【勝負の分かれ目 NHKマイルC】ルメール騎手の冷静なエスコートでマイル界の新スター誕生
ゲートが開いた次の瞬間、3番人気のバスラットレオンが躓き、藤岡佑介が落馬した。馬が額を地面につけるほどの躓き方だったので、騎手が手綱から手を離しでもしない限り、落馬は避けられなかっただろう。
ランドオブリバティが最も速いスタートを切り、体半分ほど抜け出した。鞍上の石橋脩は手綱を引いて抑え、外のピクシーナイト、ホウオウアマゾンらを先に行かせる。
川田将雅が乗る1番人気のグレナディアガーズはそれらから2馬身ほど遅れた6番手。タイムトゥヘヴン、ソングラインがマークするようにつづく。
クリストフ・ルメールが騎乗する2番人気のシュネルマイスターは、さらに3、4馬身離れた中団につけている。
「馬にプレッシャーをかけたくなかった。いいスタートを切ったけど、ペースが速く、シュネルマイスターには忙しかった。でも、だんだん流れに乗れました」
ルメールがそう話したように、逃げると思われたバスラットレオンがいなくなっても流れは速くなった。
前半800mは45秒3。
ピクシーナイトが先頭のまま3、4コーナーを回って行く。
外からグレナディアガーズが楽な手応えで進出し、先頭に並びかけるほどの勢いで直線に向いた。その2馬身ほど後ろに池添謙一のソングラインがおり、さらにシュネルマイスターがつづく。
ラスト400m付近で川田がゴーサインを出し、グレナディアガーズがスパートした。その外にソングラインが併せに行き、ラスト200m地点で僅かに前に出た。
その攻防を後ろから見ていたルメールはこう振り返る。
「エンジンがかかるのにちょっと時間がかかりましたけど、池添さんの馬(ソングライン)がちょうどいい目標になりました」
ソングラインが完全に抜け出してゴールを目指す。その外からシュネルマイスターが1完歩ごとに差を詰める。
ルメールの左鞭に応えて末脚を伸ばしたシュネルマイスターが内のソングラインに並びかけ、鼻面を揃えたところがゴールだった。
シュネルマイスターがハナ差で差し切り、20年ぶりとなる、外国産馬によるNHKマイルカップ制覇を果たした。
「2着の馬はちょっとモタれていたと思いますので、そのぶんかわすことができました。届いてくれてよかったです」
そう話したルメールの冷静なエスコートにより、マイル界に新たなスターが誕生した。
(文:島田明宏)