話題のガン闘病漫画、「転んでもタダでは起きるものか!」という思いがあった

「38歳職業エロ漫画家。ある日突然、腹が減る。」と思っていたら、【大腸ガンのステージ4】だった!

 BL漫画家の「ひるなま」さん(@daicho_polaris)が、自らの闘病体験を描いた漫画『末期ガンでも元気です 38歳エロ漫画家、大腸がんになる』(フレックスコミックス)が、2月の発売以来、話題を集め続けています。

 現在も闘病を続ける「ひるなま」さんにインタビュー。前後編に分けてお届けします。

◆『鳥獣戯画』風のキャラクターにしたワケ

――『鳥獣戯画』風の愛らしいウサギやカエルたちが目に飛び込み、とても手に取りやすいです。

ひるなまさん(以下、敬称略)「そう言っていただけると嬉しいです。病名が“大腸ガン”ですので、詳しく描くにはどうしても、肛門だのお通じだの吐き気だのを描くことになってしまいます。でも大事なそれを避けたくはなかった。かといって読んだ人を苦しくさせてはいけないので、楽しく読んでもらえるるように生々しさを緩和しようと考えて、こうなりました

――「プロレス好き」だという「夫」さんの絵柄も可愛らしいですね。漫画で闘病記を描くと決めたとき、「夫」さんの反応はどんなものでしたか?

ひるなま「『この体験を漫画に描きたいので、登場させてもいいか』と聞くと快諾してくれたので、『許容する人物像の描かれ方』『コスチュームはショートタイツでいいのか』など何点か質問と確認をしました。細かい企画内容などの公開前情報は家族にも見せませんが、『体験談はきっと少なからず人の役に立つだろう』と夫は非常に積極的に応援してくれました」

◆専門用語は平易な言い換えではなく、あえてそのまま

――読み始めると、画力の高さとともに、構成力、物語の力にぐいぐい引っ張られます。描き進めるうえで、「読ませること」へどんな意識を配りましたか?

ひるなま「『病院で聞いた単語をできるだけそのまま使う』ということには気をつけていました。同じガンでお困りの方がこの本を読んだ時、専門用語は平易な言い換えではなくそのままのほうが、いざ病院で聞き慣れない単語に囲まれた時の恐怖や不安を解消するのに役立ていただけるかなと」

――なるほど。確かにそうですね。編集部との話し合いのなかで、変更していった部分はありますか?

ひるなま「編集さんは、“わかりやすさと専門性”のバランスを適切に見てくださる方で、『わかりにくい部分』『注釈がほしい部分』などを指摘してもらいました。その反面、キャラクターの造形や全体の構成などは、ほとんど私の好きにさせてもらえたので、大きな変更は特になかったと思います」

◆虐待の話は二度三度とネームを練り直した

――執筆していくうえで、最も描きやすかったくだりと、最も時間がかかったエピソードを教えてください。

ひるなま「描きやすさは全体的に変わりませんでしたが、時間がかかったのは(ひるなまさんのバックボーンが描かれる)5話の虐待の話です。最初はもっと、恨みがましくネチネチとした描き方だったのですが、編集さんのアドバイスでネームの練り直しを二度三度と行い、その当時は正直かなり疲れました(笑)

 でも結果、生々しさを削ぎ淡々とした表現に留めてよかったです。あれは本当に、私の一番描きたいテーマを編集さんが理解し、誠実に原稿を見て下さったおかげだと、あとから痛切に感謝しました」

――漫画を描いて世に出すのだという思いは、入院中、それ以後も大きな力になりましたか?

ひるなま「そうですね。入院中はほぼずっと痛みとの闘いでして、特に術後の全く身動きが取れず虚空を見つめているしかない日などは、動かせるのが脳だけなので日がな一日『なぜ私がこんな目に』とネガティブな思考が頭を駆け巡ってしまって……。そんな時は『転んでもタダでは起きるものか!』という思いだけが、すがれるものでした」

◆医療関係者からの高評価に、妙な心配も

――作品を発表して、読者の反応で驚いたことなどはありますか?

ひるなま「意外と多く頂いて驚くのが、『今日ガンの告知を受けた』『明日から入院』『来週手術を受ける』といった、今まさにガンと向き合う瞬間にいる方からの沢山のお声です。執筆時、大腸ガンだけでも、日本で毎年15万人が診断されると知って、その数の膨大さをにわかには信じられなかったのですが……。本当に、毎日毎日こんなにたくさんの人がガンを告げられているの!?と実感させられています」

――医療関係者からの反応はどうでしたか?

ひるなま「予想外だったのは、医師など様々な医療関係の方が、当作の表現や内容に過分な好意的評価を下さったことです。お勤め先の医院などに当書を置いてくださるというお便りも意外なほどいただいてまして、タイトルに『エロ漫画家』なんて入っていますけど大丈夫!?と、嬉しいけれど妙な心配をしております(笑)

 後編では「初めてストーリー漫画を描いたのは29歳のときだった」という驚きの経歴や、闘病生活は、『「日常をどう保つか」が大切』と語るひるなまさんに、さらに迫ります!

<取材・文/望月ふみ>

【望月ふみ】

70年代生まれのライター。ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画系を軸にエンタメネタを執筆。現在はインタビューを中心に活動中。@mochi_fumi

2021/5/5 8:45

こちらも注目

新着記事

人気画像ランキング

※記事の無断転載を禁じます