「夫が女に夢中だと知っていたけれど、まさか…」想像以上にショッキングな興信所からの結果とは

結婚しても子どもを持たないという選択は、もう特別なものでもない。

“2人”が、家族のかたち。

明るい未来を信じて、そう決断する夫婦も多い。

それでも…悪気のないプレッシャーや、風当たりの強さに、気持ちがかき乱されることがある。

これは、3人の女が「夫婦、2人で生きていく」と決めるまでの、

選択と、葛藤と、幸せの物語。

◆これまでのあらすじ

「対等な関係で、プライベートは干渉し合わない」という主義の夫に合わせることに限界を感じ始めた真琴。ちらつく女の影を、見て見ぬ振りをするのも限界だった。ついに真琴は行動を起こし…

▶前回:「寝室を分けて、もう何年だろう…」夜しのび込んできた妻に、夫がとったひどすぎる仕打ち


― こんなわかりやすい決意表明するなんて…。

真琴は興信所に依頼し、浮気の証拠現場を押さえるための手はずを組んだ。

亜里沙という女と男女関係にあることは、明らかだ。樹は大して隠すつもりもないのだろうから、きっとすぐに現場は押さえられる。

「夫婦間でもプライバシーが一番大切」と常日頃豪語している樹にとって、興信所に隠し撮りされるなど許しがたい行為だろう。

即離婚と言われる覚悟もできているし、そうなる可能性は限りなく高い。樹がコソコソしていない以上、地道に真琴が証拠を集めることも可能なはず。ただ、真琴は“知りたい”わけではない。ただ、話し合うための“手段”が必要だったのだ。

「真琴。色々と落ち着いたらまたゆっくり旅をしたいな」

真琴は夜遅く、薄暗いリビングで一人ワインを飲んでいた。どこからか帰宅した樹はやけに上機嫌で、弾んだ声で真琴に声をかけた。

「そうね…」

旅に行けば、触れてくれるのだろうか。抱き合って眠るのだろうか。真琴はぼんやりとそんなことを考えながら曖昧な返事をした。

「しばらく海外にも行けなそうだけど、行けるようになったらぱぁっと贅沢しよう。ヨーロッパ周遊なんてどうかな。五つ星ホテルに泊まってさ」

「私は…また、バックパッカーでバンコクに行きたいな。ボロボロのゲストハウスの二段ベッドで、生ぬるい瓶ビールを一緒に飲みたい」

「…え?」

言った瞬間、なぜか涙がこぼれそうになる。慌てて立ち上がり、一人自室へ向かった。

真琴の次なる行動は?

数日後、興信所からはすぐに「しっかり現場を押さえました」と連絡がきた。亜里沙という女性と、手を繋いで歩く様子もホテルに入るところも、写真に収めることができたそうだ。

「ご主人は、まるで人目を気にする様子がなく、逆に驚きました。離婚するにせよ、相手方にも慰謝料を請求するにせよ、十分な証拠になると思います」

と、興信所の人間に太鼓判を押されるほどの、立派な不倫案件だった。受け取った封筒を、開ける気力さえ起きなかった。女がいるのはわかっていたことだが、現実を突きつけられるのは受け入れがたい。封を切らぬままクローゼットにしまい込み、そのタイミングを待った。

それからも仕事は一緒にこなしていた。平常心を保てていることが自分でも不思議だったが、建築家として、共同経営者としての尊敬の思いはむしろ強まるばかりだった。

もし離婚することになったら、この会社はどうなるんだろう?解散?それとも離婚後も一緒に働く?

これは一人で決めることではないし、考えても仕方のないことだ。ただ、樹と一緒にいると自分は逃げ回ってしまうし、彼ははぐらかし続ける。きちんと向き合うためには、証拠と物理的な距離が必要なのだ。

樹は地方での仕事が入り、しばらく戻らない。真琴は、変わらず都内での仕事だ。そのタイミングで真琴は荷造りをし、平塚の実家へ戻った。

興信所から受け取った写真は、リビングのテーブルに広げて置いた。そのときようやく目にしたが、若く綺麗な女性と樹が連れ立って歩いているものや、食事を楽しむ姿、車に乗り込む様子、そしてホテルに入る様子だった。

浮気していることはわかっていたので、それについての覚悟はとっくにできている。ただショックなのは、樹が満面の笑みだったことだ。若く美しい女性と手を繋ぎ、肩を抱き、優しげな眼差しを送っていた。

写真の2人は、愛し合う幸せな恋人同士にしか見えない。真琴は、あまりに惨めだった。妻としてのプライドはガタガタだ。怒りという感情は全く湧かず、悲しみと情けなさだけがこみ上げる。

家を離れるのに十分な理由だった。

「離婚」という覚悟を胸に、真琴はマンションを後にした。


「あら?樹くんと喧嘩でもした?」

実家の母は、玄関で真琴を迎えるなり、明るい調子で言った。

「まあ、そんな感じ」

深刻な事態を隠したくて、まるで思春期の十代のようなぶっきらぼうな答え方をしてしまう。母親はその様子を見て愛おしそうに笑い、こんなことを言った。

「あいかわらず、真琴と樹くんってきょうだいみたいよね。喧嘩もじゃれあってるみたいなもんでしょ」

「そう。まるで友達っていうか、きょうだいっていうか…」

そう言ったとたん、急にはらりと涙がこぼれ落ちる。自分でも驚いて、真琴は慌てて涙を拭った。

ごまかして拭おうとするも、一度こぼれた涙を止めることはできず、慌てて母親から顔を背ける。…が、ごまかせるはずもない。

「あれ?ごめん。どうしたんだろう、私…」

母親は何も言わず、黙って落ち着くのを待ってくれた。その心遣いが優しく、涙がとめどなく溢れ始める。

「しばらくここにいなさい」

「ありがとう。…そのつもりで、荷物送っちゃった。仕事は通えるから大丈夫」

夫婦仲がうまくいっていない様子は一目瞭然だが、母親がこれ以上詮索することはなかった。しばらく傍で真琴の様子を見守ると、そっと手を取って温もりを伝えてくれた。

そのとき、ぽろりとこんな言葉が溢れた。

「お母さん。…私、お母さんに孫を見せられないかも」

母親は黙って真琴の手を握ったままその手をさすり続けると、しばらくたってこう言った。

樹とついに向かい合うが…

「何言ってんのよ。あなたの人生なんだから、お母さんのことは気にしないの。私はあなたが幸せなら、それが一番なのよ。…ま、その顔じゃとても幸せそうには見えないけど」

真琴はぐちゃぐちゃの顔を母親に向け、なんとも弱気な笑顔を見せた。

母に孫を見せなくては…なんてプレッシャーはこれまで感じたことはなかった。第一、真琴には二人の子を持つシングルマザーの姉がいて、母は孫のケアでほぼ子育て真っ最中状態だ。

もちろん真琴の子どもが生まれれば喜んで可愛がってくれるだろうが、涙にくれて待ち望んでいるというわけでもない。

それなのに、真琴が勝手にこんな風に思い詰めるなんて、よほど苦しい証拠だった。

「ごめんね、お母さん。びっくりさせて。樹と話し合わなきゃいけないことがあって、今戦闘態勢を整えてるところなの」

「戦闘態勢とは物騒ね。お母さん力になれるかしら?足手まといになったりして」

ノリの良い母の軽口に救われて、徐々に笑顔を取り戻す。

「もしかして離婚って可能性もあるし、子どもを持たずに夫婦2人で生きていく決意をするかもしれない。もちろん、子どもを持つって話になるかもしれないし、本当になにもわからないんだけど…」

言葉にしてようやく見えてくる状況に、真琴は気づく。

「何が問題なのか、何を解決したいのかわからないのがそもそもの問題だよね。だから、そこを明確にした上で話し合わないと」

そう語る真琴に向かって、母親は優しい眼差しを送った。

「それも大事だし、自分がどうしたいのか見失わないようにね」

母親は事情を無理に聞き出すことなく、大切な言葉をくれた。

問題を明確にすること、そして自分がどうしたいのか。

実家で過ごす日々の中で、何度も何度も自問自答した。


―まずは一つずつ問題を解決していかないと。

いよいよ樹が出張から戻る日、つまり浮気の証拠が突きつけられる日を迎えた。

もちろん、なんらかのリアクションはあるだろう。それに仕事は何があろうと一緒にするのだ。お互い“逃げ回る”という選択はない。

仕事のない土曜日だった。実家のインターホンが鳴り、母親が対応する。そして、居間に戻ってくるなり、真琴に状況を伝えた。

「樹くんが来てる。どうする?」

話し合う機会ができるとは思ったが、まさか実家に駆けつけるとまではまったく考えていなかった。

真琴は驚き、しばらく黙り込む。

「真琴、樹くんには帰ってもらうようにお母さんから…」

「ううん。会って話すわ」

「そう…。お母さんとお父さんも同席する?それとも…」

「大丈夫。まずは2人で話すよ」

決意を固めた真琴の眼差しは強い。意思を尊重した母親は樹を居間へ通し、その場を後にする。

いよいよふたりは向かい合った。樹の固く結ばれた口元から、その気持ちを察することはできなかった。

先に口を開いたのは真琴だった。

「まず最初に一番大切なことを伝えるわ。私は出会った日から今日までずっと、あなたのことが好きです。その気持ちが揺らいだことはないわ」

その言葉を聞き、ようやく樹も重い口を開いた。

「俺は…」

続く言葉に、真琴は再び言葉を失うのだった。


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2人は予想外の決着の時を迎えることに…

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