ダイソーで110円のミニギター、これってギターというよりウクレレじゃん
100円ショップの「ダイソー」では「こんなものまで売られているのか!」と驚かされることが多い。なんとギターも110円(税込)で売られているのだ。玩具のミニギターなのだが、ちゃんと弦が張られていて実際に弾けるようになっているらしい。今回はこれを買ってなにか演奏してみることにした。
◆110円でギターが買える
ペグ(弦を巻く部品)を回して弦をピンと張らせた。そしてサウンドホールの上あたりの弦を指で弾くと、パランポロンとその値段相応のチープな音が鳴る。
僕がギターで弾くことができるのはディープ・パープルというロックバンドの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」のリフ(※ギターフレーズ)だけである。高校生のときになけなしのお小遣いでエレキギターを買って練習し、弾けるようになったのがそれだけだったのだ。
◆ギターというよりウクレレ
久しぶりにそれを弾いてみたいところだったのだが、このミニギターは弦が4本しかない。これではあのリフは弾けない。もしかしたら弾けるのかもしれないが、4弦の場合のコードがわからない。そもそも、弦が4本しかない楽器をギターと呼んでいいのだろうか。これはそのサイズからしてもギターというよりウクレレなのではないか。
というわけで、これはウクレレとして弾こうと思ったのだが、その弾き方はギターよりもさらにわからない。そこでYouTubeで学ぶことにした。「ウクレレ 弾き方」で検索すると、ウクレレレッスンの動画がズラリと出てくる。なにか学びたいことがあったら、すべてYouTubeが教えてくれる。便利な世の中になったものである。
◆ウクレレの簡単なコードを学ぶ
視聴したのは「ウクレレレッスンTV」というチャンネルのウクレレ初心者向けの動画だ。その講師によると、4つの簡単なコードを覚えるだけですぐに「スタンド・バイ・ミー」が弾けるようになるという。僕の大好きな曲である。
まずはCコード。1弦3フラット目を薬指で押さえ、動画の中の講師といっしょにポロンと弦を弾く。しかし、同じ「ポロン」でも講師の奏でる音と僕のとではまったく違う。講師の音にはハワイの温かな風を感じるのだが、僕のにはそれがまったくない。風が吹かないのだ。110円の玩具なので仕方ないのかもしれないが……。
続けてAm、Fのコードを学んでいく。難関は最後のG7コードだった。指で押さえるところが3ヶ所も密集している。しかも、そのときになって気付いたのだが、僕のミニギターはウクレレよりさらに一回りも小さい。そのため、弦を押さえる3本の指は満員電車に押し込まれたサラリーマンのようにぎゅうぎゅうになる。押さえるべきところだけを押さえるのがとてつもなく難しい。
それでも何度も練習を繰り返し、この4つのコードを続けて弾くと、なんとなく微かに「スタンド・バイ・ミー」に聞こえなくもない感じにはなった。
◆ひとりぼっちで泣いた夜
演奏しながら思い出すのは昔、ひとりぼっちで泣いた夜のこと。アパートの隣室からは深夜のラジオ番組の音がくぐもって聞こえてくる。しばらくしてそれはウッドベースの奏でる低音に変わる。「スタンド・バイ・ミー」のイントロである。
スタンド・バイ・ミー……。
僕の心が揺さぶられる。なにか大きな存在が僕に寄り添っていっしょに泣いてくれているかのようだった。そして不思議な温かさに包まれ、また涙が溢れ出すのである。
パラン、ポロン……。
僕はミニギターのそのチープな音色を、あの日、隣室のラジオから聞こえてきた「スタンド・バイ・ミー」の音色に重ね合わせていた。<取材・文/小林ていじ>
―[借り暮らし40代日雇い男の「100円ショップ」生活]―
【小林ていじ】
バイオレンスものや歴史ものの小説を書いてます。詳しくはTwitterのアカウント@kobayashiteijiで。趣味でYouTuberもやってます。YouTubeで「ていじの世界散歩」を検索。