ページをめくるたびに和むのです。しあわせは物の数、お金の多さではなく、心の持ちようだということをおしえてくれます。

◆特別感なし、等身大の日常

 ショコラさんは42歳の時に別居、一人暮らしをしながら、当時未成年だった息子さん達の食事を作りに家へ通う生活を5年続けました。離婚を機に正社員の営業職として働き、57歳で退職。以降はパート勤務に切り替えました。

 私達と何ら変わらない、ご近所や同僚、先輩にいそうな慎ましい女性です。しかし酸いも甘いも経験したような、ショコラさんの文章や写真からは、迷いながらたどり着いた等身大の幸せが感じられます。

 ひとりで暮らすと覚悟を決めて「貯金のないところからマンションを購入」、自分の体力を考慮して「自分で動かせない重くて大きい家具は処分」、コンパクトな1LDKの部屋を「住みやすく整える」。2年以上かけて進めた物の整理の秘訣を、そっとのぞいてみましょう。

◆質の良い服やバッグはヤフオクで購入

 持ち物を処分するには勇気がいるもの。特に洋服やバッグや靴の選別には苦労しますよね。年齢とともに似合うファッションにも変化がおとずれ、プチプラばっかり身に着けていると老けてみえたり、浮いてしまったり。

 ショコラさんはパート収入の12万円という予算から、質の良い服やバッグ、家具などをヤフオクで購入しているそう。私もヤフオクで購入した経験がありますが、未使用でも驚くほど安く入手できる場合があります。

 心配なのはサイズですが、ショコラさんいわく「パンツ類はサイズの表記だけではわからないので、必ず試着して買います」とのこと。ヤフオクやメルカリなどは売買しているうちにコツがつかめてくるもの。新品を購入した気分で、差額を貯金、なんてルールを決めてもいいですよね。

◆「あると便利」は「なくても大丈夫」

 節約を意識すると利用頻度が高まるのが100均。キッチン用品やお掃除用品を眺めていると、どれもこれも「便利そう」とつい手に取ってしまいます。でも待って、それって本当に必要? あったら便利と衝動買いしたものの1~2回使って棚の中、なんて苦い思い出があるのは私だけではないですよね。

「これあると便利かも」は「なくても大丈夫」がほとんどだと、ショコラさんは言います。買物はいつか必要になるものを基準に買うのではなく、今必要なものを買うようにしたいです。

◆食費とその他で6万円

 ショコラさんの手取りは12万円。マンションのローンは完済しましたが、管理費や修繕積立金、固定資産税は毎月かかります。他、水道光熱費等の諸経費を除くと、残りは6万円。

 6万円で食費とお小遣いをまかなうのは、けっこうしんどいイメージ。ところが「家計簿はやめ、予算制でざっくり管理」と意外なこたえ。私も以前は家計簿をつけていましたが、使ったお金が見えすぎて、かえってストレスになりました。

食費2万円、その他4万円を月初に別の財布に入れます」というように、用途にそって分ければ過度にストレスを溜めずにすみます。「調味料は100均で小さいサイズを買う」「昼はお弁当持参」等、小さな工夫を積み重ねれば、1人分の食事も豊かになって、無駄にもなりません。

◆無視できないお金のやりくり

 生活の中には思いがけない出費があるのも事実。病気、怪我、冠婚葬祭。そのために月額約5万円の企業年金基金を別にストックしているのだとか。年金世代ではない人は、月に数千円~数万円、将来のために貯めておくのもいいかもしれませんね。今は健康で体力があっても、ゆくゆくは衰えていくのが現実。歯や目には否応なくお金がかかるのを、私も実感しています。

 人生100年時代。先を考えて不安に苛まれるのではなく、未来に向けた一日を大切に過ごす。ショコラさんの日常は、まるで小さな色とりどりの花でできた花束。節約をしながらもケチにはならず、心の基準で豊かさを見つけています。インターネットを使いこなし、交友関係を広げ、息子さん達との関係も良好。これからの生き方の見本として、そばに置いておきたい1冊です。

―小説家・森美樹のブックレビュー―

<文/森美樹>

【森美樹】

1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx

2021/5/22 15:46

こちらも注目

新着記事

人気画像ランキング

※記事の無断転載を禁じます