【Review】日韓問題を背景に言語を超越した‘‘愛の形’’を映し出す『アジアの天使』(2021)

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2021年7月2日よりテアトル新宿ほか全国公開の映画『アジアの天使』は、オール韓国ロケで製作された意欲作。溝が深まる一方の「日韓問題」を背景に、言語や人種を超越した‘‘愛の形’’が描き出される。

2013年の映画『舟を編む』で史上最年少となる日本アカデミー賞監督賞を受賞した、日本映画界屈指の実力派映画監督の石井裕也が新境地を開拓した。
これまでも『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017)や『町田くんの世界』(2019)などで強烈な印象を残してきたが、最新作『アジアの天使』ではオール韓国ロケという新たな試みに挑戦。
寒々しい韓国の風景をハッキリと映し出し、登場人物の感情を浮き彫りにする。まさに韓国という異国の地での撮影が石井裕也という映画監督の可能性を広げたような印象を受ける。
ロケ地だけではない。本作に参加しているスタッフのほとんどは韓国チームで構成されている。
日本映画でありながら、ここまで海外の力を結集させて作り上げた作品も珍しい。
映画『アジアの天使』は、まさに日韓それぞれの個性を併せ持った作品と言えるのだ。

決死の覚悟で韓国へとやって来たシングルファーザーを待っていた現実

『アジアの天使』(2021)

© 2021 The Asian Angel Film Partners

妻を亡くし、男手一つで幼い息子を育てる青木剛(池松壮亮)は、韓国で生活をする兄の透(オダギリジョー)に「仕事がある」と誘われ、決死の覚悟を持って、韓国へとやってくる。
無事に韓国へとたどり着いた剛であったが、ある出来事をきっかけに兄共々仕事を失ってしまう、
途方に暮れる剛と透であったが、韓国産ワカメが一獲千金のチャンスであることに気がつき、鈍行の列車に乗り込む。
その列車には、歌手としての成功を夢見ながらも、事務所の社長に身体のみの関係しか求められていないことを知ってしまったチェ・ソル(チェ・ヒソ)と兄妹たちも乗り合わせていた。
彼らは母の墓参りへと向かう道中で、ひょんなことから、剛と透、そして剛の息子の3人と出会う。
それぞれの人生が交錯し、目的地を目指すことになった彼らの特別な旅路が幕を開ける・・・。

日韓の不安定な関係性を背景に描く‘‘愛の形’’

『アジアの天使』(2021)

© 2021 The Asian Angel Film Partners

日本と韓国の歴史には、とても難しい問題が根づいている。
それは安易に言葉では言い表せないものであり、どちらかが何かを言えば、どちらかの反感を買ってしまう。現代の「日韓問題」はその繰り返しであるように思う。
そんな不安定な関係性を背景にしながら、とある日本人と韓国人の‘‘愛’’を描いた作品が本作。

『アジアの天使』(2021)

© 2021 The Asian Angel Film Partners

妻を亡くし、一人息子を抱えて韓国へやってきた日本人男性と歌手としての成功を夢見るもなかなか上手くいかない人生を送る韓国人女性。
言語も国籍も違う男女が感情を共有するようになり、次第に心を通わせていく。
その描写が非常に小気味よく、しっかりと細部まで丁寧に表現されているのだ。
本作の登場人物は皆が皆、誰かもしくは何かを失っており、‘‘愛’’を求めている。
それぞれの人生が交錯し、共鳴し合う様子から、言語や人種が異なっていても、同じ人間なんだということを印象づけるのである。
日本と韓国、お互いの国に対して良い印象を持たない人々がいるのは事実。
「日韓問題」を上手く絡ませた人間ドラマに新鮮味を覚えた次第である。

オダギリジョーの渋い存在感が光る!

主演の池松壮亮は無機質な演技が逆に自然味を帯びており、一定以上の喜怒哀楽を示さない役柄を好演している。

『アジアの天使』(2021)

© 2021 The Asian Angel Film Partners

そんな主人公の兄を演じるオダギリジョーの渋い演技がなかなか良く、チャランポランなキャラクターであるが、責任感の強さを感じさせる奥深い表情も印象深い。
オダギリと言えば、キャリア初期から個性派俳優としての実力を大いに発揮してきた男であるが、本作で魅せる存在感もまた、容姿も含めて非常に個性が光っている。
セリフの節々から説得力が滲み出ており、仕草の一つ一つがダメ兄貴っぷりを醸し出しているのだ。
流暢な韓国語での演技も披露しており、改めて国際派俳優としての力量を感じさせられた次第である。

ヒロインのソル役に扮したチェ・ヒソの演技も評価したい。

『アジアの天使』(2021)

© 2021 The Asian Angel Film Partners

実力派女優の片鱗を感じさせる見事な感情表現が最大の魅力ではあるのだが、中でもより強烈な印象が残っているのは、その食事シーンだ。
本作は、韓国家庭の食卓を見事に映し出している印象があるのだが、チェ・ヒソの豪快な食べっぷりが何とも好感が持てるのだ。
こういった食事シーンでは変に女優であることを意識しすぎて、自然な演技ができていない役者が多い中で、ここまでありのままの食事を見せてくれたことに拍手を送りたいほどだ。一見の価値ありと言えるだろう。

また、本作のタイトルにもなっている「アジアの天使」を演じている芹澤興人の存在も面白い。
西洋の天使は美男美女であることが多いが、本作におけるアジアの天使は‘‘ヘンな顔’’なのだ。
ほんの一瞬の登場ではあるのだが、演じる芹澤の魅力が大いに発揮されたキャラクターだと言えるだろう。


日本映画ファンも韓国映画ファンも楽しめること請け合いの映画『アジアの天使』。
ちょっとした韓国旅行に行った気分に浸れるところもまた魅力的な一本である。

(文・構成:zash)

『アジアの天使』2021年7月2日(金)テアトル新宿ほか全国公開

池松壮亮 チェ・ヒソ オダギリジョー
キム・ミンジェ キム・イェウン 佐藤凌
脚本・監督:石井裕也
エグゼクティブプロデューサー:飯田雅裕 プロデューサー:永井拓郎、パク・ジョンボム、オ・ジユン
撮影監督:キム・ジョンソン 音楽:パク・イニョン
製作:『アジアの天使』フィルムパートナーズ (朝日新聞社、RIKI プロジェクト、D.O.CINEMA、北海道文化放送、UNITED
PRODUCTIONS、ひかり TV、カラーバード)
制作プロダクション:RIKI プロジェクト、SECONDWIND FILM 配給・宣伝:クロックワークス
助成:文化庁ロゴ 文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
KOFIC、ソウルフィルムコミッション、カンウォンドフィルムコミッション
© 2021 The Asian Angel Film Partners

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