【監督インタビュー】ドイツの衝撃作『ベルリン・アレクサンダープラッツ』人間が最も脆い瞬間、それは…

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5月20日(木)よりオンライン上映されるドイツ映画の新傑作『ベルリン・アレクサンダープラッツ』。数々の映画祭で高く評価された衝撃作を手掛けた監督ブルハン・クルバニへのインタビューの模様をお届け。作品誕生のきっかけや、作品に込めた思い、さらに来日時の思い出なども。

人生は甘くない。そんなことを痛感して日々生きている人がこの世にいる。“良い人間”になるべくもがき、戦い続ける男を描き、私たちを何気ない日常から引きずり出して心を掻き乱す映画がドイツからやってきた『ベルリン・アレクサンダープラッツ』だ。

本作は第70回ベルリン国際映画祭やストックホルム国際映画祭をはじめとする世界各国の映画賞で高い評価を獲得していた話題作。原作は1920年代に出版されたドイツ文学の巨匠アルフレート・デーブリーンの伝説的名作「ベルリン・アレクサンダー広場」。これまでに2度映像化されたことがある知る人ぞ知る名作だが、本作ではブルハン・クルバニ監督の大胆な解釈に基づき、まったく新しい「ベルリン・アレクサンダープラッツ」が誕生した。

©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

アルフレート・デーブリーンの「ベルリン・アレクサンダー広場」の主人公は従軍経験のあるドイツ人男性フランツ・ビーバーコフ。妻を衝動的に殺してしまった罪で刑期を果たし、出所したところから物語は始まる。

一方クルバニ監督の『ベルリン・アレクサンダープラッツ』の主人公は難民としてドイツに辿り着いた黒人青年フランシス。クルバニ監督は構想に7年という長い月日をかけ、原作で描かれる「過去に犯した罪を背負いつつ“良い”人間になろうと誓うが、社会環境にぶつかり犯罪社会へと滑り落ちる」男の物語はそのままに、舞台を現代に移し、登場人物の設定に変更を加え、見事に現代的な解釈で再構築した。

この度、クルバニ監督にインタビューを行い、作品誕生のきっかけや込めた思いなどを伺うことができた。

ドイツ文学の名作というだけあって小さい頃から原作に親しんでいたというクルバニ監督。高校の卒論の課題でもあったようで、2年間原作に向き合ったというが、当時は嫌いだったそう。しかし大人になってから作品の素晴らしい価値に気がつき、映像化にこぎ着けた。

かつて公園の近くに住んでいたことがある監督。その公園での体験が映画化のきっかけだったという。「その公園には子供も若者もお年寄りもいるが、一方でドラッグの売買も行われている。大抵ディーラーは黒人で黒人コミュニティにもなっている。そうすると家族連れの人たちなどにとって、黒人とドラッグや犯罪というものがイコールで結びついてしまうと気がついた。そのことに僕は嫌悪感を抱いたんだ。この男の物語を題材にしたいと思った時に、文学の柱とも言える「ベルリン・アレクサンダー広場」にしようと決めた。」

ドイツの中心部にあるアレクサンダー広場は、都会の中心、社会の中心ということ。軽犯罪者であり社会のはみ出し者である主人公のフランシスは、社会の中心を目指し“生きる”という選択を下す側になることを目指していく。

約3時間に及ぶ大作でありながら、観客を引き込み続ける役者たち。中でもフランシス役のウェルケット・ブンゲとラインホルト役のアルブレヒト・シュッヘの演技は高く評価され、バトゥミ国際映画祭 2020で主演男優賞をW受賞した。まず最初に候補にあがったのはアルブレヒトだったそう。「数年前に彼がネオナチのテロリストという暴力的な役を演じた映画を観て魅了されたんだ。スクリーンでの存在感とパワーが凄くて、役の悪魔的なエネルギーをすごく感じた。キャスティングの早い段階で彼に決めていたんだけど、返事をもらえるまで1年くらいかかって、ようやく撮影の2週間前にYESと言ってくれたんだ。“悪魔”を演じることが怖かったみたいだよ。」

©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

最終的にウェルケットという適任者を見つけるまでは約2年かかったというフランシス役の俳優探し。「ドイツやフランスやブリテンなどで俳優を探していた。そして南アフリカにまで行ったんだけどなかなか見つからなかった。2017年、ベルリン国際映画祭に『JOAQUIM(原題)』という作品でドイツに来ていたウェルケットを僕のキャスティングエージェントが見かけて絶対に連絡を取った方がいいと薦められて会ったんだ。最初彼は美しくて聡明で原作とはまったく違う佇まいだったから、僕は否定的だったんだけど、アルブレヒトと並んだ瞬間に驚いたよ。ケミストリーが生まれて他の選択肢は考えられなかった。」と、最終的には二人の相性が決め手だったことを明かした。作品作りを通して、主演二人だけでなくチーム全体が仲良しになったようで、今でもその関係は続いているという。

©️ Sabine Hackenberg, Sommerhaus Filmproduktion

作中の印象的なシーンのひとつに、フランシスの起床シーンがある。ドイツに辿り着き、人々と出会う度に新たな世界へ足を踏み入れていくフランシス。最終的にラインホルトと出会い、マフィアに落ちて稼ぎを得るまでは、悪運に足元をすくわれてばかりで、逃げたりその日暮らしをしたり転々とした生活を送っていた。毎朝ハッと目覚めると、そこはどこかわからない見覚えのない場所。“良い人間になる”ことを胸に誓い、人生のやり直しを試みる決意とは裏腹な不安定な生活を思わせるこのシーンは、強く記憶に残る。そもそも“良い人間”とは何なのか。監督に聞いてみると笑いながら次のような答えが返ってきた。

©️ Frédéric Batier, Sommerhaus Filmproduktion

「ちゃんと答えられるか自信がないけど、フランシスが思う“良い人間”というのは、正直であり、誠実であり、真っ当であり、神の愛に値するような生き方をできる人間ということ。キリスト教の訓えの中で考えられている“良い”に近いのだと思う。でももちろん彼はそれを追い続けることができない。ラインホルトがフランシスに「お前の欠点は良くない場所で良い人間になろうとしていること」だと言うように、その部分がまさにこのキャラクターの葛藤だと思う。」

©️ Sabine Hackenberg, Sommerhaus Filmproduktion

1980年、アフガニスタン人難民の息子としてドイツに生まれたクルバニ監督。自身の体験が作品にも反映されている。それは難民としてドイツへやってきた直接的な共通点をもつフランシスというキャラクター像だけではない。「難民の体験というのは、ひとくくりにはできないと思う。それぞれに自分が望む場所へ辿り着くためのみちのりや旅、トラウマがある。自分が監督として生み出す作品やキャラクターたちを繋げているものは、異邦人の物語であること。見た目が違ったり、学んできたことや得てきた知識が一切通用しない世界だったり、自分というシステムを作りかえなければならない。その瞬間はとても脆いものだけど、僕はすごく興味がある。この作品の中でフランシスもそういう瞬間をもっているから共感できるけど、ラインホルトにも共感できるよ。彼は壊れてしまった男なんだ。ドイツ人なのに、自分の社会からのけ者にされていると感じている。でも僕は監督として、全部のキャラクターの痛みや苦しみに寄り添いたいと思っている。そうすることで作品が普遍的になり、願わくば日本の観客のみなさんにも同じように響いてくれるといいなと思う。」

今回のインタビューはオンラインで行われたためドイツからの参加となったクルバニ監督だが、「すごく日本が恋しいよ。いま日本にいられたらいいのに」と嬉しい言葉をくれた。6年ほど前に来日したことがあるそうで、「何度か歌舞伎を見たんだけど、ラインホルトの演技は少し歌舞伎に通じるものがあると思うんだ。大きな動きで昔風の少し誇張された演技で。違ったら違うって言ってね(笑)」と日本での体験と作品との繋がりを明かした。

正直、最初は本作に戸惑ってしまうかもしれない。あまりにも辛い不運が積み重なり、救いようがない境遇から抜け出せず、むしろ乗り越えようとぶつかっていかなければならない主人公を受け止めきれない気持ちになるのだ。映画を観る時というのは、登場人物に自分を重ね合わせたりして、共感することで楽しみの幅が広がるものだが、本作では共感というよりも、すがるような応援に近いかもしれない。時代が変わろうとも、変わることのない社会構造によって不幸な思いをしている人々を、そうした人々を生み出す社会の現状を剥き出しにする『ベルリン・アレクサンダープラッツ』をぜひご覧いただき、クルバニ監督が込めた思いを感じ取ってほしい。

『ベルリン・アレクサンダープラッツ』
5月20日(木)よりMIRAIL(ミレール)、Amazon Prime Video、U-NEXTにてオンライン上映

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  • 5/13 12:00
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