発達障害の特性を“個性”に変えるテクニックとは。実践者が語る

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◆イーロン・マスク、米津玄師。発達障害を公表する著名人たち

 今年5月に、スペースXのイーロン・マスクが、「自身がアスペルガー症候群である」と公表して、新たに注目されているASD(自閉症スペクトラム障害)。また、アーティストの米津玄師も、以前、自身が高機能自閉症だと発表し、話題を呼びました。

 こうした著名人の発表により、少しずつ、社会的な認知度が上がってきつつあるのが、発達障害の一種であり、「自閉症」「高機能自閉症」「アスペルガー症候群」と呼ばれるASDです。「人間関係の構築が苦手」「こだわりが強い」などの特性を持つASDですが、いまだ有効な治療薬はないとされています。

 そんな中「治療薬がないからこそ、自分でなんらかの攻略法を考える必要がある」と語るのは、4月に『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』を上梓した銀河さんです。数年前に自身もASDだと診断された銀河さんは、以来、自分の発達障害の特性を「個性」ととらえ、強みに変える攻略法を多数研究してきたのだとか。そんな銀河さんに、自身が実践するテクニックを伺いました。

◆職場のいじめでうつ病を発症し、病院へ

 製薬メーカーでMRとして働いていた25歳のとき、職場のいじめを受けて、自殺願望を持つようになったという銀河さん。「このままでは自殺してしまう」とうつ病を疑い、病院に行ったのだとか。

「最初はうつ病だと思って病院に行ったのに、『あなたはうつ病のほかに、ほかの病気もありそうですね。ちょっと診断してみましょう』と言われて。そこで、発達障害の検査を受け、自分がASDであることを知りました。最初は、『こんな障害を持ちながら、自分はこれからどうやって生きていけばいいんだろう』『どうやったら発達障害でない人と同じようになれるんだろう』と悩みましたね……」

 ただ、いくら悩んでも、「定型発達」と呼ばれる人々と同じようには行動できない。次第に「発達障害=ハンディキャップ」と考えるのではなく、「発達障害=個性」と考えるように心がけるようになったのだとか。

「発達障害を一概に悪いものだと考えて、普通の人と同じようになるのをめざすのは、マイナスをゼロにするようなもの。また、自分が苦手なことをいかに無理してカバーしても、結局は発達障害でない定型発達の人と同じスタートラインに立つことしかできません。ならば、発達障害が持つ『こだわりの強さ』や『決めたパターンを踏襲しつづける』という個性を、ネガティブにとらえず、プラスに活かす方がいいじゃないかと考えるようになったんです」

◆「空気を読む」は一つのスキルに過ぎない

 自身の発達障害をプラスの形に活かすべく、銀河さんが現状を改善する手段のひとつとして取ったのが「パターン化」でした。

「発達障害の人は、一度覚えたパターンをやり込むのは得意な傾向があります。だから、トラブルが起こりがちなケースの対応策をパターンとして認識して、それを自動で繰り返せば、『仕事ができる人』という評価をもらうことも可能です。たとえば、発達障害の人は『空気を読む』のが苦手です。どんなに頑張って、発達障害でない人のように『空気を読もう』と思っても、なかなかうまくいきません。でも、パターン化を徹底すれば、状況を改善できます」

 MRとして病院の医師たちを相手に営業を実践していたという会社員時代の銀河さんは、社内の空気が読めないことが原因で、上司や先輩にいつも責められていたのだとか。そこで、考えるようになったのが「なぜ空気が読めないことで怒られるのか」についてでした。

「営業に限らず、ビジネスをする上でコミュニケーションは必要なので、相手の気持ちを読み取る必要はあります。ただ、『空気を読む』のは、相手の気持ちをくみ取るスキルのひとつの手段でしかありません。それ以外にも相手の意図を読む方法はあるので、本来は『空気を読む』ことだけが正解ではないのです。

 もちろん、空気を読めたほうが楽だし、正直、『私にもそのスキルがあれば……』とうらやんだことは何度もあります。でも、自分は空気が読めない以上は、別の方法で攻略するしかありません。逆に考えれば、『空気を読む』以外にコミュニケーションを円滑にする手段を探して、パターンとして習得してしまえば、直面している問題はだいぶ解決されるのではないかと気が付きました」

◆表情、足の向き、ボディランゲージで機嫌を察する

 そこで「空気を読む」ことをあきらめた銀河さんは、クライアントである病院の医師たちの感情を見極めるのに、「表情、足の向き、ボディランゲージ」という3ポイントを重視して、パターン化していくことを決めたのだとか。

「まずは、『表情』です。笑顔が続いているときは、機嫌が良いので、多少長話をしたり、契約に持ち込んでも大丈夫。反対に、話をしているときに、笑顔がなかったり、口角が下がったりしているときは、機嫌が悪いときなので、新製品の案内だけにとどめて、早めにその場から退散するようにしていました。

 また、『足の向き』について。心理学的に人間は自分の行きたい方向に足を向ける傾向があると言われています。『早く話を切り上げたい』と思っている人は、足が出口のほうに向いていることが多いと言われるので、先生のつま先が出口のほうに向いているときは、早めに商談を切り上げていました。あと、『ボディランゲージ』に関しては、人は自分が興味のある話のときは、身を乗り出す一方、興味がないときは、背もたれにもたれかかったり、体を引き気味にしたりしていることが多いと言われています。そのほかにも、『鼻歌を歌っていれば機嫌が良い』『いつもより動作が粗いときは機嫌が悪い』など、その人個人に当てはまる無数のパターンを記憶することで、クライアントの機嫌を察知するようにしていました」

◆雑談は、相手が好むテーマ選びが肝心

 表情やボディランゲージから、相手の感情を見ることに成功した銀河さんですが、一番困ったのが「雑談」だったとか。いまだに得意ではないものの、次第に雑談はテーマを選ぶことが肝心だと気が付いたのだとか。

「クライアントとの雑談の際は、テーマを選び間違えなければうまくいきます。ついつい自分の好みの話題を振ってしまいがちですが、それは無視して、相手の好きな話題をふれば、たいていの人は喜んでくれる。そして、そのテーマに関する質問を投げかけるようにパターン化していました」

 そして、話題選びは、日頃から相手との会話内容をメモし、相手の会話の中に頻出するテーマを選ぶようにしていたそうです。

「なぜ私が先生との会話をメモするという大変手間のかかることをしていたかというと、私が問題社員だったために、上司から社内で唯一、『訪問先の先生とした会話を日報に書いておけ』と厳命を受けていたからです。この日報を書くのは非常に手間がかかりましたが、今にして思えば、それぞれの先生の好みがわかったのは、この日報のおかげでした。そのおかげで『この先生は釣りに興味があるんだな』『この先生はお子さんがいて、来年は受験なんだな』などと話題をピックアップすることができました」

◆パターンを自動化し、営業成績2位を獲得

 もっとも、会った人のすべてとの会話を全部を書き起こすのは大変なので、メモ帳や先生の名刺に「この先生は猫好き」「ゴルフ好き」「娘さんが3人いる」などと、簡単なテーマをメモするだけでも、十分雑談のネタをピックアップになると銀河さんは続けます。

「どれも一見するとごくごくシンプルな手法ばかりですが、意外とこの単純な方法が功を奏して、先生たちからクレームを受けたり、怒られたりすることは減っていきました。次第に周囲の同僚たちよりも営業成績が伸び、最終的には社内で2位の営業成績を勝ち取る……という奇跡的な出来事も起こりました。

 一度、シチュエーションごとの対応策をパターン化できれば、その場で臨機応変に状況を判断しなくても、ある程度は、〝自動化〞できます。その結果、『このパターンはどうしたらいいんだろう?』と焦ることもなければ、変な行動を取って大きなミスをおかすリスクを大幅に減らすことができます」

 発達障害ならではの個性を強みに変えれば、日常生活や仕事などに活かすことが可能なのだ。

【銀河】
上智大学卒。ASD(自閉症スペクトラム障害)とADHD(注意欠陥多動性障害)の当事者。ASD優位で空気を読むことが大の苦手。新卒で営業としてキャリアをスタートするも、約1年でうつ病を発症。復職し、発達障害の強みを活かして営業成績2位をおさめる。入社満3年で退社し、会社の同期が設立したCare Earth(株)に誘われて入社。現在ではキャリアアドバイザーとして、転職サポートを行っている。また、キャリアや生活で悩む発達障害の人へのアドバイスなどを中心に、コーチングも行っている。初の著書は『「こだわりさん」が強みを活かして働けるようになる本』。Twitter:@galaxy_career

<取材・文/日刊SPA!取材班>


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