夫はアルコール依存症、2人目を産んだ33歳女性の“決断”とは

 女性の“人生のコース”が多様になっている現代。同級生でも、独身バリキャリ、主婦、シングルマザーなど様々だったりしますよね。

 例えば30-34歳女性だと、未婚が約34%、夫がいるのは約62%、離婚・死別も約4%います(※1)。また30-34歳女性の月給は、大企業正社員だと約28.2万円なのに、小企業非正規だと約17.7万円(※2)と大違いです。

 同年代の女性は、どう生きているのか? 幸せだろうか?……というわけで、『発達障害グレーゾーン』などの著書があるフリーライターの姫野桂さん(33歳)が、同い年の女性をじっくり取材しました。

※1 平成27年国勢調査

※2 平成30年賃金構造基本統計調査。月給とは、賃金=毎月の所定内給与(税込、残業手当などは除く)

◆同じ33歳の女性たちは、幸せだろうか?

 今年で33歳のゾロ目の年齢になる。学生時代に思い描いていた30代はもっと大人で余裕があって、もしかしたら結婚もしているかなと思っていた。それがどっこい、現在の私はフリーライターという非常に不安定な職に就き、独身。彼氏はもう6年もいない

 周りの同い年の女性たちは20代後半あたりから結婚ラッシュが続き、育児に追われている様子がSNSからうかがえる。私だけ取り残されている気がする。みんなどうして普通に働けて普通に恋愛なり婚活なりして結婚にたどり着き、幸せを手にしているのだろう。

 私は毎日仕事に追われつつも朝は好きな時間に起きて飼い猫を愛で、このご時世なので飲みにも行けずオンラインで同じく独身の友達とおしゃべりをしている。そこで必ず「みんな結婚していてすごい」「ちゃんとしていてすごい」という独身女の傷の舐め合いになる。

 他のゾロ目女性たちは、どのように人生の設計図を手にしていったのだろうか。そこで今回、他の33歳の女性はどんな生き方をしているのか、話を聞いた。

◆男遊びが激しかったのに、突然結婚した由紀さん(仮名・33歳)の場合

 少し遅れて待ち合わせ場所にやってきた彼女の手を見て驚いた。あかぎれだらけでかさつき、真っ赤になっている。傍らにはもうすぐ1歳になる息子をベビーカーに乗せている。彼女の名は由紀さん。数年前、とあるイベントで意気投合した私たちは定期的に遊ぶ仲になっていた。

 見た目はごく普通の小柄でおとなしそうな女性だが、彼女の男性関係は派手で、無職でお金がなかった時代はパパ活をして稼いだり、不倫をしたり、ナンパされた際もノリで連絡先を交換したりしていた。そんなふうに自由に恋愛や男遊びを楽しむ彼女に正直引いた気持ち半分、羨望半分を覚えたことがある。

 開口一番に「その手、どうしたの?」と聞くと「これね、二人目を産んだら体質が変わっちゃって手が荒れるようになっちゃったの。オムツを変えるたびに手を洗うし、今はコロナ対策で一日に何度も消毒をするから余計ひどくなっちゃって」。そして由紀さんはベビーカーの中の赤子に向かって少しふざけた裏声で「あなたのせいだよ~」と話しかけた。

 由紀さんは突然結婚した。「出産したよ~。だから結婚もしたよ~」とLINEが来たのは3年ほど前のことだ。いきなり過ぎてびっくりした。いわゆる授かり婚だった。

 あんなに遊んでいた由紀さんが出産、結婚とは正直驚いたし、羨ましい気持ちもあった。なぜ遊ばず真面目に生活している私が結婚できず、遊んでいた彼女が結婚できるのか。いや、遊んでいたからこそ恋愛慣れして結婚できるのか。

◆「30歳までに結婚したい」。趣味=婚活だった頃

 今、彼女は幸せな結婚生活を送っているのだろうか。

 実はこの取材を決行する数週間前、プライベートで由紀さんに会う約束をしていた。ところが前日突然ドタキャンに。理由はアルコール依存症の夫が酒に手を出してしまったからとのことだった。以前から少しモラハラ気質気味の夫だとは聞いていたが、一体どうなっているのだろう。そんな疑問も含めて彼女の話に耳を傾けた。

「自分の中で、なんとなく30歳までには結婚したいって気持ちはあったんだよね。でも、絶対結婚しなきゃ!とかいうのではなく、自分の人生において結婚や出産をしないと後悔するかもしれないと思って。でも、今の夫が結婚向きかわからなかったからマッチングサイトに登録したり婚活パーティにも行ったりして、『趣味=婚活』になっていた時期もあったよ」

 趣味が婚活……。私は婚活がしんどすぎて全く続かなかった女だ。なぜ見ず知らずの人と無理やり話を合わせないといけないんだろうとか、私の仕事が特殊なので説明がめんどうだったり(本を出していると知られると「すごい人」みたいに見られるのが嫌だったり)知らない人に時間を割かれるのが嫌だった。婚活に時間を取られるくらいなら、好きな友人たちと過ごしていたいとすら思って、すぐに逃げるように婚活を辞めてしまった。私にとって婚活はつらさしかもたらさなかった。

◆2歳の娘に「ブサイク」と言う夫

 結局、由紀さんは妊娠し、結婚の道を選んだ。由紀さんは以前、「夫のモラハラやアルコール依存症は治ると思ったから結婚した」と言っていた。しかし現実問題、それは治っていない。

「なんかね、飲酒しながら暴言なのか冗談なのか微妙なニュアンスのことを言うんだよね。最近はお酒に弱くなっていて飲んだらすぐに寝ちゃう。そして、酔った状態で子どもを抱っこして絡んだりして危ないからヒヤヒヤして……こないだなんか2歳の長女に『ブサイク』って暴言を吐いてさすがにこれはダメだと思って怒って、一時的にベビーシッターに長女を預けて二人を引き離したことはあった。

 彼自身、複雑な家庭環境で育っているから『俺をもっと認めてくれ』という欲求が強くてそれでお酒に走っているんだと思う。振り返ってみると怒涛の3年間だったと思う」

◆アルコール依存症の夫と暮らすことは「ミッション」

 育児にも悪影響を及ぼしているのに、なぜ彼女はアルコール依存症の夫のことを許せるのだろうか。由紀さんは私の疑問にこう答えた。

「まず、結婚っていうものに理想がなくて、うまくいかなくなったら離婚すればいいし、夫のアルコール依存症は夫の責任だし、そんな人を伴侶に持ったとしか考えていないからかな。結婚という契約をそんなに重く捉えていないというか。

 あと、自分の人生を実験、ネタの一つと考えているところがあって、結婚もその一つだね。でも、そのネタは自分の中でおもしろいと捉えることはいいけど子どもの親としての重い責任はある。でも基本的には問題のない家庭は存在しないから、この難局をどう乗り越えるか、ミッションと考えている。

 だけどこの状況が続いたら子どもにとって良くないから、家族は解散という話になるけど、そうはならないんじゃないかなとは思っている。仮にそうなったとしても絶望するわけではなく、『ああ、そうなっちゃったか』という感じかな。うちの夫、少し神経質なところがあって赤子の泣き声で育児ノイローゼみたいになった時期があったの。それで、会社帰りに歩きながら隠れて酒を飲んでくることもあったよ。

 アルコール依存症は夫の責任だけじゃなくて育った家庭も関係しているからね。アルコール依存症の世代連鎖をさせないために、機能不全家族にしてはいけないという思いもあるよ」

 ミッションとは、なかなか楽観的とも取れる考えである。話を聴いている最中、ふと由紀さんが私のネイルを指差し「ネイル可愛いね」と言った。赤くただれた由紀さんの指と色鮮やかなアートが施された私の指先の対比に、少しの悲しさとなぜだかなんだか申し訳ない気持ちになった。

 私は独身で彼氏もいない孤独な生活を送っていると思っていたが、ネイルサロンに通ったり髪の毛を派手な色に染めたりと自由にやっている。由紀さんは、オシャレをできる母親もいると思うけど、自分は夫の世話もあるから自分の身なりまで気を遣うのは無理だと語る。

◆幸せかどうかは、自分で選んでいるかどうか

 アルコール依存症の夫の世話と二人の子どもの世話に追われる由紀さんは幸せといえるのだろうか。私が由紀さんの立場だったら私の性格上、発狂しているに違いない。

「アルコール依存症の夫を選んだのも出産を決めたのも自分。自分で選んでいるから私は幸せだと思っているよ

 授かり婚と言っても選択肢はあったわけ。誰にも言わずに堕ろして全部ないことにすることもできた。でも二人目を生むことも自分で選んだ。こういう家庭を選んだことを傍から見たら危なっかしいと言う人もいると思う。

 例えば20代の半ばだったら、選んでいたとしても自分で選んでいる感が薄くて想定外だと思うことが多かったと思う。もちろん今でも想定外のことは起こるんだけど、そのときどこに助けを求めればいいのか、どういう選択肢があるのか、これぐらいの年齢になると調べる術も持っている。

 こういう取材を受けることにしても、何かしら世の中に還元する、この経験が何かしら誰かに活きていくかもしれないと思う。それほど人生に翻弄させられていると感じることはないかな」

◆慎重になっていては、結婚や出産はできない

 確かに20代の結婚と30代で世の中のことがだんだんと見えてきたときの結婚や出産は経験値が違う。私の母は34歳で私を産んだ。初産であり、当時としては遅い出産だった。しかし今となっては「体力は20代のほうがあるけど、精神的な余裕は30代になってからのほうがあったから育児ができた」と、以前私に語ったことがあった。由紀さんも同じような状況下にいるのかもしれない。

 また、由紀さんは結婚や出産は勢いだという。冷静に考えるとキャリアのことや、夫が浮気や借金をするかもしれない、義実家との関係などを考えると慎重になっていてはなかなか結婚できない。「そのような意味では良いタイミングで結婚も出産もした」と、由紀さんは言う。

 隣の芝生は青く見えると言うが、私はパートナーを得て新たな家族を持った由紀さんを羨ましく思っていた。しかし、話を聞くと一筋縄ではいかない上で、自分で選んで獲得している幸せであることがうかがい知れた。果たして私は自分で選んで生きているのだろうか。無意識のうちに選んでいることはたくさんあると思うが、それを意識的に選んだとき、私も幸せだと実感できるのかもしれない。

<取材・文/姫野桂>

【姫野桂】

フリーライター。1987年生まれ。著書に『発達障害グレーゾーン』、『私たちは生きづらさを抱えている』、『「生きづらさ」解消ライフハック』がある。Twitter:@himeno_kei

2020/8/7 15:47

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