<純烈物語>ラウンドなしのなかで、小田井涼平は「本来の歌手の姿」を取り戻す<第96回>

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―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

◆<第96回>“よけいなこと”ができないなかで小田井が課した「本来のあるべき姿」

 新曲の『君がそばにいるから』に続いて最後に『ひとりじゃないから』を歌い終えたところで、純烈の東京お台場 大江戸温泉物語再開ライブ昼の部は終了となった。少し間を置き、そのまま取材陣との質疑応答に。

 つまり、中村座が公開記者会見の場と化した。ファンとしてはマスコミとのやりとりを生で見られるのだから、得した気になれただろう。

「幕が開いた瞬間に泣いてしまうかと思ったんですけど、ファンの顔を見て泣くよりもここは笑顔だなと思って。安心できる空間でした」(白川裕二郎)

「健康センターでのライブはお客さんの席にいってコミュニケーションをとるのが普通だったのが、それができないとわかった上でのライブ。どうなるかと不安はありましたけど、進むごとにマスク越しでも喜んでくださっているのがわかったので、ホッとしました」(後上翔太)

「コロナの間もこちらでは収録とかで使わせていただいてきたんですけど、お客さんを入れて大江戸温泉でライブができたのが、ものすごく感慨深いです。先ほど楽屋にいましたら支配人さんが挨拶にいらっしゃって、その時に聞いたのは僕らをきっかけにほかのアーティストさんのライブも再開すると。それが嬉しかったですよね」(小田井涼平)

 1年2ヵ月ぶりの大江戸温泉ライブに関する感想をそれぞれが述べ、もっとも振られる酒井一圭が合間合間に笑いを取る。いつも通りの純烈会見……いや、やはり小田井がそんなリーダーの言葉を膨らまさずにいた。

 実はこの日の開演前、有観客ライブ再開となりながら依然としてラウンドをやれずにいるのはどうなのかと聞いた。コロナになる前、客席を回る小田井が差し出されたタオルやハンカチをポーンと放り投げて喜ばせるのが名物となっていた。

◆ラウンドができないのが「本来の歌手のあるべき姿」

 持ち前のサービス精神、楽しんでもらおうという姿勢がにじみ出るタイプの小田井。ステージ上の振付にとどまらず、配信番組『純烈ものがたり』でもスキあらば小芝居をはさんでいた。この日のステージパフォーマンスが正攻法に見えたのは、ノーラウンドだけが理由ではない。

「もともとラウンド得意じゃないですから。楽しいのはもちろんなんですけど、遊びすぎてしまうんで、歌が疎かになる。そういう意味で本来のあるべき姿、コンサートとはこういうものなんですよということをやっていると思えば、歌手としての修行の一環ととらえられるやないですか。

 お客さんのところにいって握手するのって休憩できるんですよ、踊らなくていいから。それができないとなると、最初から最後まで踊りを全部やらなきゃいけない。そこは、ちゃんとアーティストやりなさいと言われているのかなと、僕は思うんですね」

「遊びすぎてしまう」という自覚があるからこそ楽しい方、休める方に依存するのはよくないとわかっている。オーディエンスに楽しんでほしい思いと、アーティストとしてしっかりやるべきことは小田井の中で時として表裏一体になる。

 ラウンドができないこのタイミングでは、後者に比重を置くべきと自分で判断した。また、それはコロナ前の“純烈体質”へ戻すための必要な作業でもあった。

◆「どんなにシンドくても全開でやろう」

 今年に入ってのステージは、1曲演っただけで「ヤバい」と思ったほどだった。ラウンドなしということは振付の比重が増えているから、コロナ前以上の体力が必要となる。

 そこで小田井は、御園座の『水戸黄門』へ臨むにあたり「どんなにシンドくても全開でやろう」と決めた。衣装より体の方が重く感じたほどだったが、公演も終盤に入った頃には戻ってきたという感触が得られた。

 その上でラウンドに限らず、酒井が言うところの「小田井さんのよけいなこと」をやらないようにするのはストレスがたまらないかと振ってみる。こういう質問をする時点で、それを求めてしまっているのだが。

「物事って、何か形があってその中でやっているうちは慣れていくからいいんだけど、新しい発見はないやないですか。今はできない中でやれることをやるうちに、新しいことができるんちゃうかという気持ちがちょこっとあるんで。ひょっとしたら、ステージで歌って踊ってパフォーマンスすることで何か楽しさを見いだせたら、元に戻った時に違う形ができるかもしれないとい思うと、何事も経験しておいた方がいいんやと思います。

 うずうずしないか? うん、お客さんとはコロナが収束すればふれあえますから。むしろパフォーマンスをキチッとやることは自分もトシとっているので今のうちしかできん。成長した自分になれていたらいいな……そう思ってやらないと、やれないですよ。老いていって何もできなくなるんやなあと思いながらやったって楽しくない。まだ扉が開くんやなと思ってやらないと……じっさいは開かんかもしれんけどな、ハハハハハ」

◆「この中から感染者が出たらどうしようという不安は拭えない」

 加えて、小田井の中にはもう一つの向き合うべきテーマがあった。これも、こちらの質問から広がっていった話。1月に有観客ライブを再開した以後、10本ほどのステージに上がっている。

 慣れではないが、続けていることによってコロナに対する不安は少しでも拭えたかどうか。これは年長の小田井に聞くのが適切だと思った。

「こうして大江戸までやっと来たなという思いとともに、不安もまだありますよ。現実的にもこの時期にまた増えてきている中で、無事に終えられるよう祈った上でやるのも本音で。正直、ステージに立って客席を見渡した時に、この中から感染者が出たらどうしようという不安は拭えないですね。というのも、ウチは慣れで気持ちを抜くことができないんです。

 というのも、去年末の紅白の前に奥さん(LiLiCo)のミュージカルの稽古が始まっていて。紅白3日前の時点で奥さんの方は3、4日に一回PCR検査受けていたんです。もしも紅白数日前に彼女が陽性と出た場合、僕は濃厚接触者として紅白に出られなくなるし、場合によっては純烈そのものが出られなくなってしまう可能性があった。だから結果が出るまでは、本当に祈るような気持ちでしたね」

◆夫婦で芸能人という宿命

 LiLiCoが出演する『ウェイトレス』は3月9日~30日の東京・日生劇場公演後、この大江戸温泉ライブの前日に福岡・博多座を経て15日より大阪・梅田芸術劇場、そして夫に続いて名古屋・御園座が待っていた。その最中、小田井がコロナに感染したら今度は妻の仕事を止めてしまい、舞台にかかわる人々へ迷惑をかけてしまう。

 ミュージカルに出演するのは、LiLiCoにとって子どもの頃からの夢だった。それがようやくかなったのだ。その喜びは、夫として共有できるものであるはず。

 有観客が再開し、感染者を出すことなく続いているからといって1ミリたりとも気が抜けない。それが夫婦揃って芸能界で生きる2人の宿命なのだ。

「グループの中に関してはいくらでも責任を取ることはできても、それが外まで出てしまうと……ただ、だからといってそれを理由に純烈の活動を止めることはしたくないんです。一人でやっていることなら自分で決めて、自分で責任を取れるけどグループとしてやっているわけやから。メンバーがいて、事務所がある中で決まったことをやっていくんで、その中に個人の事情が入る形では僕自身もやってほしくないし。

 やるんだったら、やるなりに気をつけることを前提にやる。だから今日、撮影会やることも言いました。彼女は『この状況でやるの!?』と驚いていましたけど、そのための対策をちゃんと施したうえだから、という説明もして。たとえば公演中は別々に住んだ方がいいのかもという話も出ました。今のところ別居はしていないですけど、それが必要になってきたらそこまで考えないといかんのですわ」

 慎重にならなければならない、されどやるからにはコロナで沈みがちな気持ちを開放させて、お客さんに楽しんでもらいたい。ここでも小田井は葛藤と向き合っている。

◆会見の最後に「ホント、どうでもいいわ!」

 そんな姿勢で大江戸温泉ライブに臨んだ小田井が、会見の最後に「ちょ、ちょっと! あのー、どうでもいいことなんですけど……」と前置きしたうえで食い込んできた。話題は前日に日本人初のマスターズトーナメント優勝を遂げたプロゴルファー・松山英樹について。その偉業に対するコメントを、リーダーが振られたところだった。

「女子プロゴルファーの方で、ジャンボ尾崎さんのお弟子さんでメチャクチャ飛ばす方がいるじゃないですか。原(英莉花)さんだったかな。あの人……三山ひろしさんにメッチャ似ているんですよ」

 白川による「ホント、どうでもいいわ!」というツッコミが、公開会見の締めとなった。

撮影/ヤナガワゴーッ!

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【鈴木健.txt】
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

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